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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の一:O-283. 一年目の脱出
2/115

1-① 最後の宴に集う人々:その2

<O-283年><晩夏><津軽半島-ケルソネソスのミルティアデス邸にて>


    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「お待たせしました、ヘカタイオスさん、我が家族が参りました。お義母上、こちらが、かの柔①-ミレトス市で政治を主導されていたヘカタイオスさんです。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「これは奥方、お初にお目にかかります。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「ようこそ、浦上-イオニアからのお客人。わたくしは、陸奥-トラキアの王・オロロス(最上義光)の娘にして、津軽半島-ケルソネソスの主・ミルティアデス(小早川隆景)の妻、名をヘゲシピュレ(問田大方)と申します。これが娘のエルピニケ、同じく息子のキモンと申します。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「こんにちわ。ミルティアデスの娘、エルピニケと申します。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「こんにちわ。ミルティアデスの息子、キモンと申します。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「本日はあいにく、夫が不在で御座いますゆえ、わたくしどもが代わって応対させていただきますことをお許し下さい。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、これはこれはご丁寧に。私の名前は、ヘカタイオス(北畠親房)。かの浦上-イオニア地方で、この町ありと言われた柔①-ミレトス市の出身で御座いましたが、祖国を失った今となっては、只の流浪の一歴史家といったところでしょうか。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「まあ、さぞや、お辛い目にあわれたことでしょう。けれどこの町は安全です。どうか羽を伸ばしてお寛ぎ下さい。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、お気遣い、誠に忝く存知ます。ところで、ミルティアデス殿にお会いするにあたって、手ぶらでというわけにも参りませぬゆえ、本日は手土産として、私が書きました『地球めぐり』の最新版を持って参りました。詰まらぬ物ですが、お時間がおありでしたら、目の慰みにでもしてくだされ。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「まあ、素晴らしい。こんな立派なご本を出されているのですね。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、お義母上、この本はとても有名なものですよ。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「いえいえ、まったく詰まらぬ物ですが。これは、私が世界中を旅して調査した研究結果を書き連ねたものであり、各地の地理と、そこに暮らす民族と、そこでの簡単な歴史をまとめたもので御座います。ここ津軽半島-ケルソネソスについても、少々載せてありますよ。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「巷で噂の『旅の友』って奴ですね? 旅人や冒険家はもちろん、商人にも重宝されてるってよく耳にします。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「まあ、さすがは著名な歴史家の先生。貴重なご本をどうもありがとう。あなたたちも後で読むといいわ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「はい、キモンはこういうの大好きです。冒険は憧れで、いつか世界を旅して回りたいんです。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、世界を旅して見聞を拡げるのは、特に若者には是非ともお勧めしたい。エジプトの巨大な三角錐と、どこまでも続く砂漠。あるいはメソポタミアの広々とした灌漑農耕地と、要害堅固なる城壁の町。そしてペルシア本国の桃源郷のように美しく心地よい高原、かたや北の大地スキュタイの地平線まで続く荒漠たる大平原。この世界はなんと広大で、限りない多様性に満ちている事か。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「うわー! キモンもその旅に連れて行って欲しいです!」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「それは駄目よ、キモン! あなたはミルティアデス殿の息子なのですからね。ペルシア人に見つかったら、殺されてしまうでしょ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「えー、でもヘカタイオスさんにくっついて、歴史家の弟子だって言えば大丈夫なんじゃないのかな?」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「キモン、お願いだから止めてちょうだい! そんな危険なこと、あなたが帰って来るまで、お母さん気が気じゃなくなってしまうわ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「そもそもキモン、『歴史家』って何かちゃんと知ってるの?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「もちろんだよ。えーと、たしか神話にも出て来るよね。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「神話に? えぇ、そう、ね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「山の中で、たまに見かけるアレだ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「山の中?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「茶色で、角が生えてて、足が頑丈だ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「茶色で、角? 足?・・・ちょっと待って、キモン! それってもしかして『カモシカ』のこと? もうキモンの馬鹿! 『カモシカ』じゃなくて、『レ、キ、シ、カ』! 『歴史家』っていうのはね、過去にあった出来事を、文章に記録して、未来に伝える仕事をされている方の事よ。ヘカタイオスさんも、そういう事をされているの!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「へー、じゃあ、僕がやった事なんかも記録しといてもらえるのかな?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「さー、それはどうかしらね。面白い話しなら記録してもらえるかもね。そうですわよね、ヘカタイオスさん?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、そうですなぁ、キモン君、あなたや、あなたのお父上が、歴史に残すほどの価値ある事を行えば、私ども歴史家が記録に残して、きっと後世にも伝わることでしょう。期待しておりますよ、是非頑張ってくだされ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「それは凄い! それじゃあ、一つ聞いてもらえますか? 父さんと僕との価値ある話しを。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム? どんな話しですかな?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「コホン、コホン! えー、僕の父さんは大酒飲みなんですけれど、えー、これはまだ肌寒かった頃の宴の時の話しなのですが、えー、酔いつぶれても延々とお酒をあおっている父さんに、えー、ついにみんな呆れてしまって、父さん一人だけ残されて、えー、手酌で飲んでいたんです。それで、僕が夜中に起きて台所に行ったら、えー、お酒を熱燗にするためか、父さんが大きい鍋でお湯を沸かしていたんです。『こんな真夜中に火を使って危ないんじゃないかな?』って思って僕が近づくと、えー、なんと!! その鍋の中には人の足がプカリプカリと浮いていた! 僕はビックリ仰天して、『父さんが煮込まれてる!』って叫んだら、奥の部屋から父さんがヒョッコリ顔を出し、『おう、キモン、そいつ取ってくれ。まったく仕方のねぇ野郎だ。ちょっと目ぇ離した隙に、我が輩の足袋が旅に出やがった。』・・・チャンチャン、お後がよろしいようで。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「もう、キモンったら! 偉い歴史家さんに、そんなつまらない話し、記録してもらえる訳ないでしょ?

 そーだ! そういえばわたしも、お父さんとのお話しが一つあります。聞いていただけますか!? コホン、コホン。えー、あれはとある日のとある朝でした。えー、お父さんはまたいつものように夜遅くまで飲んでいらしたようで、えー、二日酔いのせいか、髪の毛クシャクシャのままフラフラと起き上がってこられたのでした。そして、お父さんの足許を見ますと、靴下を左足にしか履いておられない。そこでわたしが、『お父さん、靴下を片方お忘れのようですよ?』、と笑いながら注意しましたら、お父さんは、『そんな筈は無い! 我が輩は確かに、靴下を起き抜けに両方履いたぞ!』、と言い張るのです。『お父さん、お酒がまだ抜けておられぬようですね』、などと私がからかっておりましたら、それでもお父さんは、『そんな筈は無い! 両足履いた覚えが確かにある!』、と繰り返されて譲らないのです。仕方が無いので、わたしはお父さんの部屋に行き、もう片方の靴下を探しておりますと、・・・なんと! お父さん愛用の腰掛け椅子の、その右前足が、しっかり靴下を履いていたのでした。・・・チャンチャン、お後がよろしいようで。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「いやいや、姉さん? どや顔してるところ申し訳ないけど、それもよくありがちな落とし噺でしょーよ?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「いやいや、キモン、駄洒落が落ちのあなたの話しなんかより、わたしの考え落ちのほうが遥かに価値ありでしょーよ? そうですわよね、ヘカタイオスさん?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「え、ええ、まあ・・・」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「あらあら、キモンもエルピニケも、そんな落ちの弱い話し、第一級の歴史家さんに記録してもらえる筈がないでしょう? もう、仕方無いわね。

 そうそう、そういえばわたくしも、あの人との話しが一つありますわ。聞いていただけますかしら? コホンコホン。えー、あれは、いつの事だったかしら。皆の者が寝静まったとある日の真夜中、あの人は寝酒だと言って、まだチビリチビリとやっておられました。その日はわたくしも寝ずに晩酌しておりましたが、さすがにそろそろ眠たくなってまいりました頃合いです。突然、天井の板がバリバリッ!と割れて見知らぬ人が落ちてまいりました。ええ、泥棒です。けれど、腰を強か打ったのか、逃げることもままならず、その場にうずくまってうんうん唸っております。すると、ミルティアデス殿は大笑いして、その泥棒にご自分のお酒を振る舞うと、『もっと飲め! もっと飲め!』、と奨めます。『ははーん、さては泥棒を酔い潰して、捕らえるおつもりなのね?』・・・と思いきや、あの人は泥棒の腰が治るまで家に置いてやったのです。『このミルティアデスの邸に忍び込むとは、おめぇさんもなかなかてぇした野郎だ! 欲しいもんがあんなら、好きなだけ持ってきな!』、と言って、本当に無傷で帰してしまったのです。わたくしが怒って、『泥棒に追い銭やってどうするのです!?』、と問い詰めましたら、『泥棒にだって情があらぁな。こうやって恩売っとけば、申し訳なく思って、もうこの邸に忍び入ろうなんて気は起こさねぇもんさな』と。・・・けれどその後、同じ泥棒に三度も入られましたし、その評判が他の泥棒仲間にも広まったのか、その後は毎日のように何かしら盗まれる事になりましたとさ。・・・チャンチャン、お後がよろしいようで。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「ちょっと、ちょっとー! お義母上まで! 普通、こういう時は、偉い人にふさわしい優れた逸話なんかを語るものでしょうよ? 父上の評判を下げるような、下世話な話しは止して下さいよ! それに三人とも、話しの中にさりげなく自分も登場させてましたよね? 父上のついでに自分も歴史に残してもらおうって魂胆ですか!?」

    三人

「「「テヘヘ。」」」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「まったくもう! フフフ、ごめんなさいね、ヘカタイオスさん。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「いえいえ、お気になさらずに。ただ、予めご了承いただきたいのですが、私は『歴史家』を名乗る以上、嘘や作り話を、事実と偽って記録に残す訳にはいかないと考えておるのです。神話はあくまで神話であるし、噂話しもあくまで噂話しでしか無い。歴史家というのは、劇作家や講談師などとは違い、たとえ面白かったとしても荒唐無稽な話しは排除いたしますし、いかにももっともらしい落ちがついた話しなども、むしろ嘘や作り話ではないかと疑うべきだと常々自戒しておるのです。ですから、私ども歴史家の話しは、他の娯楽のように面白くはないかもしれませぬが、どうかそういうものとしてご理解いただきたいのです。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「えーえー、解ります解ります! 逆に言えば、それこそが『歴史家』の存在意義というものでしょう。『人生』なんてものは、都合良く物事が運ぶことのほうが珍しいし、辻褄なんてめったに合いはしない。神を敬っている者が、必ず幸せになるとは限らないし、親を殺したのに天寿を全うする奴だって居る。劇やおとぎ話しのように、最後にうまいこと話しがまとまる、なんてことに慣れすぎていると、厳しい人生の不条理な現実に、実際ぶち当ってしまうと、慌てふためいて上手く対処できない奴になってしまうかもしれない。だからこそ、必ずしも落ちがつかない歴史を学ぶことが肝要である、そういうことじゃないでしょうか?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、これは驚きましたな。さすがは、ミルティアデス殿のご子息。私以上に『歴史』を簡潔に説明していただけたように思います。まさに、そのような意味で申し上げました。せっかく楽しいお話しをされていたのに、冷めるような事を口にしてしまい、申し訳ありませぬが。『その辺りの気遣いが、全く出来ない堅物だ』と、よく言われます。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、いえいえ、お構いなく。とはいえ、『現実は小説よりも奇なり』とも申しますよね? ありえないほど興味深い落ちがきっちりつく現実もたまには生まれましょう。英雄と呼ばれる人の一生なんか、得てしてそういうものですものね。だから私は常々こう思っているのです。我々もせめて、自分の人生に『幸せな落ち』がつくよう意識しながら日々を暮らすべきなんじゃないか、ってね。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「ほう。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「でも、『幸せな落ち』って、何かしらね?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「う~ん、それはやっぱり、愛する人に看取られながら逝くことじゃない?」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「たしかに、残される人のほうより、先に逝く人のほうが幸せかもしれないわね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「だったら姉さんは、愛する人の前で、毒薬を飲めば良い! そうすれば、姉さんは幸せだ!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「なんで、わたしが自殺するって話しになるのよ。そんなこと一言も言ってないでしょ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「なら、なんで先に死ぬだなんて言うんだ? キモンは、愛する姉さんが先に死ぬなんて考えたくもない。残された人が、可哀想だって思わないのかい?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「そうか、キモン、ごめんね。わかったわかった、わたしは愛する人と共に、長生きするわ。それがわたしたちの『幸せな落ち』だね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「そうだよ!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「やれやれ、キモンは、本当にエルピニケを愛してるんだね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「べ、別に、姉さんだけじゃなく、母さんもお義兄さんも、父さんも愛しているし、それに僕に関わる全ての人を愛したいだけだよ。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、ありがとう、私もキモンを愛しているよ。キモンは優しいから、出会った人みんなから好かれるしね。キモンはきっと歴史に名を残すような、そんな人物になるんじゃないかって、私は睨んでいるんだよね。

 ねえ、ヘカタイオスさん? 義弟は、歴史家さんの眼には、どう映るんでしょうね?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「お義兄さん、そういうの勘弁して下さい! あからさまな身内贔屓は恥ずかしいだけですよ!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あら、わたしもそう思うわよ。キモンは、すらっと長い手足に、美しい瞳ときれいな髪の毛を纏っている。きっと倭-ギリシャ民族の父と、陸奥-トラキア民族の母の血を両方受け継いでるから、良いとこ取りなのね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「それは姉さんだって同じでしょ? っていうか、外見の事ばっかじゃないか。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「もちろん、キモンの中身も大好きよ。ちょっと危なっかしいけど、さっぱりしてて、真っすぐで、とっても優しい。誰に対してもね。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「二人とも、キモンをおだて上げるのは、その辺で止めておいて。若者というのはね、只でさえ自惚れて、勘違いしやすいものなんだから。キモン、良い? あなたの将来には沢山の可能性が拡がっているけど、辛い努力を怠っては、何事も成し遂げられないんだからね。歴史に名を残すような偉い人に、怠け者は一人も居ないわ。そうですわね、ヘカタイオスさん?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、そうですな、奥方。一人も居ないとは言い切れませぬが、私が知る限り、歴史に名を残す人で、最も多い型は、才気活発で、勤勉で、とにかくよく動き回る人です。人より前へ、人より上へ、人より遠くへ、とにかく少しでも人より先んじようとする人こそ、歴史に名を残しているように感じます。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、なるほどなるほど、確かにそうですよね。ソロン(吉田松陰)とかポリュクラテス(村上武吉)とかペイシストラトス(大内義興)とか、有名な人は、そんな感じの人ばっかりだ。

 そうだ、キモン。せっかくの機会だし、ヘカタイオスさんに、そういう偉い人の歴史について色々教えてもらうと良いんじゃないかな? きっと君のこれからの人生に、素晴らしい参考になるだろう。構いませんよね、ヘカタイオスさん?」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、ええ、もちろんですとも。なんなりと尋ねてくれたまえ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「だったら、ついこないだの話しになるけれど、柔①-ミレトス市が陥落した時の話しを聞きたいな。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「陥落の話し、ですか?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ちょっと、キモンの馬鹿! そんな思い出したくもないでしょう話しを、当事者に聞くものじゃないわ!」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「そうよ、キモン! ご家族やお仲間を大勢亡くされているでしょうから、控えなさい!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「・・・、すみませんでした。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、ご配慮ありがとうございます。しかし、どうかお気になさらずに。私は歴史家であります。実際にあった事を記録し、それを人々に伝えるのが、私の仕事だと考えております。それを、個人的に気に入らなかったり、眼を背けたいからといって、記録しなかったり、語らなかったりというのでは、これまでの自分の信念を裏切る事になります。我が祖国の痛ましい歴史を、お望みであれば、存分にお聞かせいたしょう。ただし、これは軽々には語れません。必ず長話しになりますゆえ、それについてはご覚悟いただきたい。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、長話しになりますか? だったら、ヘカタイオスさん、我々は今宵、宴を催すのです。実は、ここ津軽半島-ケルソネソスを、我々は近いうちに去ることになるでしょう。父は、なんとかここを死守したいと考えているようですが、諸般の情勢を鑑みるに、津波のように押し寄せるペルシャ人の力は圧倒的で、いつまでもここで抗えるとは到底思えません。そこで、私どもは、これまでお世話になった人々にせめてものお礼をするため、ここで最後の宴をしようと、彼らを招き、滞在していただいているのです。遺憾ながら、父の帰りが遅れているため、彼らをお待たせする事態になってしまっているのですが、食事などは既にご一緒いただいているのです。そこで、もしよろしければ、ヘカタイオスさんも今宵、我々とご一緒いたしませんか? 歴史のお話しは、そこでたっぷりと。」

    歴史家-ヘカタイオス(北畠親房)

「フムフム、これはこれは、私のような者をお招きいただき、どうもありがとう御座います。それでしたら是非、ご一緒させて下され。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、こちらこそ、どうもありがとう御座います。それではこれから、宴の用意をいたしますゆえ、今しばらく、客室のほうでお待ち下さい。」



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