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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の一:O-283. 一年目の脱出
12/115

1-③ 故郷の思い出:その1(地図あり)


挿絵(By みてみん)


<O-283年><晩夏><津軽半島-ケルソネソスの鯵ヶ沢-カルディア城にて>

<ミルティアデス(小早川隆景)が山口-アテナイ市の民会で、その市民およそ三万人の前で、援軍要請の演説を必死になって行っている時、津軽半島-ケルソネソスでは、ペルシャ帝国軍の襲撃に怯えつつ、兵士や住民たちは城壁の中に籠って、ミルティアデスの帰りを今や遅しと待っていた。>


    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「キモン、キモーン! どこに居るー?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「お義兄さん、ここです!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「おお、キモン! 私はこれから港に降りて、客人たちを外へ逃がしてあげねばならない。だから、ここの持ち場はお前に任せるぞ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「お義兄さん、キモンはまだ十七歳です。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「心配するな。お前は何もしなくて良いから。なぁ、歩兵長と騎隊長、私が戻るまでキモンを補佐してやってくれ。」

    歩兵長

「了解です。万事、自分らにお任せあれ!」

    騎兵長

「了解です。キモン殿、よろしく。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「キモン、お前は余計な口出ししなくて良いからな。補佐の言葉にただ従っていろ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「はい・・・。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「補佐の二人も、キモンがなにか言っても、無視してくれ。たとえ敵が挑発してきても、城壁の外へは絶対出ないように!」

    歩兵長と騎兵長

「「はっ!」」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「では、行って来る!」


    歩兵長

「へへへ、坊ちゃん、そんな緊張なさらずに。敵兵の姿も見えないうちからそんなだと、肝心な時にくたびれて動けなくなりますぜ?」

    騎兵長

「そうですよ、キモン殿。我々はただ城壁の中に籠っているだけの、簡単なお仕事です。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「うん、分ったよ。君たちがそう言うのなら、君たちを信じて、そう思うことにする。」

    歩兵長

「へへへ、そいつはどうも。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「でも、だったら気を紛らかすため、何か話しをしてくれないかな?」

    歩兵長

「なるほど、そいつは良い。で、何を話します?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「そうだなー。だったら、まず、君たちの経歴を述べてくれないかな?」

    歩兵長

「へへへ、合点承知。では、自分のほうからいきましょうかね? ゴホン! えー、自分は三代目から、歩兵どもの指揮を任されてましてね、そのまま『歩兵長』って呼んでいただいてます。自分の親父は長州-アッティカの生まれだが、三代目に従ってこの地に来たり、自分も子供の頃にこっちに連れて来られたって感じです。そいで、成人してからは、常に三代目に従いまして、十二度のでかい戦さに参加したってぇのが自慢です、ええ。ペルシャ人やスキュタイ人とガチで戦った経験もあるんですぜ、へへへ。そんで今年ではや三十九歳。ガキは息子が一人、まだ幼い。ってぇところでしょうか。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「うん、大体知ってた。あと、エウティッポス(白井景俊)の親と従兄弟関係だったよね?」

    歩兵長

「ヘヘヘ、あの野郎と仲良くしていただいてるようで何よりです。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「あいつは、一番の幼馴染みだからね。」

    騎兵長

「ゴホン、それでは、次は私の番ですな。フム、えー、私は、この地を縄張りとする岩木-ドロンコイ族の族長の子として生まれまして、若い頃から父とともにミルティアデス殿の騎兵として数々の戦場に赴きました。その功績が認められ、今では騎兵隊の指揮官と岩木-ドロンコイ族の族長を兼務するに至っております。というわけで皆からは『騎兵長』、もしくは『族長』と呼ばれています。年齢は四十歳、子供は大勢居ますぞ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「二人とも歴戦の勇者だ。父さんの自慢の両腕ですね?」

    歩兵長

「へへへっ! あの方となら、地の底までお供しますぜ!」

    騎兵長

「フム、私も右に同じく。とはいえ、跡継ぎの四代目は、少々頼りないですがね。」

    歩兵長

「ううーむ、メティオコス(小早川秀秋)殿はなぁ・・・、普段はなかなか賢い意見も述べられるってーのに、今みたいな事態となるとからっきしだからな、とたんに吹っ飛んじまう。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「お義兄さんは、芸術方面なら凄いんだけどね。戦さは好きじゃないらしい。」

    騎兵長

「フム、きっと、平和な長州-アッティカに帰られたら、本領を発揮されるのでしょう。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「そういえば、君たち二人は、父さんがここを引き払ったら、どうするんだい? ここに残るのかい?」

    歩兵長

「いやいや、坊ちゃん? そんなつれねーことを! 置いてかねーでくれよ! まぁ、自分は、親父が元々山口-アテナイの市民でしたからね、長州-アッティカに戻れば、おそらくそのまま市民として復帰できるようなんです。しっかし、そうじゃねー連中は、在留外人にしかなれねーんですよね、実際これが。」

    騎兵長

「フム。しかも、私などは、陸奥-トラキアの出ですからな。異民族の男には、なおさら市民権など与えられぬでしょう。」

    歩兵長

「とはいえ、望みが全くねー訳でも無い。なんせ三代目は若い頃、山口-アテナイ市の総理大臣(筆頭アルコン)を勤めた事もあるお方だ。だからポリスの元老院議員の資格も持っていなさる、っつー訳で、帰国すればきっとまた重要な法案を提出して、そいつを通す事も出来るだろうさ。そうすりゃー、市民権の無い連中にも、市民権を与える事だって出来るに違いない。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「本当にそうなると良いな。そもそも、うちの小早川ピライオス家だって、先祖を遡れば壱岐-アイギナ島からやって来た、割に新参者の市民らしいしね。」

    騎兵長

「フム、まあ、本音を言えば、私は市民権などという面倒臭いものは、どうでも良いのですがね。ただミルティアデス殿の側に居られれば満足なわけでして。」

    歩兵長

「そうそう! 自分の家も代々、小早川ピライオス家に仕えてきた家柄ですからね、たとえ長州-アッティカじゃなかったとしても、どこへなりとついて行きますぜ? キモン殿!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「ありがとう、心強いよ!」

    騎兵長

「フム、ただし、その前に、この危機を突破しなくてはどうしようもなりませぬな。ペルシャ帝国の海軍は、海峡側の海岸地方をちょろっと襲っただけで、すぐに別の土地へ向かったらしいので、今なら、船でここを安全に脱出できそうですが、またこちらに戻って来て、この町と城を包囲でもされようものなら、万事休すになるのではないか?」

    歩兵長

「正直なところ、兵士たちの動揺も激しいな。隙見て、こっから脱走しようなんてぇ企んでやがる奴も、残念ながら居そうだ。」

    騎兵長

「フム、実は私の岩木-ドロンコイ族の中でもな、意見がまっぷたつに割れている。『このままでは滅亡する他ないので、ペルシャ人に寝返って、部族の存続を計るべきでは無いか』、と。」

    歩兵長

「まっ、そらそーだ。残念ながら、その意見は至極ごもっともだと思うぜ、自分も。こっちはお前さんらの安全を、もはや何一つ保証してやることが出来ねーんだからな。」

    騎兵長

「歩兵長よ、そのような情けは、かえって辛いものがある。私は他の誰よりも、三代目に忠節を尽くす気でいる。もっと『しっかり忠義に励め』と厳しく言ってもらいたいものだ。でなければ、この熱い忠義心は宙をさまよい、行き場を失ってしまう。」

    歩兵長

「とはいえ、お前さんは『族長』でもある。おのが部族の存続を計るってのも、大切な役目だろうよ?」

    騎兵長

「・・・。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「・・・二人に一つお願いがあるんだけれど、構わないかな?」

    騎兵長

「はい、何でしょう?」

    歩兵長

「『城壁の外へ出たい』ってのは無しですぜ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「違う、違う。アッティカ爺と、ドロンコイ婆を、ここに呼びたいんだ。」

    歩兵長

「そいつは構わねぇが、一体どうされるので?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「それと、兵士たちもみんな、ここに集めて欲しいんだ。」

    騎兵長

「フム、それも構いませんが、一体どうされるのです?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「せっかくだから、みんなで歴史の勉強をしよう! 我らが故郷、この津軽半島-ケルソネソスの歴史を。」

    二人

「「歴史?・・・」」



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