2-③ 訓練兵たち:その2
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<O-284年><夏><長州-アッティカ地方の各地にて>
<四年に一度の大競技祭の開催を知らせる使いがやって来る。>
高千穂-オリュンポスからの使い
「平にー、平にー! 高千穂-オリュンポスからのー、平和の使いであーるー! 四年に一度のー、真夏の青空のもとー、聖なる大競技祭がー、いよいよ催されーるー! これより一と月の間はー、全ての戦いをー、一切禁止すーるー! 破ったものはー、神々からのー、重たい罰が下されーるぞよー! 平にー、平にー!」
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<O-284年><夏><山口-アテナイ市のミルティアデス邸にて>
騎兵長
「三代目、ここにも平和の使いがやって来たそうで。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「おう、もうそんな頃合いになったか。」
歩兵長
「『全ての戦いをー、一切禁止すーるー!』、だってよ。そんなもんは、まずペルシャ人に言ってくれ、ってんだよな、まったく。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「しかし、かの競技祭は何事もなかったように催されるのだろうな。当の山口-アテナイ人の中にすら、高千穂祭へ行くと言っている者が居るのだからな。」
騎兵長
「やれやれ、こちらの連中も、いったい何を考えているのやら。肝が据わっているのか、それとも間抜けなのか。」
歩兵長
「きっと頭の中がお花畑なのさ。自分だけは特別で、運良く不幸を避けられるって、根拠も無く思い込んでいやがるのさ。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「だが、小早川ピライオス家は、参加しないぞ。」
騎兵長
「それがよろしいかと、私も思います。」
歩兵長
「そういやぁ、奥方のご実家も、ペルシャ軍に人質出して、完全に従属しちまったんですよね? あーあ、なんてこった。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「・・・まぁ、それは仕方なかろう。オロロス王だけでペルシャ軍に立ち向かえるはずもない。」
騎兵長
「・・・それより三代目、私どもは、本当にここに居座っていて、よろしかったんでしょうか? 二の丸の丘の議会で『余所者を住まわせるな』と釘を刺されたのでしょう?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「構わんさ! これでも大勢の仲間や家来を手放したんだぞ。異国の大軍が迫っているというに、あの連中は下らん事ばかり熱心になりおって。呆れて物が言えぬとはこの事だ! だからお前は何も心配するな、ここに居てくれ。」
騎兵長
「さすがは、我らの大将です! では、心置きなく、あなたの側で暮らします。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「ああ、よろしく頼む。それより、例のものは完成したのか?」
歩兵長
「はい、例のものですね? 中々良い仕上がりですぜ。」
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長女-エルピニケ(容光院)
「キモン、キモーン! こっちにいらっしゃーい!」
次男-キモン(小早川秀包)
「姉さん、なんだい? 今、忙しいんだけど。」
長女-エルピニケ(容光院)
「いいから、ほら!」
次男-キモン(小早川秀包)
「あれ? こんな大勢集まってどうしたんだい?」
騎兵長
「王子ー! おめでとうー!」
次男-キモン(小早川秀包)
「え、何? どうしたの? 何これ?」
歩兵長
「若っ! この夏から訓練兵やられるでしょう? だからみんなで、ピッカピカの鎧兜を誂えさせてもらったんでさあ!」
騎兵長
「そうそう、二年もの間、みっちりと軍事演習させられるのでしょう? ならば、他の連中に舐められぬよう、良いものを身につけていかねばと思いましてな!」
次男-キモン(小早川秀包)
「うわ~!」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「は~。キモンが二年も親元を離れるなんて、母さん心配だわ。あなたは他の山口-アテナイ人とは違うんだから、今さら軍事演習なんて必要ないでしょうに。」
次男-キモン(小早川秀包)
「母さん、大丈夫だよ、一年目はそんなに厳しくないって。ちょくちょく家に帰してもらえるらしいしさ。」
歩兵長
「若っ! 他のひょろひょろのガキどもなんて、あっと言わせてやれ!」
騎兵長
「そうだ、そうだ! あのしゃべる事ばかり得意な、山口-アテナイの口だけ連中を、黙らせてもらいたいものです!」
次男-キモン(小早川秀包)
「ちょっと待ってよ、キモンもその山口-アテナイ人の一員だってば。」
騎兵長
「いいえ、あなたは、半分、陸奥-トラキア人です!」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「そうよ、キモン! 母さんの陸奥-トラキア人としての誇りも、絶対に忘れないでね。」
次男-キモン(小早川秀包)
「はい、じゃあ、両方の誇りを胸に、訓練を頑張ります。」
皆な
「「「頑張れ、若っ!」」」
次男-キモン(小早川秀包)
「うーん、ただ、たしかに母さんが言うように、キモンは既に実戦を経験してるし、父さんたちから軍事教練も受けているからね。何を頑張ったら良いんだろう? 学ぶことなんて、あんまり無い気もするんだけど?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「キモン、この訓練兵の二年間はな、他では得難い同期の仲間が出来るまたとない機会でもあるのだぞ。かくいう我が輩も、その時の同期とは未だに深い付き合いがあってな、困った時などお互いよく助け合ったものだ。お前も将来、政治の世界でやっていくには、頼もしい仲間が欠かせないぞ。」
次男-キモン(小早川秀包)
「なるほど! しかと心得ました。」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「でも、悪い友達は作っちゃ駄目よ!」
長女-エルピニケ(容光院)
「そうそう、出来れば家柄も良くて、背も高くて、姿も美しくて、ついでに財産もあれば言うことなしね。」
次男-キモン(小早川秀包)
「いやいや、お見合いの相手じゃないんだから。」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「なにを言ってるの、キモン、女も友達も一緒よ! バカで、育ちが悪くて、不器用で、要領が悪くて、財産も、美しさも持ち合わせていない者とつるむなんて、貴重な時間の無駄使いでしかないわ。だから、キモン、あなたはあなたと釣り合うような、素敵な人とだけ付き合いなさい。」
騎兵長
「フフフ、奥方はそうおっしゃるが、若と釣り合う男なんて、この狭い長州-アッティカにそうそう居るとは思えませんな。」
歩兵長
「そうそう、なんだったら、そいつら全員、手下にするような気構えでいくべきだぜ! そんで、若が将来、人の上に立ちたいなら、まず最初が肝心ですぜ! 若ぇ頃の仲間内で舐められてたような奴は、年を取ってからでも軽く見られますからね。まずは、ガツンとかますべきだ!」
騎兵長
「とはいえ、若は少々天然ですからな。こちらとすれば、それが心配です。」
長女-エルピニケ(容光院)
「違うよ! キモンは天然とかじゃなくて、ただ優しいだけなの! だから、余計心配なんだけど。」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「そうね、この子はちょっとおっとりしたところがあるからね、がさつで下品なのがキモンに近づいてくるかと思うと、母さん気が気でないわ。家柄とか財産とかキモンの人気とかに魅かれて、嫌らしく利用してやろうなんて企んでるかもしれないし。
ねぇ、誰かキモンについてって、四六時中見張っててくれないかしら?」
次男-キモン(小早川秀包)
「もう、いいってば! そんなことされたら、友達できないよ! それに、幼なじみのエウティッポスも一緒に訓練兵になるし。」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「そうか、あの子も居るのなら、ちょっと安心かしらね。」
幼馴染み-エウティッポス(白井景俊)
「奥さま、この僕にお任せ下さい! キモン君におかしな虫がつかぬよう、しっかり見張りますので!」
次男-キモン(小早川秀包)
「おいおい、エウテッィポス、虫におかしいもおかしくないも無いだろ? 蓼食う虫も好き好きだ。このキモンのことを好いてくれるのなら、どんな虫だって、ようこそさ。たとえ毛虫だってね。」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「いやんっ、毛虫っ!? もうっ! やっぱり、心配だわ! あなた、なんとかならないかしら?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「いや、キモンの言うとおりだと我が輩も思うぞ。この子なら大丈夫だ。キモンは放っておいても人に好かれて、なんやかやと世話を焼きたくなるような、そんな好ましい人徳があるように、我が輩には見えるぞ。そして、キモンに寄って来る奴は、不思議と良い奴ばかりのようだ。
それを証拠に、ここに居る連中の顔を見れば、なんとなくそれが解るだろ?」
後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)
「そうでしょうか?」
歩兵長
「さすがは三代目! 一言一句、違いねぇ!」
騎兵長
「フフフ、満場一致の賛成、ですな!」
皆な
「「「うん、うん、うん! 違いない、違いない!」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「おいおい、お前ら! 一人くらいは謙遜しろ!」
皆な
「「「ヘヘヘヘ、うん、うん、うん! 違いない、違いない!」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「やれやれ。」
次男-キモン(小早川秀包)
「あのさぁ、新しい鎧と兜、さっそく着てみても良いかな? これすごく良い匂いがするんだよ。」
皆な
「「「どうぞ、どうぞ。兜とか脛当てとか、痛いところは無いですか? ぴったりだと良いのですが。」」」
歩兵長
「おっと、そうだ、言うのを忘れてた! 若、この鎧を見繕ってくれたのは、アッティカ爺なんですよ。アッティカ爺! こっちに来て、若になんか声でもかけてやっとくれ!」
アッティカ爺
「フムフム、足許がちと、おぼつかなくての、・・・」
次男-キモン(小早川秀包)
「爺、大丈夫だよ、手を貸すから、ゆっくりね。」
アッティカ爺
「フォッフォッフォッ、すみませぬな、キモンの坊ちゃん。耳もちと遠くなりましての。ああ、ありがとう。そして、おめでとうございますですじゃ。」
次男-キモン(小早川秀包)
「うんうん、ありがとうね、爺! キモンのために、この鎧を選んでくれたんだって?」
アッティカ爺
「はいはい、こんな年寄りじゃから、流行り廃りも解りませんで、ただ頑丈なだけが取り柄の、そんなものですじゃ。」
次男-キモン(小早川秀包)
「うんうん、無骨な鎧だよね、格好良いよ、とても気に入ったよ! 早くこれで、訓練をしたいよ!」
アッティカ爺
「フォッフォッフォッ、キモンの坊ちゃんは相変わらず元気じゃの。この足萎えの爺の分まで、せいぜい頑張って下され。」
次男-キモン(小早川秀包)
「うんうん、頑張るよ! 爺、ありがとね!」
アッティカ爺
「フムフム・・・、フムフム・・・」
騎兵長
「若、実はドロンコイ婆からも、羽織を預かっているのです。」
次男-キモン(小早川秀包)
「おお、これは!」
騎兵長
「そこに、刺繍が入っておりますでしょう?」
次男-キモン(小早川秀包)
「うんうん、小早川ピライオス家の紋だね、良い感じだ!」
騎兵長
「少し歪んでおりますが、震える手で懸命に縫ったという話しです。」
次男-キモン(小早川秀包)
「そうかそうか、婆の手縫いか。なんだか、あったかいな。訓練で使うのもったいないね。・・・婆は向こうで元気にやってるのかな?」
騎兵長
「はい、オロロス王の許でお世話いただいているので、元気にやっているそうです。」
次男-キモン(小早川秀包)
「うんうん、それは良かった。お祖父さんの所なら、心配ないよね。いつか会いに行きたいな。」
騎兵長
「ドロンコイ婆も、あなたの晴れ姿を一目見たかったと思っていることでしょう。」
次男-キモン(小早川秀包)
「あーもう! いつかペルシャ人を駆逐して、自由に陸奥-トラキアへ行きたいものだ!」
皆な
「「「若っ! 頑張れ! 期待してますぜ!」」」
次男-キモン(小早川秀包)
「わぁ〜、鎧もマントもぴったりだ! どうだい、似合ってるかな?」
皆な
「「「キャー! 若っ! 格好良いっ! よっ、この色男っ!」」」
次男-キモン(小早川秀包)
「へへへ、父さん、どうかな? おかしく無い?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「ああ、なかなかの武者ぶりだぞ、さすがは我が輩の息子だ!」
皆な
「「「ヤンヤヤンヤ! ヤンヤヤンヤ!」」」
次男-キモン(小早川秀包)
「てやっ! くらえ、ペガ○ス流星拳!」
幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)
「うわー! やられたー!」
皆な
「「「ヤンヤヤンヤ! ヤンヤヤンヤ!」」」
次男-キモン(小早川秀包)
「てやっ! くらえ、ペガ○ス彗星拳!」
幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)
「うわー! やられたー!」
皆な
「「「ヤンヤヤンヤ! ヤンヤヤンヤ!」」」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「キモン! 浮かれてるところをすまんが、訓練兵の心構えとして、一つ言っておかねばならんことがある!」
次男-キモン(小早川秀包)
「はい、なんでしょう?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「その鎧兜はみんなからのありがたい贈り物だが、だがな、鎧や兜って奴は、あんまり大事にし過ぎるな。そいつらは、傷ついたり凹んだりするのが役目の、ただの道具でしかないのだからな。訓練兵の間に何度もぶっ壊すぐらいの気持ちで、しっかり訓練に励め。その度に新しいのを用意してやるからな。」
次男-キモン(小早川秀包)
「はい、父さん!・・・あっ、でも、せっかくの贈り物だし、」
皆な
「「「確かにそうだ! さすがは三代目! 若、俺らを気にせず、存分にぶっ壊してくれ! そんで、ついでに嫌な野郎もぶっ壊してやれ! ヤンヤヤンヤ! ヤンヤヤンヤ!」」」
次男-キモン(小早川秀包)
「みんな・・・」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「そういうことだ、キモン!」
次男-キモン(小早川秀包)
「心得ました! しっかり励みます! みんな、ありがとうー!」
皆な
「「「ヤンヤヤンヤ! ヤンヤヤンヤ!」」」
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