1-② 援軍要請のための演説:その3
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<O-283年><晩夏><山口-アテナイ市の集広場にて>
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「さてさて! 山口-アテナイの市民諸君! 空が晴れたぞ! 天帝の神-ゼウスも、議論の再開を望んでおられるようだ! ならば、神にかけて、嘘偽りなき、真剣なる真面目な議論を進めようではないか!」
総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)
「よろしい、ならばミルティアデス君、先ほどの続きを述べてくれたまえ。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「ありがとう。本当にありがたいことだ。とはいえ既に、我が輩の意見は概ね述べており、似たような話しを繰り返すのも芸が無い。そこで、すでに五百人評議会で許可を得ているのだが、この民会の場に、参考人を招致したい。」
総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)
「その件に関しては承っている。許可しよう。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「それでは、お呼びしよう。かの浦上-イオニアの地にあって、全ての倭-ギリシャ人にその名を知られるいと賢き聖地、浦神-ディデュマからの客人である。どうぞこちらへ!」
市民たち
「「「ザワザワ・・・、おお、なんと美しい! 年の頃なら三十歳ぐらいであろうか? あの衣装は巫女であろうか? ・・・ザワザワ」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「この方は、かの聖地を司る神主の一族・卜部-ブランキダイの宗家の娘にして、自らも神の声を聞こし召されることで音に聞えた巫女でもある。浦上-イオニア人たちの反乱の時、かの聖地もペルシア人どもに蹂躙され、神殿の奥室までも異民族に土足で踏み荒らされたそうな。現在、浦神-ディデュマの人々は、ペルシャ人に降伏して、その指図されるがままを受け入れているが、この客人のみは、女の身でありながら、それを断固として嫌い、我が輩の許へ亡命して来られたのだ。」
市民たち
「「「オー! ザワザワ・・・」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「しかも、このお方は、我々の運命に関して、はなはだ重要なる神の声も聞かれたというのだ。」
市民たち
「「「「おお、女だてらになんたる偉丈夫! ミルティアデスよ、そのご婦人の口から直に話しを聞きたいぞ!」」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「これは済まなかった。では続きは彼女の口から直に、と言いたいところであるが、実は先の反乱の時、さる事件により、哀れにも目の光を失っておられ、またここに集う大勢の諸君みんなに聞えるほどの大きな声を発する事もままならないのだ。ゆえに彼女の従者二人に替わりに代弁させようと思う。」
市民たち
「「「ザワザワ、ザワザワ」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「巫女さま、これでよろしいかな?」
盲目の巫女
「ありがとうございます。では頼みますよ、我が右目と左目?」
右目
「承りましたー! あなた様の右目がー!」
左目
「あなた様の左目がー!」
二人で
「「ものの見事に! 何一つ欠ける事なく! 雄渾かつ流暢かつ華麗に、代弁つかまつりましょー!」」
市民たち
「「「お、なんだ、なんだ、・・・ザワザワ」」」
右目
「さて、山口-アテナイ市の市民の皆さーん!」
左目
「市民の皆さーん!」
右目
「こちらにおわせられます、いとも美しきおん方は、」
左目
「いとも賢きおん方は、」
右目
「かの名高き聖地・浦神-ディデュマの神主の血筋・卜部-ブランキダイ家の娘にして、かつうはいとも尊き巫女にてましまされます。」
左目
「ましまされます。」
右目
「その、花びらのように可憐なお口から、」
左目
「その、小鳥のさえずりのようなお声から、」
二人で
「「かの光り輝く神-アポローンのお言葉を、伝え下されるのですー!」」
市民たち
「「「ザワザワ」」」
右目
「つい先日、とある神託を、いただきましたのです。」
左目
「いただきましたのです。」
二人で
「「『大和-ヘラースの民よー! 異民族に踏みにじられし、定めの者共よー! 彼の者を探すべし、彼の者を頼るべし、しかして彼の者に、黄金色の杖を渡すべしー!』」」
右目
「さてさて、彼の者とは誰ぞ?」
左目
「彼の者とは誰ぞ?」
右目
「さてさて、彼の者とは誰ぞ?」
左目
「彼の者とは誰ぞ?」
右目
「すると、巫女は気を失って倒れ伏す。」
左目
「バタリと倒れて、前のめり。」
右目
「その投げ出された手の先に、」
左目
「手の先に?」
右目
「手紙が落ちている。」
左目
「その手が偶然手紙を掴みます。」
右目
「しわが寄ったその先に、」
左目
「その先に、浮かび上がるは?」
二人で
「「小早川-ピライオス!」」
市民たち
「「「ザワザワ」」」
右目
「して、その小早川-ピライオスとは何ぞ?」
左目
「そは、津軽半島-ケルソネソスの主の家名で御座らぬか?」
二人で
「「さてもさても、その家の、現当主の名は、たしか、ミルティアデス!」」
市民たち
「「「ミルティアデスだって!? ・・・ザワザワ!! ザワザワ!!・・・」」」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「やべー、親父、流れが変わったぞ?」
有力市民-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「解ってる、解っている、任せとけ・・・、スー、ちょっと待ったー!! 発言の途中で遮って申し訳ないが、この茶番は一体なんだろう? 我々はからかわれているのか? そもそも彼女の代弁者が、何ゆえ、このような年端も行かぬ双児の少女なのだ? 見たところまだ十代であろう? ミルティアデスよ、散々国家の一大事だと言いながら、神聖なる民会の場で、未成年にかくも重要な話しをさせるなど、愚弄するにも程があるぞ! それとも、君は我々を説得することを、既に諦めたという訳か?」
右目
「そこの偉そうなオジさん! 例えば運動の競技では、たまに未成年の選手のほうが良い成績で勝ることがありますが、彼は未成年であることを理由に競技するなとは言われますまい?」
左目
「例えば哲学の論争で、たまに未成年の弟子のほうが賢い事を述べる事がありますが、彼は未成年であることを理由に、口をつぐめとは言われますまい?」
右目
「ましてや、神のお告げを受ける巫女に、年齢制限などありませぬ。その適齢期は、むしろ若い方が良いと言われる事もありますし、処女が良いという話しもあります。」
左目
「我ら双児は、未だ十七歳、処女であることが確実なことからしても、その資格を疑われる謂れは、露程も無いはずですが、いかに?」
市民たち
「「「おおー! いいぞ、いいぞ、お嬢ちゃんたち! ヤンヤ、ヤンヤ」」」
右目
「しかも、我々双児は、巫女さまの代弁者に過ぎません。神様のお告げを伝言するだけなのです。あなた方より口が回らないというならともかく、少なくとも同等程度には回っていると感じているのは、こちらのうぬぼれでしょうか?」
市民たち
「「「おおー! 頑張れ、頑張れ、お嬢ちゃんたち! ヤンヤ、ヤンヤ」」」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「これは不味いぞ、親父。大衆はあんなのが大好物だ。この流れで決を採ることになりゃあ、ひっくり返されかねん。」
有力市民-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「ああ、解ってる、解っている。だが、これはやりにくいぞ。まさかあのミルティアデスが、こんな恥知らずな奇策を打つなんて。完全に意表をつかれた、形振り構わずじゃないか!」
右目
「ところで、目がお見えにならない巫女さまのために伝えておきますと、さきほど発言していた山口-アテナイ市民は、毛利アルクメオン家の当主ヒッポクラテスさんとお見受けいたします。年の頃はもう六十歳ぐらいのご老人でしょうか? おっとこれは失礼、とはいえ年齢のことを先に申されましたのはあちらのほうですから、当然ご容赦いただけるものかと。」
市民たち
「「「ヤンヤ、ヤンヤ」」」
左目
「そしてその隣りに居られるのは、その息子のメガクレオンさんという方でしょうか? 年の頃はまだ三十歳ぐらいの新人でしょうか? おや、何か言いたそうにしておられますね?」
市民たち
「「「ヤンヤ、ヤンヤ」」」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「親父、俺が発言してもいいか?」
有力市民-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「いや、お前はやめておけ。」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「でも、ああいうガキの相手なら、俺のほうが得意だぜ?」
有力市民-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「解ってる、解っている。しかし、我々ばかり発言していては、大衆連中の反感を買う。」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「じゃあ、どうすんだよ?」
有力市民-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「仕方無い、あいつにやらせよう。奴なら名門の出ではないから、大衆の嫉妬を買わんだろう。」
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