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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の一:O-283. 一年目の脱出
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1-② 援軍要請のための演説:その2

<O-283年><晩夏><山口-アテナイ市の集広場アゴラにて>


    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「ちょっと待ってくれ! まだ議論は尽くされていない! そうだろう? 今年期の総理大臣を勤めるテミストクレスよ! 君はたしか海軍の増強を提案し、その基地として、今使っている三田尻-パレロンの港は手狭ゆえ、それより少し遠いが防府-ペイライエウスを軍港として整備しよう、と提案したはずだ。それは海外の植民地の維持も想定に入れた上での提案ではなかったのか? だとすれば、今回の津軽半島-ケルソネソスの件も、その構想に含まれる事案であろうよ? そんな君の意見も是非聞かせてもらいたいのだが?」

    総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)

「それは全くその通りであるが、ミルティアデスよ、残念ながら、私の意見は一部しか通らなかった。海軍増強のために、新しい軍港と共に新型の軍船をもっと増やして維持しようとの私の提案は、経費がかかりすぎる等の理由で過半数の賛成を得られなかったし、防府-ペイライエウスの軍港化も、一応は可決されたが、他の神殿などの建築が優先であるとして、後回しにされたままだ。

 私とて、この山口-アテナイ市に最新の軍船が少なくとも百隻以上あるのであれば、『津軽半島-ケルソネソスを捨て置くべきでない』と、強気な発言もしようが、現実は旧式も含めたボロい軍船がおよそ七十隻ばかしあるだけだ。我々のすぐ目の前に浮かぶ壱岐-アイギナ島の連中にすら鼻で笑われ、舐められる程度の代物だ。これではいかんともしがたい。これで、帝国軍に対抗しようと言うのは、あまりに無謀だ。なにしろ、帝国海軍は最新型の軍船を、少なくとも千隻は抱えているというのだからな。しかもそれを、あの船乗りとしては格別に優秀な紫-フェニキア人どもが率いているのだ。これでどうやって、援軍や支援物資をかの地へ無事送り届けられるというのだ?

 だから、残念ながら、私も津軽半島-ケルソネソスを我々の力で防衛するというのは、無謀を通り越して、不可能であると言わざるを得ない。」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「しかし、まだ時間はある! 帝国軍は浦上-イオニアの残敵掃討に手間取っている。海峡のこちら側へ上陸するのは、まだ数ヶ月先、もしかすれば冬を越して来年の春か夏かもしれない。それまでに急いで軍船を新造するなり、援軍を送り込むなりしてしまえば」


    市民たち

「「「おっ! 雨粒だ! 雨が降ってくるぞっ! 中止だ、中止だー!! 総理大臣よ、閉会の宣言を!」」」

    総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)

「それでは諸君! 慣例通り、天帝の神-ゼウスの助言に従い、本日の民会を中止することとする!」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「待ってくれ!! かの地の情勢は、切迫しているのだ!! なんとか今日中に議論を尽くして、しかるべき結論を早く出して欲しいのだ!!」

    総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)

「そうは言っても、慣例は慣例だ。それに雨の中では議論も滞る。」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「しかし、この程度の雨ならば、すぐに止むだろう! もしも止んだなら、民会を再開してもらいたい!」

    市民たち

「「「ザワザワ・・・、ザワザワ・・・」」」

    総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)

「・・・うーむ、確かにこの議案は、先送りにするにしては、重た過ぎる議案ではあると思う。ならばどうだろう諸君? 民会をいったん解散とするが、もしも真昼になるまでに雨が止んだなら、再びここに集まって民会の続きをやる、という事にしてはどうであろう? 賛成の者は手を挙げてくれ!」

    市民たち

「「「ザワザワ・・・、ザワザワ・・・」」」」



    弓兵長

「三代目、お疲れさまでした。こっちで休んでください。」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「ああ、すまんな。」

    弓兵長

「あんまり芳しくないようですなあ? 顔色もイマイチですぜ?」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「あぁ。・・・たしかに、あの連中の言うことも正しいと思えて来た。」

    弓兵長

「三代目?」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「たしかに、津軽半島-ケルソネソスへ援軍を送るには、多数の軍船が必要だ。じゃなければ帝国海軍に妨げられて辿り着くことも出来ない、近づく事もできない。・・・自分の見込みは甘かったのか?」

    弓兵長

「けれど、三代目、あっちではみんな、今か今かと援軍を期待して待ってるんですぜ? 今更手ぶらで帰るわけにはいきやせんぜ?」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「ああ、そうなのだが・・・、どうにも分が悪い。」

    弓兵長

「三代目、こっちにはまだ秘密兵器があるじゃないですか。どうせ分が悪いんなら、駄目元でぶちかましてやりやしょうや? そーら、巫女さんが来られましたぜ?」


    盲目の巫女

「ミルティアデス殿、民会の声が広場の外でも聞えましたゆえ、状況は把握しております。この身にお任せ下さい。きっと民会の意見を、こちらへ靡かせてみせましょう。」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「・・・、しかし、あなたのようなかよわき女性を、あの大衆どもの、あの下賎な好奇の目に曝すのは、どうにも気が引けてしまう。」

    盲目の巫女

「何を仰るのです。全ては覚悟の前です。それにこの身にはこの子たちがついております。」

    右目

「その通りなのです! どうかクジラのような、もといクジラをぶっ倒せるような、とても堅固かつ快適かつ美麗なる大船に乗った気持ちでお任せ下さい!」

    左目

「左に同じなのです! どうかナマコのような、もといナマコが泣き出すほどの、とても流暢かつ快活かつ立派に代弁つかまつりましょう!」

    右目

「右に同じなのです! 浦上-イオニアの雄弁術というやつを、頭の固い者共に、嫌というほど、否な好きというまで、せいぜいたっぷりと、ゲップするまで食らわせてやりましょう!」

    左目

「左に同じなのです! 卜部-ブランキダイの神託というやつを、頭の弱い者共に、好きというほど、否な嫌というまで、せいぜいたっぷりと、腹を下すまで食らわせてやりましょう!」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「・・・。」

    弓兵長

「クククク、こいつは頼もしいですなあ、これは勝ったも同然だ。ねえ、三代目?」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「・・・う~む・・・どうしたものか・・・。」



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