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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の三:O-285. 三年目の鬱憤
66/115

3-⑤ 説得:その5


<続き>


    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「はぁ~、その粘り着くようなもったいぶった語り口、相変わらずよな! まあ良か。祭りの日に怒るんも縁起が悪かろう。

 そこのテミスなにがしよ、笑うておれる話しなら良かばってんがな?」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「クレオメネス王、あなたは、この夏、手兵を率いて壱岐-アイギナ島へ向かわれた。しかし、何故か、壱岐-アイギナ人たちは、あなたを恐れずに、人質の差し出しも拒んで、あなたを手ぶらで追い返した。何故でしょう?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「さあな。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「理由の一つは、彼らがペルシャ帝国の従属国になって、どでかい後ろ盾を得たものだから、虎の威を借る狐よろしく、気が大きくなってるからでしょう。しかし、もう一つの理由は、鹿児島-スパルタ市のもう一人の王・デマラトス(大久保利通)が、彼らに入れ知恵したからではありませんか? つまり彼は、壱岐-アイギナ島の人々に、『クレオメネス王の行動は、彼単独の行動であり、鹿児島-スパルタ市では、もう一人の王・デマラトス(大久保利通)を筆頭に壱岐-アイギナ島への内政干渉に反対する意見の者が多い』と吹き込んだ。『それを証拠に、このような場合、本来なら二人の王が揃って来るはずが、壱岐-アイギナ島にはクレオメネス王一人しか来なかった』、と。おかげで、倭-ギリシャ民族の誰もが恐れるはずの鹿児島-スパルタ軍と、それを率いる鬼のクレオメネス王を、壱岐-アイギナ人はビビることなく、けんもほろろに追い返したという訳だ。」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「誰から聴いたか知らんが、まるで自分が見て来たかごとく語るな、そなたは?」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「へへへ、さて、そして薩摩-ラコニアに帰ったあなたは、ご自分のやる事なす事に、悉く反対しようとするデマラトス(大久保利通)王を、なんとか失脚させられないかと考えた。違いますか?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「・・・それは、知らんな。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「すると、デマラトス(大久保利通)王の近親者でレオテュキデス(黒田清隆)という者があなたに近づいて、デマラトス王の若い頃の噂を、あなたの耳元で囁いた。『デマラトス(大久保利通)の父・アリストン(薩州家勝久)王は、長い間子が生まれず、「監督官」たちの要請で二人目の妻をもらっても、それでも子が出来なかった。追いつめられたアリストン(薩州家勝久)王は、親友のアゲトス(大久保利世)に頼み込んで、彼の妻を貰い受けた。絶世の美女と評判だった御婦人だそうで。するとこの三人目の妻からついに待望の男児が生まれた。それが後のデマラトス(大久保利通)王だ。しかし、デマラトス(大久保利通)王はずいぶん早生まれだったそうで、母がアリストン(薩州家勝久)王に嫁入りしてから十月経たずに彼が生まれたという。つまり、デマラトス(大久保利通)王はアリストン(薩州家勝久)王の子ではなく、母の前の夫・アゲトス(大久保利世)の子だったのではないか?』、とね。

 これが本当の話しなら、デマラトス(大久保利通)王は伊作-エウリュポン家の血を全く引いていないという事になる。そこで、あなたとレオテュキデス(黒田清隆)は、これをネタにデマラトス(大久保利通)王の廃位を目論んだ。ですよね?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「・・・まあ、レオテュキデス(黒田清隆)の件については、そうかもしれんな。あやつは若か頃、婚約していた女をデマラトス(大久保利通)に横取りされた恨みもあるからな。かの『七賢者』の一人として知られるキロン(調所広郷)の娘・ペルカロンだ。なかなか良か女子おなごだったらしい。レオテュキデス(黒田清隆)は、それを今でも根に持っていて、『どうしてもデマラトス(大久保利通)ば引き摺り下ろし、自分が王位を継いでやる』、と滾らせているのは確かだ。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「なるほど、そういう裏事情もあったのですね! そうして、あなた方の利害関係は、ピッタリ一致したという訳だ!」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「ん? いやいや、我は要らんこつばしゃべっとるな? いくら人払いばさせたとはいえ、機密情報ば漏らすんはさすがにいかん、酒ば飲み過ぎたようたい。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「クレオメネス王よ、これは民族全体の運命をも左右する、超特大級に大事な話しだ。いい加減、もっと腹を割って話しませんか?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「何ば言いよるか! これは内々の醜聞たい、外人にペラペラ話して良か事案でん無かぞ!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「いいでしょう。それでは、代わりに、この俺が腹を割ってご覧にいれましょう。あなたは今こう考えている。『デマラトス(大久保利通)を追い落とすのに格好のネタをつかんだ。しかし、確かな証拠がない。レオテュキデス(黒田清隆)は恨みにとらわれていて、行動がやや軽率だ。この噂もどこまで信用していいか判らない。何か決定的な証拠さえあれば』、と。」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

貴様きさん、自分の腹でなく、我の腹をば割こうち言うか!? まったくこやつは、良か度胸たい!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「さて、ここからが本題だ、クレオメネス王。困ったあなたは、『ならばこの問題を、奈良-デルポイの神託に委ねよう』と申し出る。そして鹿児島-スパルタ市は、聖なる都・奈良-デルポイへと、使いを送ることになる。」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「・・・まー、それはきっとそうなるだろうな。重要な問題で、善悪の判別がつかぬ事柄は、神のお告げに最終的な判断を委ねるというのが、倭-ギリシャ民族の伝統だ。ばってん、そのお告げが、我々にとって有利な文言ならば良いのだが、もしもデマラトス(大久保利通)にとって有利な文言だったなら、この問題はもうそこで終いにせねばならなくなる。のみならず、このような汚い噂を利用してまで、もう一人の王を失脚させようと目論んだ我自身への評価に深い疵がつき、かえってデマラトス(大久保利通)の力を増やしてしまう事になりかねん。いや、きっとそうなるだろう。それどころか最悪、我が王位を追われる破目になる!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「さてさて、『奈良-デルポイの神のお告げが、どちらに転ぶか判らず心配だ。そうか、ならば神のお告げが、必ずこちらに有利になるようにすれば良いではないか!』、とあなたは考える。」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「ん? 『神託を買収しろ』と言うておるのか?」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「奈良-デルポイは、光輝く神-アポロンが、巫女の口を通して聖なるお告げを下される、民族最高の聖地として倭-ギリシャ中に鳴り響いてる! 神に仕える巫女は、地割れから吹き上がる煙りを吸うと神懸かりの状態に陥って、うわ言のように何事かを口走る。側に控える神主は、それを詩に翻訳して、紙に記し置き、神託使いに下す。神託使いは、それを国に持ち帰って、皆に披露し、その詩の意味を解き明かして、そのお告げに従い、しかるべき行動を取る。ならば、この巫女と神主のどちらか、もしくは両方を押さえてしまえば、予め望んでいたような文言を得ることが出来る!」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「そ、そげんか不遜な事をばっ! このハレの日によくもそういけしゃーしゃーと述べられたものだ!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「しかし、それは誰もが一度は考えること。」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「しかし、だからこそ、買収は成功しないのだ! いともかしこき神に仕える巫女や神主が、そのような恐れ多い事を、自らすすんでやるはずもなく、しかもそれが発覚した時には、本人のみならず、その家族や一族にまで、神を汚した罪人として、民族全体から蔑まれ続けなければならなくなるのだからな!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「では、それが『買収』ではないとすれば? 『買収』ではなく、『協力』と言い換えましょうか? たとえば、その神託が、民族の存亡に関わる、決定的な分岐点を決める文言だったとしたなら、その神託で、民族を滅亡させる方向へ行かせてしまったなら、倭-ギリシャ民族の奉納に支えられてる奈良-デルポイの聖なる都も立つ事叶わなくなり、やがて我らが神々も祀られなくなる。ペルシャ軍に蹂躙された浦上-イオニアの聖地・浦神-ディデュマは、今やそのようになってしまってると聞く。ならば、民族愛に燃える、熱い巫女や神主なら、神託の文言が、民族を滅亡へ追いやらない方向に、知らず知らずと導いてしまうのは、むしろ神の御心にも添うている、と我々は思う!」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「えらい力技だな! しかし、どう言い訳しようが、『神託の詐欺』が発覚してしまえば、全てを失うのだぞ? 当然、それに関わる我らもだ!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「覚悟召されよ! 倭-ギリシャ民族全体の命運を握る鹿児島-スパルタ市の王よ! 戦場で、敵兵に勝つ事だけか、勇気ではない! あんたは、この俺の事を口だけの奴だと思ってるんだろうが、こんな俺でも、もう覚悟を決めてるんだぜ!?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「・・・。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「もちろん、あなたの友・ミルティアデスだって覚悟を決めている! ここへ来る前、彼は奈良-デルポイの神託が、誰かに操られる事があり得るって事を、実体験として、身を以て思い知った! ですよね、旦那?」

    主役-ミルティアデス(小早川隆景)

「・・・信じがたい事ではあるが、彼の言っている事は本当です。奈良-デルポイの、巫女と神主を操る者が、確かにあそこに居た。我が輩がいただいた神託を、その者は外に居ながら、一言一句違わずに、言い当ててみせた。つまり、予め知っていたのです!」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「・・・。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「ところでゴルゴ姫! あなたもクレオメネス王の指示により、奈良-デルポイで神託を授かって来たんでしたね? で、その内容は、どのような文言でしたか?」

    スパルタ王女-ゴルゴ姫(篤姫)

「『神ならぬ 女が孕む 子宝は よもや十月を 欠けること無し』」 

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「ふむふむ、『人間の女なら、十ヶ月未満で子供を産めるはずが無い』、ってな感じですかね? 普通、奈良-デルポイの神託と言やぁ、もっと抽象的で解りづらいのが相場なんだが、こいつはずいぶん解りやすいですな~。そう思いませんか、クレオメネス王?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「・・・。」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「フフフ、あなたは、思い出した、二十年前の事を! そう、山口-アテナイ市がまだヒッピアス(大内義隆)の独裁のもとに虐げられていたあの時を! 当時、鹿児島-スパルタ市からの神託使いが奈良-デルポイの神に伺うと、全く関係のない問いに対しても、ことごとく『山口-アテナイ市を独裁から救え』との文言が付けられて返ってきたことを! おかげで、当時の鹿児島-スパルタ軍は、他でもないあなたに率いられて、長州-アッティカへと遠征し、山口-アテナイ市から独裁者を追放し、天晴れ、我々の『解放者』と褒め称えられる存在となったのだ!

 まぁ、その後のあなたは我々の内政に無理矢理介入しようとして、大ゴケする事になるんですけどね。」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「ああ、我が黒歴史! 偽の神託に踊らされ、我が名を最底辺にまで突き落とした忌々しき失態! ああ、呪うべき山口-アテナイ人よ! 罪深き毛利アルクメオン家よ! 我に同じ失敗を二度もさせるな!!」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「でもですよ、もしもあの時の毛利アルクメオン家による『神託買収』が間違った行いだったって言うのなら、毛利アルクメオン家と、そして我が山口-アテナイ市は、その後どこかで神の罰に当たり、不幸のどん底へと墜落していったはずだ。しかし、現実はそうはならなかった。毛利アルクメオン家のクレイステネス(毛利元就)は、ポリスの民主制改革を成功させ、比類なき『改革者』として倭-ギリシャ中にその名が鳴り響いたし、我が山口-アテナイ市も、内政干渉しようとする周囲の全ての敵国に完勝を収めたし、民主制改革が成功して他のどこよりも自由かつ豊かになったし、ついには、あなた方鹿児島-スパルタ市に次ぐ、あるいは並ぶほどの、倭-ギリシャ民族第二のポリスと讃えられるまでになった! つまり、当時の我々の行いは『全て正しかった!』とまでは言わないにしても、少なくとも『間違ってはいなかった!』とは言い得るのだ!」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「それは、・・・ん? いや、ちょっと待て! そなたらは今、夷狄の大軍に狙われ、それこそ滅亡の淵にあるでは無かか!? そいはあの時の罰かもしれんとぞ!?」

    中堅市民b-テミストクレス(高杉晋作)

「いえいえ、見方を変えりゃあ、我々は襲い来る夷狄の大軍を華々しく迎え撃ち、世界中に己が英名を鳴り響かせる事が可能な、この上ない幸運な機会を与えられた! とも言い得る訳だ! 結果いかんによれば、もしかすると、『あの鹿児島-スパルタ人よりも、武勇に優れる』との名声が、倭-ギリシャ民族中に刻み込まれるやもしれぬ! これは凄い快挙だ! こいつは羨ましい! 羨まし過ぎる! 黄金のクレオメネス王よ、あなたもそうは思いませんか?」

    スパルタ王-クレオメネス(島津斉彬)

「それは妄想ばい! ただの願望、たい・・・」


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