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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の二:O-284. 二年目の停滞
21/115

2-① 春の演劇祭り:その2

<O-283年><早春><山口-アテナイ市の運動場にて>


    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「くっそう! なんだかんだ、はぐらかされちまったな。キモンの奴らめ。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「うむ、あやつはなかなか、本気を出さぬからな。」


    青年c-マグネス(路阿弥)

「お~い、お前さんら、運動はもう終わったかい?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「マグネス、ようやく来たか! おめぇもちったー体を鍛えろよ! 俺たちゃ夏から『訓練兵』に行かなきゃなんねーんだぞ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「仕方ねーだろ? こっちはお前さんらほど裕福じゃねーんだよ。それにオイラのこの体じゃどんなに頑張ったって、大した兵士にゃなれねーよ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そういうことじゃねーんだよ。気持ちが大事だって話しよ。後で泣きぃ見るのはおめぇのほうなんだぜ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「なんだよ、今日は、ずいぶん説教臭ぇーな。『マグネスや、母さんは決して高望みはしないよ。でもね、せめて将軍ぐらいにはなっとくれ。』ってそれ軍人の最高位だから! テッペンだから! こんな母ちゃん一人で十分だぜ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「何、なま言ってやがる、マグ坊やのくせして。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「マグ坊やって言うな! そもそも言われてねーよ!」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「とにかくだ。俺らの同期に、新顔の野郎が現われやがった。しかも名家の御曹司だってんだ。あんな野郎に上行かれるのは我慢ならねぇ。そうだろ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「キモンの事か?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そうだ! あの野郎だ!」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「ふ~ん、あいつならこれから、音楽の先生んとこ行くらしいぜ?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「なんだって? 音楽だあ? だったら俺らも行くか!」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「おいおい、あんまり通うと、先生に嫌がられるぜ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「けどよぉ、あいつ、キモンには四度も稽古してやってるってーのに、俺らには一度しかしてくんねえ。あれぁ、どうにもおかしい。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「なんだ、近頃お前さんとは会わないから、もうあそこ辞めたのかと思ってたぜ?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そんな訳あるか。俺ぁ音楽が好きなんだ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「へえ~、そんなら、今なに習ってんだよ?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「冬来い節だ。あーーよーー、はーー、とくらあ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「お前さん、まだそれやってんのかよ。もう春だぜ?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「どうも喉の具合が悪くてな。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「お前の喉は、年中調子が悪ぃな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「ああ、生まれてこの方ずっとだ。だからな、先生に代わりに楽器を教えてくれ、っつったんだ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「おお、そいつは良い。そうすりゃお前さんの汚い声を聞かずに済む。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「で、まずは笛だっていうもんだから、俺もはりきってよ、こんな具合に、プーピープーとやらかした訳だ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「またずいぶん調子っぱずれだが、大丈夫かい?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「これは作戦よ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「作戦?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「いいか? こうやってプーピーやってると、先生がすぐ側まで顔を寄せてきてな、『ここはこうやるんだよ』って指なんか添えて優しく教えてくれたりなんかしてな。なんだったら、俺の笛を取り上げて、『ここはこう吹くんだよ』って、その口で吹いてみせてくれたりするわけよ。俺の口がついてたところをよぉ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「ほんと、お前はしょうがねえ奴だな。で、少しは上手くなったのかい?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「まー、プーピープー、くらいは吹けるようになったね。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「なんだい、そりゃ。おしゃぶりしてる赤子と良い勝負だな、こりゃ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「仕方ねえんだよ。なにせ、先生が洗い髪だったからな。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「なんで洗い髪だったら仕方ないんだよ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「なぜって、笛を吹く時にゃー、まず息を吸わねばならん。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「そらそうだ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「するってーと、先生の洗い立ての髪からな、良い匂いがガンガン入ってきやがるんだ、鼻の穴によ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「ん?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そいでよ、鼻の奥には脳みそがあってな、そいつに到達すると、フワーってなんだろ? だったら、もったいなくて吹いてられますかって話しだ。吸えるだけ吸うべきじゃねぇかって話しだ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「だったら、一生吸い続けてろよ! 何が真面目に訓練しろだ。音楽は真面目じゃなくていいのかよ?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「ヘヘヘ、プーピープー、っとくらあ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「そういや、ヘルモリュコスは、あの先生ん家でたまに手伝ったりとかしてんだろ? オイラたちの事、どんなふうに言ってんだい? こいつはともかく、こっちはそこそこ音楽出来る口だからな。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「うむ、そりゃあ知ってるが、裏のことは、先生の手前、言えぬぞ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「まあ、良いじゃーねえか。他には言わねぇからさ。」

    レ青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そうだそうだ、俺も聞いときてぇもんだ。あの先生とのな、今後の付き合い方にも響いて来る。事と次第によっちゃあ、音楽にも身が入ろうってもんだ。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「うーむ、じゃあ少しだけだぞ。そうだな、おぬしらのことは、ボロカスだな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「なに、ボロカスだって? いったいどっちがボロで、どっちがカスなんだよ?」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「そんなの知らぬわ、どちらも同じだろ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「いや、そこはでけぇぞ? 頼むからはっきりさせといてくれ。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「はぁ? なら、おぬしがカスで、そっちがボロだ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「マジか、俺はボロか! だったら、キモンのことは何て言ってんだよ?」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「ふふ、そうだな。キモンは酷い男さ。先生がせっかく楽器教えてるのに、先生に向かって、『まず教え方が悪い!』って説教さ。そいで、『せっかく教えてもらいに来てやったってのに、なんか飲み物でも出さねぇのは、一体どういう親に育てられたんだ?』、って具合でな、散々毒づいていやがった。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「マジか? あいつ、とんでもねえ野郎だな。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「とはいえ、先生のほうもな、まんざらでもないという感じで、『ご免ねキモン、ありがとう叱ってくれて』って具合に、しなを作るんだ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「おいおい、あの先生さんはそういうのが好きな性質たちだったのかい?」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「うむ、まあ、年増は、若い少年の我が儘が可愛いというからな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「くそお、許せんな、キモンの奴!」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「おいおい、ヘルモリュコス、もうそのへんにしときな。キモンはともかく、あの堅物の先生がそんな玉かよ。舐めた口聞いたらすぐ拳とか笞とかが飛んでくるような奴だぜ? しかも全然似てねえよ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そういや、口調も全然違うわな。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「『先生、いつも素晴らしい音楽を教えてくれてありがとう! 僕もエウティッポスもおかげで、人前で恥をかかないぐらいに上達できたよ。本当にありがとう、先生! エヘヘヘヘ。』(キラキラ)ってなもんだぜ、キモンなら。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「たしかに! さすがはマグネス、物真似がうめぇ。それに引き換え、やい、ヘルモリュコス! おめぇは滅多に冗談とか言わねえんだから、真に受けちまうじゃねえか。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「さあて、どうだかな? 表と裏が全く同じってほうが珍しいんじゃないのか? 人間ってやつは。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「おっ、どうした急に?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「まあ、色恋沙汰の艶姿は、その相方しか見れねぇしな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「おめぇもどうした?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「さあな、今頃よろしくやってんじゃねえのか、って話しさ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「なんだと、そいつぁ見逃せねぇな! 解った、だったら確かめに行くか、その裏の顔ってやつをよ。おめぇらも、ついて来い!」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「おい、ちょっと待てよ、ボロ!」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「はぁ? 置いてっちまうぞ、カス!」



<O-283年><早春><山口-アテナイ市のとある練習場にて>


    役者

「浦神-ディデュマの鐘の声ー、諸行無常の響きありー。」

    合唱隊

「「「浦神-ディデュマの鐘の声ー、諸行無常の響きありー。」」」

    役者

「卜部-ブランキダイの花の色ー、盛者必衰の理りをあらわすー。」

    合唱隊

「「「卜部-ブランキダイの花の色ー、盛者必衰の理りをあらわすー。」」」

    俳優

「浦上-イオーニアーは、柔①-ミレートスの話しで御座候。この町の始まりまで遡るに、今からおよそ五百年ばかり前の事、倭-ギリシャ本土は、民族移動の大混乱に陥っていた。逃げ惑う人々は、長州-アッティカに避難し、そこで怯えて暮らしていた。」

    合唱隊

「「「あー、わー、あー、わー。」」」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「あるぇ? キモンの奴、合唱隊に加わって、気持ち良さげに歌ってやがらあ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「知らなかったのか? あいつは、春祭りの劇に出演するんだよ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「え、そうなのか?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「ああ、プリュニコス(観阿弥)さんの悲劇だ。キモンの親父さんが、その世話役を勤めてるからな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「なんだよ、だったら息子の特権でゴリ押しか?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「そういう事だ。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「いや、そうとも限らぬぞ。あやつは歌もそこそこいける口だからな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「おっ、音楽の先生も居やがる。あんだよ、ずいぶん楽しそうにしゃーがって!」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「そうか、あいつはお気に入りだからな。音楽の先生の推しを受けたのかもな。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「なんだと、そいつはますます収まらねえな。こいつぁ野次り倒して、劇を失敗させるしかねーな。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「止めておけ、そういうガキみたいな事は。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「ガキじゃねえよ! ガキを合唱隊にゴリ押しするほうが、悪りぃんだ。悪い劇には、野次で迎えるのが、玄人ってもんだぜ。だろ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「おっ、レオボテスの旦那が珍しく良い事言った! そういう事だ、ヘルモリュコス。オイラたちは玄人の観客だ。そこらへんの浮っついた褒めるだけが能の素人風情じゃあねえ。厳しい客が居てこそ、演者も伸びるってぇもんだ。」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「おぬしら、何気取りだ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「あれっ? おいおい、キモンの野郎がこっち来るぜ。」


    次男-キモン(小早川秀包)

「おー、君らも応援に来てくれたのかい? どうもありがとう。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「ばっ馬鹿なこと言うない! 俺らがおめぇなんか応援する訳ねぇだろ? こっちは、音楽の先生に会いに来ただけだ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「あぁ、そうか。じゃあ、先生を呼んでこようか?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「いっいや、結構だ! 別に先生に会いに来た訳じゃねぇんで。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「どっちだよ!」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「俺らはな、劇作家のほら、あのなんて言ったか、そうだ! プリュニコス(観阿弥)、さんだっけか? あれに挨拶しとこうと思ってな。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「そうか、でも僕らへの指導でずいぶん忙しいからね、今すぐはちょっと無理かも。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「いっいや、結構だ! 別に作家に会いに来た訳じゃねぇんで。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「だから、どっちだよ!」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「それより、キモン、ずいぶん頑張ってるようじゃあねぇか?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「まあね、こっちに戻ってから、ずっと練習を重ねているんだよ。秋からだから、もう半年近くになるかな。でも辛くはないよ、プリュニコス(観阿弥)さんの劇はほんと素晴らしいんだ。美しくて、悲しくて。思わず時を忘れてしまうほどさ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そら、そうだ。あの人は、長州-アッティカでの第一人者なんだろ?」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「その通り、何度も優勝してる。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「てぇことは、倭-ギリシャ全土での第一人者っつうことでもある。俺ら山口-アテナイ人の誇りさ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「とはいえ、劇の競演に選ばれた作家は、もう二人居る。噂では、そっちのほうもなかなかの傑作に仕上がってるらしいぜ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「そうなのかい? だったら、君らも応援してくれよ。ネタバレはあんまり出来ないけど、ほんとに泣ける良い劇なんだ。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「ああ、任せとけ! 当日はよ、朝早く並んで、劇場の最前列に座ってやるつもりだ。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「じっくり見てやるから、とちるなよ、キモン。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「あ、練習が再開するらしい。」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「おー、頑張れよ、キモン。」


    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「あれっ? なんで俺たちキモンを応援してるんだ?」

    青年b-ヘルモリュコス(魁傑)

「うむ、おぬしら、練習を邪魔しに来たんじゃなかったのか?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「ったく! ほんと、キモンの野郎は、調子が狂うな。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「で、春祭りの当日は、ほんとに早起きすんのかい?」

    青年a-レオボテス(毛利秀就)

「そっそらー、俺も男だからな。一度口にした事は、よっぽどじゃなきゃ、引っ込めらんねえからな。しゃーない、いっちょキモンのために最前列とやらをおさえますか。」

    青年c-マグネス(路阿弥)

「まあ、しゃーねーか。キモンはともかく、劇は楽しいしな。」



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