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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の一:O-283. 一年目の脱出
5/115

1-① 最後の宴に集う人々:その5

<O-283年><晩夏><津軽半島-ケルソネソスのミルティアデス邸にて>


    お客たち

「「「パチパチパチ! パチパチパチ!・・・」」」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「・・・ご観覧いただき、ありがとうございましたー!」

    お客たち

「「「パチパチパチ! パチパチパチ!・・・」」」


    次男-キモン(小早川秀包)

「ううう、ううう。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「どうしたの、キモン? 震えてるじゃないの、怖かった? 可哀想に。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「あなたも震えてるじゃないの、エルピニケ。やっぱり子供には、刺激が強すぎたかしら。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「ていうか、何? 去勢って! 痛い! 怖い! うわぁぁぁ!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ううう、わたしも連れ去られるの? 無茶苦茶にされるの?」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「大丈夫、落ち着いて。あなたたちの父上が、きっと守って下さるから。うちは大丈夫よ、大丈夫。」


    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「いやー! 素晴らしかったですよ、プリュニコスさん! あなたの悲劇は、本当に人間の真実に迫り、悲しくも、美しい! いやー、脱帽です! これぞ、本物の芸術の力って感じです!」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「いえいえ、まことにお恥ずかしい限りです。今宵は、合唱隊が居りませんで、俳優と私の二人だけで演じた簡略版の試作品です。しかし、もしもこの台本が、間もなく決定される選考に通りましたらば、半年後の、来る春の長州-アッティカで、酔狂の神-ディオニュソスの大祭りの本番で、この劇の完成型を大勢の人々にお見せ出来たらと考えております。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「いやー、必ず見に行きますよ。こんな面白い劇、何をさておいても。ですよね、ヘカタイオスさん?」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「あっ、ああああー! ああああー! ああああー!」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「どうしました? お連れの少年が、真っ青ですよ!?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「すみません、劇の内容があまりに過激であったため、ちょっと引きつけを起こしてしまったようで。でも、大丈夫です。すぐに収まりますから、ご心配なく。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「本当ですか?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「はい、あの、皆さんはお気になさらず、ご歓談を続けて下さい。こちらで介抱しておりますので。」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「これはこれは、申し訳ありませんでした! 私の劇が、まさかこれほどの反応を引き起こしてしまうとは! たしかに、優れた悲劇を作らせて、私の右に出る者はいないと自負しているとはいえ、それは自分を奮い立たせるための、いわば暗示のようなもので、本音を言えば、常に自分の才能に不安を感じ、こんな内容で良いのか、こんな台本で良いのか、と悩み続けるのが日課のようなものです。それが、悲劇の舞台にした実際の町の出身者にすら、これほどの激しい感動を与えてしまうとは! 私はこれを自信に変えさせていただき、さらなる高みを目指して参る所存です! どうもありがとうございましたー!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「おお、さすがは一流の芸術家! 誠にあっぱれな心意気です! 良かったですね、ヘカタイオスさん、あなた方は、一流の芸術家を後押しする力になったのですよ!?」    

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「・・・申し訳ないが、わしは見ていられなかったぞ。・・・わしは柔①-ミレトス人の一人として、このようなくだらぬ劇は、全く見ていられなかったぞ!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「え? あぁ、そうか、あなた方柔①-ミレトス市の方にとっては、自分や自分たちの出身地を舞台にされてしまい、これほど辛い劇は他に無い。いやー、すみません、これは配慮が足らなかったようです。プリュニコスさんには、別の題目にしてもらったほうが良かったかもしれませんね。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「いや、そうでは無い! そもそもこの『悲劇』なんぞというものが、わしにはどうしても気に入らないのだ!」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「『悲劇』、なんぞ?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「そうだ! 『悲劇』なんぞという、泣かせるためだけのつまらぬ作り話しが、な。」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「は? あんた、もう一遍言ってみな!?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「ああ、何遍でも言ってやろう! 『悲劇』なんぞはなあ、」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「おいおい、爺さん! 自分はもう大丈夫だから! 落ち着いて!」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「おお、引きつけが治ったか?」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「うん、収まったから。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「だが、顔がまだ真っ青だ。もうしばらく静かにしときなさい。お前の分まで、こいつにもの申してやるからな!」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「そうじゃなくて、少しは空気を読んでくれって事です! もう問題無いから。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「お前は黙ってそこに寝てろ! これはわしの問題だ!

 さて、劇作家よ、話しの続きだ。『悲劇』なんぞというものは、わしはどうしても気に入らない。いくら出来が良くても、いくら美しくても、劇はしょせん作り話しだ。いくら歴史に題材を採ったからといって、そこに真実などあろう筈がない。現実の世界は、辻褄が合わない事だらけだ。劇のようにきれいに終わりはしないし、上手い落ちがつく事などまずありえ無い。しかし、だからこそ、現実は他の何より興味深いのだ。人の美しさも醜さも、人の賢さも愚かさも、人の成功も失敗も、ぐちゃぐちゃにドロドロに、誰も近づけないほどに、不気味な巨大な蜷局を巻いて、ただそこに落ちている。それが人間の歴史ってものだ。そこら辺の劇作家ふぜいが、安易に手を出して良い代物じゃあ無い。」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「浦上-イオニアの『歴史家』よ! そいつは聞き捨てならねえな。誰が安易に手を出しているだって? 劇作家はなあ、この世の真実を劇を通して顕わすために、それあ己の寿命をすり減らすほど、考えに考え抜き、悩みに悩み抜いて、一つの道ってもんを生み出すんだ。おかげで、こいつを見てみろい! 頭の髪は、ずいぶんさよならだ。いいか? お前ら歴史家とやらと違ってだ、枝葉に気を取られてその木全体の姿を見れない奴らとは、ちーとばかし出来が違うんだ。人って奴は、たとえ住む場所が違っても、生まれが違っても、また時代が変わっても、悲しかったり、嬉しかったりといった感情は、似通ってるもんなんだ。だからこそ、遥か昔の神話を舞台にしても、遥か遠くの異国を舞台にしても、人々は深く共感し、まるで自分の身に降り掛かった事のように、悲しんだり、喜んだり出来るんだ。これほど、人々を熱狂的な共感に導き、感動させられる劇のことを、価値が無いなどとは、いったいどういう了見だ!」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「だったら、架空の神話とやらだけを舞台にしていれば良いのだ! 下手に『ミレトスの陥落』などといって現実をつまみ食いしているから、歴史家に突っ込まれるのだ! 柔①-ミレトスの陥落も、浦上-イオニアの滅亡も、そんな美しい物語ではない。愚かな人間たちが、つまらぬ理由で戦争を引き起こし、敵も味方も愚かな思い込みや、あきれるほどの計算違いを無数に犯した末に、ぐちゃぐちゃの泥沼にはまり込んで、もはや誰に怒って良いのか、誰を誉めたら良いのかと、考えるのも空しくなるほどの、ぐだぐだぶりであったのだぞ!」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「あんたは随分偉そうであるなぁ、ヘカタイオスよ! たかが一歴史家の分際で、神の目でも持ってるつもりで居るのかねぇ? たしかに、あんたは柔①-ミレトスに居て、浦上-イオニアの反乱の中心に居た。しかし、だからと言って、あんたがこの世の全てを見ていられたってぇ訳じゃーない。あんたの語る柔①-ミレトスや浦上-イオニアの真実とやらは、所詮、あんたのその二つの目が見た範囲を超えるものではねぇーんだぜ? 世の中には、あんたが見ているものより、あんたが見ていないもののほうが、はるかに多いんだぜ? いーや、実際に見てはいなくとも、様々な情報を集めて見ているもの以外のものも自分は知っている、とあんたは反論するかい? しかし、それはあくまで他人を介した伝聞に過ぎず、その伝聞が全て真実だと、どうやって証拠付けできるんだい? 俺ら劇作家は、たとえ現実の事件を題材にとったとしても、そいつを現実そのままに再現してやったぜ、なんて決して言やしない。あくまで劇として脚色された物語であると、お客さんも解った上で楽しんでるんだ。それに対してだ、『歴史家』さんとやらは、自分の語る物語りこそ、現実そのものだと嘯いて、自ら恥じることもない。いってぇ、どっちが本当の良心の持ち主なんだろうな、ってぇ話しだい!」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「一体、どこの歴史家が、『現実そのものだ』、なんて嘯いているのだ? 極端な言葉を勝手に使って、相手を批判するのは止めたまえ! これだから、劇作家の物言いと、詐欺師の物言いは、紙一重だと罵られるのだ。たしかに、歴史家といえど、現実そのものを物語る事なんて出来はしないだろうよ。しかし、だ。出来うる限り、現実そのものに近く物語るように努力することは、奨励されてしかるべき善の行いであろうよ。我々はよく『歴史に学ぶ』などと口にする。例えば、過去に犯した失敗を繰り返さないように、過去の事例をよく反省して、同じ轍を踏まぬように、それを未来の行動に反映させようと考える。しかし、だ。その過去の事例、つまり歴史とやらが、間違えだらけのもの、嘘だらけのもの、都合のよい解釈だらけのもの、そもそもがただの作り話だったとしたなら、そこから正しい教訓を引き出せる訳もない。むしろ、正しくない教訓を存分に引き出してしまうことだろう。だからこそ、なるべく過去の事例を、そのままに残す記録が必要なのであり、歴史家とは、そのような事を我慢強く、利己心を捨ててやり続けられる者の事である。」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「劇作家が提示すんのは、そんなチンケな枝葉じゃねぇ! もっと根本の、ぶっとい幹のような普遍だ! そもそもだ、作り話しの中にだって人の本質ってやつは存分に詰まってるんだぜ? だってそうだろ? この世に生まれて一度も嘘をつかない奴なんていやしないんだ。当のあんた自身が、先ほど口にした奥方へのおべっかだって、嘘の一種だろ? 嘘を全部取っ払ったところに、人の真実なんてもんは落ちてねぇ! たとえばだ、」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「お二方! お二方! そろそろ私たちもしゃべりたいですぞ! 私はともかく、義母上を退屈させるのは、ご遠慮願いたい! それと、論争は奨励しますが、喧嘩腰での言い争いは、ご勘弁願います!」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「あ、っと、」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「こ、これは、失礼してしまいました。せっかくの宴の席なのに。」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「だから、空気を読んでくれって言ったでしょ!?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「し、しかし、あのような作り話でいい気になられては、」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「誰もいい気になんてなってないから! ただ悲しんでくれてただけだから! それに、こんなに我を忘れるほど激高するなんて、あなたのほうこそ、あの劇が持つ力にやられてしまったということではないんですか?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「そ、それは・・・、」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「皆さん、すみませんでした! 故郷の滅亡は、我々にとってあまりにも生々しい出来事で、この爺さんも冷静さを失ったのです。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、理解します。プリュニコスさんとヘカタイオスさんは、劇作家と歴史家と、分野は違えど、各々第一級の人物です。いやー、今宵は一流同士の真剣な鍔競り合いが見られて、まるで達人同士の試合を見たかのようだ。きっと忘れられぬ思い出になりましょう。

 それと、このような衝突を招く原因を作ってしまった私は、お二方に謝らねばなりません。そもそも『ミレトスの陥落』は、我が父が、プリュニコスさんに依頼して作っていただいた劇でありました。父はこの悲劇を長州-アッティカで上演することによって、ペルシャ人の危機がすぐそこにまで迫っているのだという事を、未だ他人事のようにして過ごす山口-アテナイ人たちに知らしめて、彼らの目をガツンと覚まさせ、奮起を促そうと考えたのです。ですから、普段は神話の世界を舞台にするプリュニコスさんに、不本意ながら現実を舞台にさせてしまったのは父の依頼のせいなのです。そして、このまだ未完成の悲劇を、今宵は柔①-ミレトスからの客人が来られたということで、お見せすれば喜んでいただけると、浅はかにも勘違いしてしまったのはこの私です。お二方には、重ね重ね、謝らせていただきます。」

    劇作家-プリュニコス(観阿弥)

「メティオコス殿、そのように謝られると、私も立つ瀬がございません。売り言葉に買い言葉で、大人げなく喧嘩してしまった、この私こそが、責めを負うべきです。皆さん、座をしらけさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「いやいやいや、そんなそんなそんな、悪いのは、おかしな事を言い出したうちの年寄りのせいです。すみません、すみません、すみません。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「止めろ、ヒッポダモス! そこまで平謝りするほどの事はしておらんぞ!」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「もう、あなたは黙っててくれ! ややこしくなる!」


    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「・・・それでは、皆さん、仕切り直しに、もう一度乾杯でもいたしましょう。そうだ、キモン、君に音頭をとってもらおうかな。景気良く、大きな声でな?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「えっ、僕がですか!? わ、解りました、お義兄さん。そうですね、・・・うーん、それでは皆さん、改めまして! (スー)、おーい! おーい! おーい! おーい! おーい!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「おいおい、どうしたんだい、キモン? 鳥の丸焼きに大声で話しかけて。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「はい、大きな声で追い込んで、雄鶏を捕まえようと思いまして。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「雄鶏を捕まえる?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「はい、お義兄さんの命じた通りに。」

    お客たち

「「「ザワザワ、ザワザワ・・・」」」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「ん? もしかして? ・・・おいおい! 『雄鶏おんどりを取れ』って言ってんじゃないんだよ! 『音頭おんどを取れ』って言ってんだ!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「アッハハハハ! やるねえ。いい突っ込みだ。」

    お客たち

「「「ザワザワ、ザワザワ・・・」」」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ちょっと、キモン! こんな時に駄洒落? もう、恥ずかしいから、止めてよ、キモン!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「ヘヘヘヘ、失礼しました。では、責任をとってキモンは降板します。乾杯の音頭は、そうだな、替わりにヒッポダモス、君に譲るよ。」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「えっ、自分が!?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「おー、良いじゃないか! 若い者が景気良くやっとくれ。」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「わ、分りました。・・・それでは皆さん、(スー)、・・・」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「おいおい、どうした? お前、急に上着を脱ぎ出して。」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「はい、メティオコス殿の命じるままに。」 

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「命じるままに? どういう事だ?」

    お客たち

「「「ザワザワ、ザワザワ・・・」」」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「さて、どなたにしましょうか? なんならお嬢さんでも構いませんが?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「わたし? ・・・どういう事かしら?」

    宴の人々

「「「ザワザワ、ザワザワ・・・」」」

    詩人-シモニデス(桃井幸若丸)

「・・・あっ! もしかして、下ネタではあるまいな?」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「ククククッ」

    次男-キモン(小早川秀包)

「あー、なるほどっ! ・・・おいおい! お義兄さんは乾杯の、『音頭おんどをとれ』って言ったんだ! 誰かの『お井戸いどれ』とは言ってないぞ!」

    助手-ヒッポクラテス(藤堂高虎)

「もう、遅いぜ! 突っ込みが!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「アッハハハ、悪い、悪い。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ちょっとあんたたち! 子供も居る席で、なんて事やってんの!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「じゃー次は、姉さんが音頭を取るかい?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ち、ちょっと止めてよ! そういうのをあたしに振るの! っていうか、君ねえ! さっきわたしでも構わないってどういう事よ!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「姉さん、こういうので怒るのは野暮だ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「べ、別に怒ってないわよ!」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「そうそう、別にお姉さんの『お井戸を掘るのは嫌だ』って言ったわけじゃあないんですよ?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あのねぇ! あんたたちの駄洒落は、全っ然っ面白く無いって言ってんの!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「だったら、面白い駄洒落の見本をお願いしますよ。」

    助手-ヒッポダモス(藤堂高虎)

「そうそう、音に聞えたミルティアデス殿の娘なら、当然その程度お茶のこさいさいだ。」

    お客たち

「「「おお、お嬢さん! よろしく頼むよ!」」」

    長女-エルピニケ(容光院)

「え、ええー!?」

    お客たち

「「「ヤンヤ! ヤンヤ!」」」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「頑張れ、エルピニケ!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「・・・ア、アーハッハッハッハー! 我が名はエルピニケ! いとも名高きミルティアデスの娘に、不可能なことなどあるものかぁー! 愚か者どもめ、耳の穴かっ穿じって聞きやがれー! って何やらせんのよ! あんたたち! もう無理だからー! 最悪、止めてー! イヤー!」

    お客たち

「「「わはははは!」」」


    兵士

「失礼します! 四代目! 急ぎの伝令です!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「無粋だな、宴の席だぞ? それに私を四代目というのは止めてくれ。」

    兵士

「失礼しました、メティオコス殿! 伝令です。岬の沖に帝国海軍と思われる軍船の群れが姿を見せました。昼過ぎから上陸し、田畑や村を順に荒し、火をつけて回っている、との報せです。」

    宴の人々

「「「なんと! ザワザワザワ・・・」」」

    長女-エルピニケ(容光院)

「いやぁあああ! わたしたち連れ去られるの?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「うわぁあああ! 僕たち切られるの?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「お前ら騒ぐな! 落ち着け! 騒ぐな! おい、父上は何処だ? どうしたら良い? 父上は何処だ?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「メティオコス殿、落ち着きなされ! この城壁の中に居る限り、まだ安全だ。守りを固めて、ミルティアデス殿の帰りを待とうじゃないか。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「なんだって? そうか! もしかして、あんたが帝国軍を呼び寄せたんじゃないでしょうね? こんな時にわざわざ訪ねて来るなんておかしいと思ったんだ! だいいち城壁があっても中に裏切り者が居るなら、無いのもおんなじだ。どうしよう、父上、なんでこんな時に留守なんだ?」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「騎兵長! メティオコス殿を落ち着かせるように!」

    騎兵長

「はっ! 四代目、我々が補佐いたしますので、気を鎮めて下さい! 大丈夫ですから!」

    歩兵長

「そうだぜ、四代目! 留守中の指揮権はあんたに委ねられてんだ。難しく考えるこたーねぇ。『三代目が帰って来るまでは、各々城内に籠って待っていろ』、との指令だった筈だ。とりあえず様子を見ながら、隙あらば、長州-アッティカへ早船を送れば良い。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「ああ、そうだな、あんたらがそういうんなら、そうだ。だったら、判断はあんたらに委ねるから、任せていいか?」

    歩兵長

「了解したから、四代目はどっかり椅子にでも腰掛けていてくれ。こまけーことはこっちでやっとくから。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「ああ、済まない。取り乱してしまって。それと、その四代目っていうの、やめてくれ。」

    歩兵長

「・・・。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「皆さん、申し訳ありませんが、今宵の宴はここらでお開きにさせていただきます! 皆さんの安全は、我々の命に代えてもお守りいたしますので、どうかご心配なさらずに!」

    宴の人々

「「「わかりました、奥方。我々は各々の部屋に戻りましょう。」」」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「キモン、あなたは鎧兜を着て、本丸に行きなさい。騎兵長の後について行けばいいから。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「はい!」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「エルピニケは、わたくしとともに奥の寝室へ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「はっはい、お母さん!」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「大丈夫、落ち着いて、大丈夫だから。」



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