4-④ いざ出陣:その19(九日目)
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<出陣九日目><日暮れ時>
<O-286年><晩夏><萩-マラトンの平野><山口-アテナイ軍の陣地にて>
<アッティカ暦の第三月(現代暦の9月頃)十六日>
兵士a
「おおっ! 町から食料が大量に届いたぞ!」
兵士b
「これはなんという神様のお助けか!」
兵士c
「よーし、さっそく各組に分配しよう!」
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次男-キモン(小早川秀包)
「父さん、食料を無事運んで参りました!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「おお、キモンか、よくやった! でかしたぞ!」
次男-キモン(小早川秀包)
「はい、こちらの備蓄があと僅かだと聞きましたので。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「うむ、実を言えばここ数日、食料がかなり目減りしているため、全軍の兵士には腹八分目ならぬ、六分目ぐらいにおさえさせていたのだ。まさかここで十日も滞陣するとは想定していなかったからな。さすがにこの空きっ腹で決戦を行なうのは、少し不安だったのだ。しかし、これなら全員に腹一杯食わせてから、思う存分戦わせてやることが出来る。これはなんたる天佑か!
よし、すぐに食料を配ってやってろう。もう、残す必要もないぞ。今宵の晩飯は腹一杯、いや『腹十二分目ぐらい食べろ』と告げよ。」
歩兵長
「あはは、三代目、そりゃあ良い! ではさっそく!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「おお、しかしキモン、まさかお前が警固部隊に加わっていたとはな。」
次男-キモン(小早川秀包)
「父さん、実は聞いてもらいたいことがあるのだけれど?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「なんだ? 長話しは出来んぞ?」
次男-キモン(小早川秀包)
「実は、盲目の巫女さまが、一昨日の朝に神がかりされて、そして新たなお告げをくだされたんだ。それによると、前から言っていた『ピライオス家の者が指揮すれば異民族の軍に勝つ』という神託の解釈が少し間違っていたらしくて、『ピライオス家の者』というのは父さんのことではなく、キモンの事だというのです。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「は?」
次男-キモン(小早川秀包)
「そう、自分でも驚きましたが、盲目の巫女さまは、『これは間違いないことだから、一刻も早く戦場に赴き、そしてミルティアデスのすぐ隣りに居て、軍を指揮しなければならない』、というのです。キモンは、父さんから本城の守りを固く申し付けられましたので、それは難しいと考えましたが、姉さんや周りの友たちが、『これは本物の神託であるから、どうしてもキモンを戦場に送り届けてやる』、と力添えしてくれまして、本当にこうして到着してしまったのです。食料を届ける警固兵に各組から数名ずつの新兵を選ばせて、それでそこにキモンも加われるようにしてくれたんです。その道は、ペルシャ軍の別働隊によって脅かされていたのですが、盲目の巫女さまが町中にいた間者を言い当てて、そいつに白状させたため、敵を待ち伏せしてそれを排除する事に成功したんです。そうして、こうして無事ここまで到着できたのです。とにかく、ここに来れて、こうして父さんと再会できたのは、自分たちの力だけでなく、なにか神様の力のようなものを感じました。これを無碍にするのは、神様のご意志に逆らう事になるのかもしれません。どうか、このままキモンを戦場に残し、ペルシャ人と戦うすぐ側に置いて下さい!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「キモンよ・・・、しかし、この戦いの結果がどうなるかは、本当にわからんのだ。むろん我が輩は『必ず勝つ』と思ってはいるが、戦いに絶対はない、負ける可能性もある。負ければ討ち死にするかもしれないし、討ち死にせずとも、負け戦に誘導したとして、我が輩は責任を取らされ死刑になるかもしれない。我が輩ももう年だ、死ぬ事は怖く無い。けれどそれはキモン、我が輩の跡継ぎとしてお前が居るからだ。それなのに、お前をこの厳しい戦場のすぐ側に置いて、負け戦さに巻き込んで、親子もろとも命を落とすという事態になってしまえば、我が小早川ピライオス家の今後は誰が支えるというのだ? まだ婚約すらしていないエルピニケ(容光院)を一人残すことにもなるんだぞ?
いや、盲目の巫女さんは、『お前が居れば勝てる』と言ったのであったな。しかし、その神託が正しかったとしても、なんらかの手違いや勘違いで、実はこの戦いの事ではなく、次の戦いのことを予言していたという可能性だって無くはないだろう。だったら、勘違いでみすみすキモンの命まで失う必要は無い。」
次男-キモン(小早川秀包)
「父さん! さっきから黙って聞いてれば、まるで最初っから負けるのを前提で話しをしているように聴こえるよ! でも、勝つのだよね? 山口-アテナイ市の命運はこの一戦で決まるのだよ? この一戦で負けるのなら、たとえキモンが本城に残っていたとしても、そこだって安全とは言えなくなるし、敵軍が町中に入って来て、ここで討ち死にするよりももっと悲惨な目にあわされるかもしれないんだ。だったら、ここで勝とうよ、勝たなければならないよ!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「いい加減にしてくれ、キモン! お前は相変わらず親心のわからん奴だ。勝ち戦さだったとしても、親子揃って討ち死にする例も珍しく無かろう? 少しは空気を呼んでくれ。」
次男-キモン(小早川秀包)
「でも!」
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青年a-レオボテス(毛利秀就)
「おーい、将軍たちー!! 俺たちはー、食料を運んで来た新兵だー!! 俺たちはー、食料を運ぶ任務をー、見事に果たしたー!! だったら褒美をくれー!!」
新兵たち
「「「そうだ、そうだー!!! 俺たちにー、褒美をくれー!!!」」」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「俺たちもー、この戦場に残ってー、手柄を立てる機会をくれー!! こいつはー、当然の権利だぜー!! さっさと帰れって言われてもー、俺たちゃただでは帰らねぇぞー!!」
新兵たち
「「「そうだ、そうだー!!! 俺たちにも戦わしてくれー!!!」」」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「俺たちにもー、戦わせろー!!」
新兵たち
「「「戦わせろー!!!」」」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「俺たちにもー、戦わせろー!!」
新兵たち
「「「戦わせろー!!!」」」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「俺たちにもー、戦わせろー!!」
新兵たち
「「「戦わせろー!!!」」」
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主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「騒がしいな、なんだあれは? 誰だあいつは?」
次男-キモン(小早川秀包)
「彼は僕をここまで連れて来てくれた親友です。こんなことしたら、『キモンの経歴に傷がつくんじゃないか』って最後まで心配してくれた男です。本当は恐がりのくせに、僕をここに居させるために、『自分も戦場で戦う』って必死に叫んでくれてる男です。彼だけじゃなく、姉さんや盲目の巫女さま、訓練兵の同期生たち、みんながみんな、危険を承知で力になってくれたんです。父さんももう諦めて下さい。この戦いに本当に勝ちたいのなら、キモンをすぐ側に置いておくべきだ。そうすれば神様が勝つって太鼓判を捺してくれてるんだから、なにも心配はいらないよ。父さんは安心して、山口-アテナイ軍を指揮して下さい!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「まったく、お前というやつは。本当に空気が読めなくて、我が儘で、・・・はあ~、でも本当に頼もしくて、自慢のわが息子だな。
わかった、ならば、お前たち新兵は、各々が所属する組の将軍を護衛する役目にでも任じることにするか。やれやれ、新兵だからといって、怖じ気づいて将軍の足手まといになるようなら、厳罰に処すからな?」
次男-キモン(小早川秀包)
「はい、もちろんです! みんな精一杯、将軍を護衛します!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「はあ~。ただし、これは我が輩の一存では決められんぞ? 他の将軍たちが反対すれば却下なのだからな。」
次男-キモン(小早川秀包)
「父さん、その件についてはご心配なく。五組の将軍を通じて、根回しが出来てるはずだから。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「五組? クサンティッポス(桂小五郎)のことか? あいつは毛利アルクメオン家の男だぞ?」
次男-キモン(小早川秀包)
「はい、姉さんの女友達のコネで、味方してくれるそうです。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「エルピニケ(容光院)の? 一体どういうことだ?」
次男-キモン(小早川秀包)
「フフフ、父さん、戦況というものは時々刻々変わるらしいですよ。『昨日の敵が友になる』、『巨大な敵を前にしては、仇敵とも手を結ぶ』、です。詳しくはまた後ほど話しますから。
それより、山口-アテナイ軍の総指揮官どののご許可がいただけました! さっそく、他の新兵たちにも知らせて来ます、外で待っているので!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「あっおい、キモン! ・・・はあ~、やれやれ。・・・しかし、あいつのおかげで肩の力が抜けたかもしれんな、フフフ。うむ、この戦いは、きっと勝つな、フフフ。戦いが終ったら、キモンとエルピニケ(容光院)には結婚相手でも決めてやらねばな、戦いの後が楽しみだ、フフフ・・・」
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次男-キモン(小早川秀包)
「おーい、レオボテスー! 許可が出たぞー! 新兵たちも、ここに居残って構わないってさー!」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「おおー、キモーン! 良かったなー、全て作戦通りって感じだなー!」
次男-キモン(小早川秀包)
「ただし、新兵は各組に分かれて、将軍の警固だけしてろってさ。」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「そっかそっか。でもまぁ、それでも良いじゃねぇか、戦場にとどまれんなら、それで御の字なんだからよ。巫女さんのお告げにも叶ってるだろ?」
次男-キモン(小早川秀包)
「そうだな、ありがとう、みんなの御陰だ! 改めて礼を言うよ!」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「よせやい、礼なんていらねぇよ! だって、これはキモンの個人的な問題なんじゃなくって、あくまで市の勝利のためなんだからな。だってそうだろ? 俺たちのこの行動は実際、山口-アテナイ軍が勝利すんのにすげぇ意味あることだったとしか思えないんだよ。なにしろ、萩-マラトンに出陣した山口-アテナイ軍は、補給路を脅かされたことによって食料の備蓄がかなりヤバい状態になってるらしいからな。このまま行けば、敵に背ぇ向けて町まで逃げ帰って来るか、もしくは現地で腹すかして一歩も動けない状態になりかねなかったというんだ。つまり『キモンが戦場に行かなきゃ負ける』ってのは、キモンが行こうとしなけりゃ食料が無事届けらんなかったって意味で、まさしくその通りだったって訳さ。つまり、キモンの夢から始まって巫女さんのお告げも重なって、俺らはキモンを萩-マラトンへ送り出すって策をなんとか実現させることになったが、それは結局、こっちへ食料を無事送り届けるっていう結果につながったんだよ。これで山口-アテナイ軍は、腹一杯食べて戦えるという訳だ。『腹空かして全く戦えませんでした』なんてな情けない事は免れた訳だ。そして元気一杯で、あのペルシャ軍に勝利を収めることになるんだ!」
幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)
「あのさ~、盛り上がってるところアレなんだけどさ~、悪いけどまだ勝利なんてしてないからね? そういう、捕らぬ狸のぬか喜びってさ~、縁起が悪いって言うよね?」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「一々うるっせぇな、腰巾着は! 狸だか毛抜きだか知らねぇが、戦いってのは勢いなんだよ! 勢いが一等大事なんだよ! だから俺ら新兵はせいぜい騒いで、他の連中の士気を目一杯上げてやるのが一番の役目なんだよ! いいか? 俺らはこれから各組に分かれて将軍の警固を勤める、けどそれだけじゃ駄目だ。俺たちは町で女衆からの言伝も預かって来ただろ? あれをきっちり他の連中に教えて、発破をかけるんだよ。例えば、女衆を率いるアガリステ(津和野局)の姐さんはこう言ってたぜ。
『もしも、萩-マラトンに出陣した我らの本軍がペルシャ軍に敗れたなら、言葉の通じぬ異語族が、習慣の異なる異民族が、我らの町に雪崩れ込み、暴虐の限りを尽くすだろう。そうなれば、女は犯され、子供は踏みにじられ、老人は虐殺され、家々は焼かれ、聖なる本丸之丘も灰燼に帰すのだろう。男たちよ、我ら女はか弱き者を好むあなた方のせいで鎧兜の着方も知らず武器の扱い方も知らず、ただただ無抵抗に侵略者の横暴に身を委ねるしかない。ならば責任を取りたまえ、本当に男を名乗りたいのなら!
さぁ一万人の男たちよ、萩-マラトンでなんとしてでもペルシャ軍を退け、我らが町にこれ以上一歩たりとも近づけるな! さぁ今こそ奮い立て、長州-アッティカの男どもよ! かの『トロイ戦争』を歌いしホメーロスの英雄譚以上に、後世まで末永く語り継がれる程の光り輝く勲しを、その手につかみ取りたまえ!』
なあ、おめぇら、明日の朝には平野に下ってペルシャ軍と決戦だって噂だが、それまでまだまだ時間あるだろ? だったら俺たちは、せいぜい口で兵士たちを奮い立たせてやろうじゃねぇか!」
新兵たち
「「「おお、さすがはレオボテス、良く口が回りやがる! ていうか、これじゃあ俺たちが言うより、お前が他も回って全部やってくれたほうが良さそうだぜ?」」」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「馬鹿野郎、いくら俺でも、他所の組まで回ってらんねぇよ! でもまあ、どうしてもってんなら、やらねぇこともねぇがな。そら確かに俺は、新兵のリーダー格だからな、人より余計にやって当たり前か。そうだな、おめぇらがそんなに言うんなら、そんなに懇願するんなら、前言を翻すことにやぶさかでもねぇぜ?」
新兵たち
「「「うわ、ウゼェ! やっぱいいわ、自分の組のことは自分でやるから。さっ、みんな早く各々の組へ戻ろうぜ? ああ、それじゃあな!」」」
青年a-レオボテス(毛利秀就)
「えっ、もう行くの? 別に、俺はやるよ? 夜通しでも、え?」
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