4-③ 鹿児島-スパルタよ!:その4(地図あり)
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<O-286年><夏><山口-アテナイ市><二丸之丘の元老院にて>
<アッティカ暦の第二月(現代暦の8月頃)下旬>
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<ミルティアデスたち三人が、山口-アテナイ市に戻る。>
元老院の議長-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「三人よ、君たちが鹿児島-スパルタ市へ使いしている間、事態は大きく動いたぞ! ペルシャ帝国軍は、エーゲ海の『島々』を全て廻り終えたのか、ついに山陰道-エウボイア島に接近すると、まず南端の浜田-カリュストス市を攻めた。近隣の国々が次々に人質と兵士を差し出す中、彼らだけは、人質を決して渡さず、ペルシャ人に味方して近隣の同胞を攻める事も断固拒否したからである。しかし、ペルシャ帝国軍が、彼らの町城を取り囲み、彼らの領土を踏み荒らすと、彼らはすぐに降参してしまった。
一方、浜田-カリュストス市が攻撃されていることを知った出雲の松江-エレトリア市は、『次の標的は自分たちに違いないから、速やかに援軍を送って欲しい』と、我々に要請してきた。我々は、直接に援助する事は難しいが、その代わり、彼らのすぐ隣り、鳥取-カルキス市の土地に植民している、例の『四千人』を彼らの本城の防衛に加わらせる事を認めた。二十年近く前、鳥取-カルキス市に勝利した際、彼らの金持ち階級から取り上げた土地に入植していた我が山口-アテナイ市民の四千人である。」
十組の将軍-アリステイデス(児玉源太郎)
「おお、それは予定通りですな。四千人もの援軍が加われば、彼らの抵抗も長引くことでしょう。しばらくは様子見ということに?」
元老院の議長-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「ところが、だ。出雲の松江-エレトリアの城内では内紛が起っているらしく、『やはり援軍は遠慮する』という返事が届いたのだ。彼らを牛耳っているアイスキネス(宇山久信)が言うには、『町城を捨てて山に立て籠ろうという派と、ペルシャ軍に降伏して祖国を売ろうという派がいて、各々その手筈を整えているため、このままでは、近く内輪もめで破滅することが確実なので、山口-アテナイ人が、こんな体たらくの我らと運命を共にする必要はないので、援軍の四千人もまだ無事なうちに、早く母国に帰られるが良い』、と。
そこで我々は、彼の忠告に従い、かの四千人を長州-アッティカへ引き上げさせる事に決めたのだ。彼らは間もなく、山陰道-エウボイア島を脱け出し、益田-オロポスの港に辿り着く予定である。」
四組の将軍-テミストクレス(高杉晋作)
「あれ~、ということは、出雲の松江-エレトリアの町城は、もう間もなく落ちるということですか?」
元老院の議長-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「あるいはもう、落ちているかもしれぬな。」
四組の将軍-テミストクレス(高杉晋作)
「やれやれ、そんな状況じゃあ、たとえ鹿児島-スパルタから援軍がやって来たって、もう間に合わねぇか。」
元老院の議長-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「おお、そうであった。三人には、鹿児島-スパルタ市からの返事を詳しく聞かねばならなかったな。ミルティアデスよ、彼らからの援軍は、期待して良いのであろうか?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「ふむ、結論から言えば、彼らから『援軍を送る』、という言質は取った。ただし、『すぐにも援軍を出発させてほしい』、という要求は断られた。『敵軍がどこかに上陸して、こちらが危機に陥れば、すぐにも出発させる』、とのことである。」
元老院の議長-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「そうか。まあ、良いではないか。彼らが援軍を約束してくれたのなら、ひとまずは安堵であるな。それなら我々も、篭城等による長期戦が選択肢に入る。」
元老院議員たち
「「「おお、そうか、そうか! 最悪の事態は、免れたのだな! ザワザワ、ザワザワ」」」
四組の将軍-テミストクレス(高杉晋作)
「いや、そいつはちょっと待ってくれ。俺の感じたところでは、鹿児島-スパルタ市は、ペルシャ帝国と戦うのに、あまり乗り気で無いように思えた。というのも、クレオメネス王が国外逃亡した騒ぎがまだ収まっておらず、もう一人のレオテュキデス王は、年こそ取ってるが、王になってまだ一年足らずだ。ここぞとばかり、五人の監督官らが王族から主導権を奪おうと画策しているようにも見える。だから、クレオメネス王の後釜もすぐには決めず、その間に自分らの発言力を強めようとしているのかもしれない。『もしも、王をちゃんと決めて、遠征に送り出し、その上その王が活躍しちまえば、またもや王の発言力が増し、監督官の力が相対的に弱まる、だから王を決めなければ、外征の手続きも進みづらい』、まーそんなところかな。」
元老院議員a
「なんなのだ、それは? そんな、内輪の揉め事で、我ら同胞を見捨てるというのか? というより、我らが滅べば、次は鹿児島-スパルタ市の番かもしれんのだぞ。損得勘定より、目先の権力なのか?」
元老院議員b
「まぁ、その辺りの内輪もめは、我々にも有り勝ちだからな、あまり他所の事は言えんだろう。」
元老院議員c
「うむ、当の出雲の松江-エレトリア市が、まさにそれらしいからな。滅亡がもう目と鼻の先にあるにも関わらず、だ。いや、それだからこそ、というべきか?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「いずれにせよ、楽観するのも悲観するのもよろしくない。鹿児島-スパルタ市からの援軍は来ると思いたいが、来ないかもしれない。それを前提にして、目の前の敵に対し、どう戦うべきかを我々は考え、そして速やかに決めねばならない。迷っている暇など、無いという訳だ。」
元老院議員たち
「「「ザワザワ、ザワザワ・・・」」」
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<同じ頃>
<O-286年><夏><山口-アテナイ市の集広場にて>
<アッティカ暦の第二月(現代暦の8月頃)下旬>
在留外人
「ほら、ここが噂の集広場だぜ。山口-アテナイの胃袋とも、心臓とも呼ばれてる。倭-ギリシャ本土では最もでかい市場の一つだな。」
シリアの商人
「ワーオ! たっくさんのお店が立ち並んで、壮観でーす! 食料、衣服、雑貨、ワイン、武器、エトセトラ、なんでも御座れ、でーす!」
在留外人
「えらい大げさだな、本当かよ? あんたは大陸アジアのほうからはるばるやって来たって言うんだから、きっともっとでかい町も見て来てんだろうから、この程度じゃ驚かんだろうよ?」
シリアの商人
「そんなこと無いでーす! ワンダホー、とっても素晴らしいでーす! アーンド、住めば都と申しまーす!」
在留外人
「なんだって? 『住めば都』って、それ褒めてんのかねぇ?」
シリアの商人
「もちコースでーす! 良い商売が出来そうでーす!」
在留外人
「しっかし、お前さんも抜け目が無いねぇ。あのペルシャ軍が今日明日にでも攻め込んで来るかもしれないってこのご時世に、わざわざこんなとこまで商売しに来るなんてよ。知らないのかい? ペルシャ軍の目的はこの山口-アテナイを滅ぼす事だって噂をよ。」
シリアの商人
「知ってまーす! だからこそ私は商売をしに、イエイエ、私は『判官びいき』なのでーす! 『義を見てせざるは勇なきなり』なのでーす! ビコーズ、あの無敵のペルシャ軍に歯向かう山口-アテナイ人を尊敬してるのでーす! 私のナケナシの財産を割いて、彼らに援助したいのでーす!」
在留外人
「へへへ、まぁ言いたいことぁ解るぜ。弱ってる時に恩を売っときゃあ、後々でかく儲けられるって腹だろう? そんで、さらにうまく立ち回りゃあ、ここの市民権だって、手に入るかもしれねぇしな。」
シリアの商人
「イエイエ、私はそこまでは望んでませーん! ただ安全に商売できれば良いのでーす!」
在留外人
「まぁ、それについてはこの俺に任せておきなよ。お前さんをここに寄越した男は、俺もかなり世話になってるからな。きっちり面倒見てやるよ。で、お前さんはどんな商売するつもりなんだい?」
シリアの商人
「私は、大陸アジアから持って来た珍しい石を売りたいのでーす! ダイアモンドでーす! 赤い石、青い石、透明な石、黒光りする石、イロイロありまっせ~!」
在留外人
「なるほどねぇ、お前さんもなかなか目ざといな。こんな戦争前夜の町で、そんなもん売れる訳ねーよ、って考えるのが並の商人だ。けどよ、こういう時だからこそ、逆にそういう高価なもんが売れると踏んでんだな? たしかに、人間って奴ぁ、普段は絶対買わねぇと思うようなもんも、こういう時には興奮してついつい買っちまうもんさ。どうせ死ぬかもしれねぇんだし、景気づけのためにも一つ買っとくか、ってな。」
シリアの商人
「ワオ、あなた賢いですねー! でも、それ内緒ね、黙っててくださーい! 企業秘密でーす! お願いしまーす!」
在留外人
「解ってるよ、商売仲間だからな、客はうまく騙さねぇといけねぇもんな。で、金持ちを紹介して欲しいんだろ? それだったら、あそこにウジャウジャ居るぜ。」
シリアの商人
「ホワット? 丘の上、ですかー?」
在留外人
「そうさ、あれはな、二丸之丘ってんだ。暴力の戦神-アレスを祀ってる丘でな、ほら、すんげぇゴツゴツしてて、それっぽいだろ? そいで『アレオパゴス』って呼んでるんだが、あすこでは元老院の評議会ってのが開かれるんだ。こいつは山口-アテナイ市民でも上流階級しかなれねぇ大臣職を勤め上げた者だけがな、引退後に終身の議員となってあれこれ会議するところでな、つまりは貴族や金持ちたちの集まりって訳さ。お前さんの石を買えるほどの客なら、まずはあれらだな。」
シリアの商人
「オー、二丸之丘ですかー! それは有名な本丸之丘とは違うのでーすかー?」
在留外人
「そいつは、あの左手に見えてる丘だぜ。この集広場のすぐ南にあるのが二丸之丘、そいでそのすぐ左手にもっと大きな丘が聳えてるのが、あれが本丸之丘って奴だ。あっちのは丘をぐるりと断崖絶壁の城壁で固めてるだろ? あれが、山口-アテナイ人にとっての最後の砦だな。果たしてペルシャ軍は、本当にここまで攻め込んでくんのかねぇ?」
シリアの商人
「その時は、私もソードを取って戦いまーす!」
在留外人
「ソード? もしかして剣のことかい? それってペルシャ語か?」
シリアの商人
「はーい、そうでーす! 私ペルシャ語を勉強してまして、ちょっと勉強してるのでーす!」
在留外人
「うーん、そいつは敵の言葉だからなぁ、ペルシャ人のスパイだと思われるかもしれねぇぞ? だから、あんま使わねぇほうが良いかもな。他の言葉はしゃべれないのかい?」
シリアの商人
「私、いくつかしゃべれまーす! 産まれたところのシリア語とアラム語、海では紫-フェニキア語と倭-ギリシャ語を覚えましたー! 今はペルシャ語をたっくさん頑張ってまーす!」
在留外人
「そんなに覚えて、すげぇなお前さん。俺は倭-ギリシャ語と陸奥-トラキア語だけだからな。アジアに行く時があんなら、是非ともお前さんに通訳をお願いしたいぜ。」
シリアの商人
「通訳、私にお任せあれでーす! 二人でガッポリ儲けましょー!」
在留外人
「おっ、いいねー、なんだか銭の匂いがしてきた! よっしょ、それならまずは、お前さんをここでガッポリ儲けさせてやらなきゃなんねぇな。じゃあ、誰を紹介してやろうか、ミルティアデスの旦那か? いや、あの人は最近物入りだって言うしなぁ。そんじゃあ、やっぱ吉川カリアス家か?」
シリアの商人
「おー、その名前聞いたことありまーす! モースト金持ちでーす!」
在留外人
「そうかそうか、そんじゃさっそく紹介してやるよ、ついて来な。」
シリアの商人
「どうもサンキューでございまーす、でーす!」
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