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緋色の時  作者: 長雪 ぺちか
第1章 緋色の音
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第2話 教室の隅っこ

給食が終わり休み時間になる。

この時間は大抵、仲の良い人の席まで行ったり、はたまた仲の良い人が自分の席に来たりなんかして、「〇〇ちゃん遊ぼう」とかいう会話を皮切りに教室を飛び出したり飛び出さなかったりする時間だ。

私はそのどれにも属することなく、教室の隅っこで小さくため息をついた。


教室を見渡すと、まだ学校が始まったばかりだというのに行くつかの小グループが形成されていて、各々楽しそうに会話したりしている。

普段より人数が少ないのは外に遊びに出ている男子たちがいないからだ。

どうしてみんな、こんな短時間で友達ができるのだろう? 不正なツールでも使ってるのではないだろうか? と訝しんでみたりするものの、少し考えれば小学校までの仲良しグループがそのまま継続しているだけなので、不正も何も、実に真っ当で順当な結果だった。


どうにか、私の出身小学校以外で友達がいなそうな人を探そうとはしてみたけど、運が悪いことに私のクラスにはそれっぽい人はいなかった。正確に言えばそれっぽい女子はいなかった。

雲ひとつない空から視線を前に持っていくと、メガネをかけて如何にも勉強が出来そうなオーラを放つ男子が席に座って勉強をしていた。フルネームは知らないけど苗字は『伊藤』だったはず。何せ、私のクラスには『石岡』が一人、その後に『伊藤』が2人、その後ろに『岩間』が1人とかいう苗字編成で、それのお陰で名前の順でその次に当たる私こと『内原』が5番目で窓際最後列という主人公席を獲得できたのだけど、そんな話はどうでも良いのだけど、とにかく私の前に座る人の半分は『伊藤』さんなのだ。

彼もひとりぼっちだから話しかけたら友達になれるかもしれない。でも、いきなり男子に声をかけるのはちょっとハードルが高すぎる。周りからしたら、中学校になって彼氏が欲しくなってむやみやたらに男子に声をかけるギャルっぽくみられてしまうかもしれない。容姿的にそれはないか。


結局のところ、相手がひとりぼっちと分かっても話しかける勇気がない私はただぼーっと、勉強をするわけでもなく空を眺めたりしていた。天気がいいので本を読んだり、お昼寝をしたい気持ちはあるけど、それをしてしまうと友達ができにくいという話を聞いたことがあるので、何もせずにいつでも話しかけて大丈夫ですよというオーラを全身から放つことにしていた。

それだけじゃない。私の机の上には今、朝の会で配られた入部届けが置いてある。

これはトラップだ。

実際のところ、私はもうほとんど、どの部活に入ろうかということは決めている。

だけど今、空を眺めたりなんかして、如何にも『部活動を迷っている』風を装っているのだ。

つまり、どこでもいいけど部活に入ろうとしている女子生徒が「内原さんだっけ? 内原さんもどの部活入ろうか迷っているの?」と聞いてきたところにカウンターで「うん。今卓球部が気になってるんだけど、友達もいないし迷ってるんだ」とか返して「じゃあ、一緒に入ろうよ。よろしくね内原さん!」となることを期待しているのだ。

ここまで上手くいかなくても、なんか色々あって友達ができそうだ。


そういえば、まだ部活動の入部届けに何も書いていないことを思い出した。

一応、入部先は決めているし卓球部とだけ書いておこう。

私は普段書き慣れない『卓』という漢字をぎこちなく書くと鉛筆を置いた。


鉛筆を置いた時に肘が消しゴムに当たる。私は消しゴムが床に落ちる前に空中でキャッチした。

反射的にしてしまったが私はそこでミスに気づく。

『消しゴムが落ちて拾ってもらう』というイベントを私はみすみす逃してしまった。

あわわわわ……どうしてこんなミスを……

ここまで完璧だった計画がガラガラと音を立てて崩れていくようなイメージが脳裏に浮かんだ。


「やって…………しまった……もう……」

「ねえ、どこの部活に入るか迷っているの?」

「う、うん…………って、えっ……」


不意に声がした。

その中性的な声のする方に私は振り向く。

短めの髪で可愛いよりも美人めな顔立ち。

彼女を私はどこかで見たことがある。

そうだ彼女は……


「あっ! 卓球部希望だった!? だったら話が早いや。私も卓球部入るんだ。一緒に入ろうよ」

「えっ……あっ……うん…………」


彼女は私が昨日話しかけようとしていた隣のクラスの子だ。

彼女から先制攻撃をくらい、上手く話せない私。

思ったような運命的な始まりではなかったが、私の思惑通り一緒に卓球部に入ってくれる子が降ってきた。

一度、深く深呼吸をする。

久しぶりに、家族以外の人と話をする機会に恵まれて喉がびっくりしている。

頭の中ではこんなにも話せるのに、いざ口にしようとすると動かない。

それでも、絞り出すように自己紹介をしようと努力する。


「あなたは……?」

「私は常盤紡金ときわつむぎ。クラスは隣のD組だよ。よろしくね」

「と……常盤さん……」

「嫌だなーこれから同じ部活にはいるんだから名前で呼んでよ。紡金でいいよ。それであなたの名前は?」


ヤバい! そういうタイプの女の子か! 人との距離が近い系の女の子だ!

とはいえ、綺麗で、快活そうな見た目的にも彼女の言動はしっくりくるため、昨日の私はどうして彼女に話しかけようとしていたのだと少し自分が信じられなくなってしまった。

下の名前を呼ぶなんて初めてだから緊張する。


「う、うん…………紡金ちゃん。私は、内原緋色……です」

「緋色ちゃんね。今日放課後暇? 部活見学しに行こうよ。帰りの会終わったらC組行くねー」

「ひゃっ…………うん。また……放課後に」


下の名前で呼ばれて私の心臓は跳ね上がる。

もう6年間されなかったことをことごとくされて、たった1分程度の会話だというのに疲れてしまった。

紡金ちゃんは明るい笑顔のままこちらに手を振ると教室を後にする。


彼女が教室を出た後、私は胸に手を当てて呼吸を整えた。

思ったのとは違かったけど、友達が…………友達ができた! たぶん!

まだ、友達候補感は否めないけど……このまま一緒に部活に入れば、きっと放課後は一緒に練習したり、練習の後にショッピングしたり、色々したりするのかもしれない。

起きてもいないことを今から想像して胸が高鳴っている。

私は内心ガッツポーズを決めながら、記入途中だった入部届けに、サラサラと筆を走らせるのであった。



その日の放課後、彼女は宣言通り私のクラスにやってきた。

隣のクラスは帰りの会が早く終わったらしく、本当に帰りの会が終わってすぐにだ。

クラスの中で、紡金ちゃんと同じ小学校だったと思わしき子が彼女に手を振っていた。

紡金ちゃんはその子と一言二言話すと、真っ直ぐこちらに歩いてきた。


「緋色ちゃんさっきぶり。それじゃあ見学行こっか」

「ちょっと待って…………準備、するから」


私は急いで机の中に入っていた教科書をスクールバッグに入れて支度をする。

支度をしながら、私は紡金ちゃんがスクールバッグとは別に見たことない小さなバッグを持っているのに気付いた。

微妙な厚さのバッグだ。体育館用の靴が入ってるのかもしれない。

私はまだ体育館履きを学校に持ってきていないので、少し失敗してしまったなと思った。

卓球部の活動している、体育館のとなりに設置されている小体育館も体育館履きが必要なのかもしれない。

見学だけならなんとかならないだろうか。

そんなことを考えつつも、もしダメだったらそのときだと割り切り、私は紡金ちゃんの後を追った。


私たちのクラスのある本校舎から小体育館はそこまで遠くない。

そんな短い距離だというのに、誰かと歩くとそれが長く感じる。

二人の間に流れる沈黙がなんとも申し訳なく私には感じた。

紡金ちゃんの顔を見上げるようにしてみると、彼女は何も不満そうなところはなく、ただ淡々と歩いていた。

友達ができたことがないからわからないけど、友達というのは実は思っていたよりサバサバとした関係なのかもしれない。

友達慣れというやつかもしれない。友達に目新しさを感じないのだ。

友達上級者は友達が隣にいるからといって必ずしも話しかけなくてもいいとか、そういう老年夫婦の域にまで達しているのだろう。

紡金ちゃんはさっきの様子だと小学校の頃から友達が多かっただろうし。


お互いに話をすることなく体育館まで行くかと思いきや、会話は突然やってきた。


「そうだ、緋色ちゃんって反射神経って良い方だと思う?」

「えっ…………反射神経は……どうだろう…………意識したことないから……」

「そう。私は、緋色ちゃんは結構反射神経いいと思うな。教室で声かけたの、それがきっかけだし。ほら、卓球するなら運動神経より反射神経だからさ」

「そ、そうなの……? えっと…………紡金ちゃん、詳しいんだね」

「私、こう見えても経験者だから。だから緋色ちゃんには私が教えられることみんな教えてあげるね」


振り向いてニカッと彼女が笑う。

まさかの展開だった。小学校のうちから習い事で卓球をしている人がいるとは予想外だった。小学校の頃の習い事といえばピアノお習字そろばんくらいしかイメージにない。後、男の子ならサッカーと野球。


「紡金ちゃん、経験者……なんだ。どうして……小学校から卓球してたの……?」

「どうして? うーん、好きだからとか楽しいからとかかなー? 打てるようになってくるとね、面白いんだよ」

「そ、そうなんだ……私も上手になれるといいな……」

「それは緋色ちゃん次第だね。私も練習付き合うから、一緒に頑張ろ」

「う、うん…………!」


紡金ちゃんが差し出した手を私は握る。

どうしよう。すごく友達っぽい。もう完全に友達だ!

にやけて赤くなった顔を隠すように、私はうつむきながらもギュッと手に力を込める。

紡金ちゃんの手はヒンヤリとしていてちょっと気持ちが良かった。


小体育館に近づいていくにつれて、例の音が耳に入ってきた。

コンコンとピンポン球が跳ねる音が、小体育館に続く廊下の中に響いている。

段々と、空気が淀んでいくのを感じた。

ついに小体育館の扉の前まで到着した。

青緑色の重たい扉が少し開いていて、隙間から中の様子がうかがえる。

中には卓球台が並べられ、何人かの部員が、説明会でやっていたようにラリーをしていた。

よくみると、小体育館入り口の向かいにある扉の台には、張替先輩もいる。

彼と打っているのは説明会の時と同じ先輩だ。

もしかしたらいつも二人でペアになって練習しているのかもしれない。

私がこっそり覗いていると、紡金ちゃんは扉をガラガラと開けた。

紡金ちゃんとはまだ少ししか関わっていないけど彼女のことは段々とよくわかってきた。彼女はとても度胸のある子だ。わたしとは正反対。


まず、紡金ちゃんが中に入り、その後にコソコソと私はくっついていく。

顧問の先生はいないようで、ズカズカと入って行く紡金ちゃんに入り口に一番近い台で練習していた女子の先輩が話しかけてきた。


「もしかして見学!? うわーすごい美人さんだー」

「後ろの子も是非見学していってね。ゆるい雰囲気だから、緊張しなくてもいいからね」

「ありがとうございます。見学させてもらいます」

「あっ…………ありがとうございます……」


紡金ちゃんに合わせて私は深々と頭を下げた。


こういっては失礼だけど私たちに話しかけてくれた先輩からは、私と似たような人相というかそういうものを感じた。

卓球部自体私のようなあまり運動が得意じゃなかったりする人が結構多いのかもしれない。

スクールカーストとけっこのタイムは比例する説を私は信じてたりするのだ。

間違いない。私はこの部活で覚醒する!!!! 友達に溢れた生活はここから始まるんだ!


大して部活動見学に集中することもなくそんなことを考えながら、私はホクホク顔を浮かべた。

といっても、周りから見たら結構気持ち悪がれるかもしれないから、自重しなくては。自分の容姿が優れないことは私が一番よくわかっているのだ。


ふと、隣の紡金ちゃんを見上げる。

見学に来たというのに、彼女は女子の練習している台を見ることなく、男子の方の練習を見ていた。

そして私はすぐ分かった。恋する乙女は、こういう視線に敏感だ。

紡金ちゃんは、張替先輩を見ていてた。


「(まさか、紡金ちゃんも張替先輩狙いなの……!?)」

「ん? どうしたの緋色ちゃん。私の顔に何か付いている?」

「ふぇっ…………えっと……何も付いてないよ……? 紡金ちゃん…………女子の方は……見ないの?」

「ああ、そういうことね。女子のも後で見るよー。でもその前に、あそこの先輩のプレーがみたくて。男子の部長」

「あわわわわ…………」


嫌な予感がした通りだった! 紡金ちゃんも先輩狙いだったんだ……。

私は紡金ちゃんの顔をみて、肩を落とす。


紡金ちゃんは……綺麗だ。

私とは大違い。できものとかできたこと無さそうなくらいに肌は綺麗だし、目も鼻も口も髪も全部、私なんかと出来が違う。


10人声かけたら、8人は付き合いたくなるであろう容姿をしている彼女と自分を比べ、私は一人落ち込んでしまった。


「…………紡金ちゃんも……張替先輩が気になるの……?」

「うん。あんなの見せられたら、意識せざるを得ないよねー。というか、緋色ちゃんも先輩狙いだったの? それなら早く言ってよー。先輩! ちょっと男子の方見に行きますね!」

「はーい。でも入部は女卓だからね。間違えないでよー!」

「そこは大丈夫です! ささ、行こう緋色ちゃん」

「う、うん……」


女子の先輩に断りを入れて、男子卓球部の練習している台の方に向かった。

勝てない壁を目の当たりにして絶望する私の足取りは重い。

重かった。

しかし、一歩二歩と歩いていく中で、私に希望の光が差し込んできた。


そういえば、紡金ちゃんは卓球を小学校からやってたって言ってたっけ。

だとしたら……張替先輩のことが気になるというのは、先輩が卓球上手だからってことなんじゃないかな……!?

実際、卓球をしたことのない私でも、あの体育館でのラリーは痺れた。

経験者からしたら、きっと参考にしたいとか、コツはなんだろうとか思うはずなのだ。

だったら私にもまだチャンスはある!? ここはもうその線にかけるしかない!


軽くなった足取りで、紡金ちゃんの後に続く。

彼女は相変わらず遠慮というものを知らないようで、男子と女子の練習を区切っていた青いフェンスをどかすと、張替先輩のいる台の近くにまで足を運んだ。


私たちが台の横にまで移動すると、先輩たちはラリーをやめた。

そして、私の顔をみて思い出したかのように表情を明るくする。


「君はあの時の! やっぱり卓球部にきてくれたんだ! 何だか君とは最初から運命を感じていたんだよ」

「えっ……あっ…………その……」

「緋色ちゃんこの先輩と知り合いなの?」

「違うの……えっと…………入学式の朝に……」

「入学式の朝にね、この子は卓球部の朝練を見にきたんだよ。熱心な子だなって思ってね。俺は熱心な子が大好きだ!」

「ひゃっ…………だっ……大好き…………!?!?!?」


死んだ。この日私は死んだ。

内原緋色12歳。先輩の『大好き』による心停止。

さようなら、我が人生…………


「……緋色ちゃん? 緋色ちゃんーーーー!!!!!!!?」


薄れゆく意識の中で、私を呼ぶ友達の声が反芻していた。



「…………おき…………いろ…………きて……」


耳元で、声がして私は目を覚ます。

目を開けると目の前に、紡金ちゃんがいた。


「あれ…………私寝てた……?」

「いや、1分くらい気絶してた。復活おめでとう、内原緋色さん」

「せ、先輩……!? ふにゃぁ…………」

「ちょっと先輩! 今緋色ちゃんに話しかけちゃダメです! また気絶しちゃいますから!!」

「ごめんごめん。俺もデリカシーがなかったって反省してる。いきなり『好き』なんて言われたら、変な意味がなくても混乱しちゃうよね」

「…………あっ……そう……いうこと……」


屈託無い笑顔を向けてくる先輩。私は彼のそんな表情と言葉に胸を撫で下ろす。

あ、焦った……いきなり告白されたのかと思ってしまった。

ってあれ? 安心していいのか私。

先輩に告白されたのならそれはもう部活入る目的をすでに達成してしまったとかそういう話になってくるのではないか!?


そう考えると急に、悔しくなってきた。

ああ……あの時の告白が正しく告白であったら良かったのに……


「俺は頑張ってる人は応援したくなるんだ。だから、内原さんには期待しているよ。いやぁ全く、今年の女卓は有望だな。こんな頑張り屋さんの子もいるし……」


先輩はそこまで言って私から視線を外す。

そして、その視線は紡金ちゃんへと注がれた。


「まさか本当に『黄金の世代』が地元の中学に来てくれるとはね、常盤紡金さん?」

「ちょっと先輩やめてくださいよ。周りが勝手にそう呼んでるだけですから」

「ところで相方の子はどうしたの? 金町悠里さんだっけ。今日はおやすみ?」

「いえ、彼女は他県の強豪に行きました。地元に入学したのは私だけです」

「そっかー! 彼女も来てくれれば、2年後、長中の女卓団体は関東出場も現実味を帯びただろうに、惜しいね。ともあれ、君がいれば今年の市内団体も突破できるかもしれない」

「そんな、それは高評価すぎですって」


ん? んんんんん??

何か様子がおかしいぞ。

知らない固有名詞っぽいのと、強豪とか、関東出場とか意識があまりにも高すぎる単語が出てきている。

因みに長中というのは、私たちが通っている中学校、長門中学校の略称だったりするとか……そういう話ではなく!

もしかして、もしかすると……紡金ちゃんがさっき先輩に興味があるって言ってたのはお手本にしたいとかそういうことじゃなくって……


「そうだ! せっかくだから俺と何球か打ってくれないか? 5点マッチとかでもいいよ」

「いきなり勝負は勘弁してくださいって。周りの目もありますし、普通にラリーしましょう? 先にドライブどうぞ、先輩」

「連れないなあ。仕方ない、今日はそれで我慢するよ」


そうして紡金ちゃんは準備体操をすると、上履きっぽいそれのチャックを開いた。

その中からは赤と黒の面のあるラケットが現れた。

あれは上履き入れじゃなくて、ラケット入れだったのか。

台に着き、腕を2、3度回すと、紡金ちゃんは先輩に「行きます」と声をかける。

その声に、先輩は前傾姿勢で答えた。


やばい。急にスポ根になり始めてしまった。

完全に置いてけぼりだ。


そして二人は、説明会でしていたような、強烈なラリーを繰り返す。

先輩が速い球──さっき紡金ちゃんはドライブって言ってたっけ──を打つと紡金ちゃんがそれを止めて、先輩がまた打つ。

何球かそれが続くと、今度は紡金ちゃんがドライブを打って先輩が止める。

素人目にも先輩たちのラリーのレベルは高いように見えた。

事実、小体育館にいた部員たちは男女ともに練習を一旦やめて、二人の気迫のこもった練習を眺めていた。


紡金ちゃん…………経験者って言ってたけど……まさかこんなに強いとか聞いてないよ!!!!


紡金ちゃんが先輩を狙っていたというのが、卓球をする相手として狙っていたという意味だと知り、少し安堵しながらも、これから3年間の部活動生活が私にはちょっと刺激の強すぎるものになってしまうのではないかという不安を感じ、私は少し空いた窓から覗く空を見上げるのだった。


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