1-② 援軍要請のための演説:その4
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<O-283年><晩夏><山口-アテナイ市の集広場にて>
右目
「山口-アテナイ市の市民の皆さーん! こちらの巫女さまが何ゆえ、浦上-イオニアでかくも有名であったのか?」
左目
「かくも有名であったのか?」
右目
「それは巫女さまの受けられる神託が、しばしば驚くほど正確に未来を予言していたからなのです。先の反乱でも、滅びて行く町の順番を、ほぼ正確に当てられ、人々を大いに驚かせたものです。」
左目
「ラデ島沖の海戦でも、どの町の部隊が一番先に裏切るかを、予め言い当てられ、人々を大いに驚かせたものです。」
二人で
「「その巫女さまのお言葉を、軽んじられるというのなら、それは神様への不敬である以上に、未来への目を瞑る愚か者と言わねばなりませんぞ! 各々方ー!!」」
市民たち
「「「ヤンヤ、ヤンヤ」」」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「総理大臣よ! ちょっと彼女たちに質問をしたいのだが、構わないだろうか?」
総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)
「ああ、構わないとも。議論が少々脱線気味である。ぜひ皆の前で有意義な発言をしてくれたまえ。」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「ありがとう! では期待に応えられるかわからぬが、とにかく話しを整理させてくれ。私の名はクサンティッポス、コラルゴス区出身だ。
さて、代弁者の双児くん、君たちが先ほど述べたその神託は、要するに『ミルティアデス君に我々の指揮権を委ねて、彼の意見に全面的に従え、さすれば勝利がもたらされるであろう』、という訳であるか?」
右目
「その通りなのです。」
左目
「それが、神さまの御告げなのです。」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「なるほどなるほど、それが本当ならまさに一大事だ。しかし、そのお告げが本物であると証明できるであろうか? いや失礼は承知ながら、私の子供の頃の話しだが、奈良-デルポイの神託を買収によって不当に歪めたという、神の名を汚す事件が起った。つまり巫女と神官を買収して、自分たちに有利なように神託を出させる、という事件だ。この事件は、神の神託なるものを、無批判に受け入れてはならない、ということを我々に思い知らせた事件であった。そのため、この教訓を活かし、市に関わる神託は、市の正式な神託使者によって、不正が行われないと検証できる状況で、しっかりと受け取ってきて、しかる上で市民の皆に披露する、という決まりになっている。
さて、そして今回の件であるが、とある神託を受けたと自己申告する巫女が、向こうのほうからこちらへやって来て、それをそのまま信じよ、という。しかも、その神託の内容は、その巫女が今お世話になっている者、つまりミルティアデス君が大いに得するような内容だという。いやはや、どうしたものか」
右目
「なんたる無礼な発言ですかー!? 我々を、いや巫女さまを嘘つき呼ばわりするとはー!!」
左目
「まったくですー! 神罰が恐ろしくないのですかー!!」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「山口-アテナイ市の市民諸君よ! 我々は、たわけた事をしでかさぬという事で有名な倭-ギリシャ民族の中でも、とりわけ抜け目の無い事で知られる山口-アテナイ人である! その我々が、妙齢の美しい女にほだされて国論を決定したなどという恥を世間にさらすわけにはいかないし、まして可愛らしい双児の少女の口車に載せられて、亡国への道を全力で突っ走って行くわけにはいかないぞ! もしもそんな話しをご先祖さまに知られたら、あの世に行ってからボッコボッコに殴り殺されてしまうだろうな!
いや、誤解しないでもらいたいが、私は別に君たちが嘘をついて我々を騙している事が決定しているとは言っていない。あくまで、君たちの申告が、正式な手続きと検証を経たものでは無いため、これをそのまま受け取る訳にはいかない、という事なのだ。もしもどうしてもと言うのであれば、時間は少しかかるが、例えばこれから奈良-デルポイに正式な神託使節団を送り、君たちの神託と同等のものが下されるかどうかを検証せねばならない。それを経た上でなら、我々とて、君たちの申告を信じる事にやぶさかではない、と明言しておこう。」
右目
「う、・・・。」
盲目の巫女
「・・・右目よ、今発言しているのは、どういう者ですか?」
右目
「はい、クサンティッポスという市民だそうです。年の頃は三十歳代半ばといったところでしょうか、そこそこの男前ですが、優男が鼻につく感じで、ミルティアデス殿には全然劣ります。」
市民たち
「「「ヤンヤ、ヤンヤ」」」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「おいおい、ずいぶんな評価だなあ? 議論での旗色が悪いからといって、容姿の値踏みで仕返しするってのは、下策だぜ、双児ちゃん? 私は別に容姿の美しさで市に貢献しているわけじゃなく、有意義な発言をすることによって少しでも役に立ちたいと願っているただの一市民だぜ、双児ちゃん?」
市民たち
「「「ヤンヤ、ヤンヤ」」」
右目
「うう、・・・。」
盲目の巫女
「皆さん、この身は大声が出ませぬゆえ、聞えづらいかもしれませぬが、どうかこの身の話しに耳を傾けて下さい。お願いします。」
市民たち
「「「おおー、巫女さんの美しい声が聞けるぞ! ヤンヤ、ヤンヤ」」」
総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)
「諸君、しばし静かにして、彼女の声に耳を傾けようではないか!?」
市民たち
「「「そうだそうだ、お前ら黙れ黙れ! ・・・シーン、・・・」」」
盲目の巫女
「ここ長州-アッティカはとても平和ですね。穏やかな風が吹き抜け、田畑には今年も順調に作物が実っている。街角では子供たちが楽しそうに笑い、大人たちも落ち着いて日々の仕事に勤しんでいる。こんな日々が、本当にいつまでも続くと良いですね。
けれど、浦上-イオニアもそうでした。かの地は気候の上でも、地味の上でも、誠に理想的な案配の土地で、暑くもなく寒くもなく、豊かな土壌の田畑が広がり、誰もが快適な暮らしを送れる場所でした。しかし、ペルシャ人の蹂躙によって全てが灰燼に帰しました。我らが浦神-ディデュマは滅亡こそ免れましたが、聖域は隅々まで踏み荒らされ、今では異民族が肩で風切りながら神殿の奥室までを我が物顔で闊歩する有様。この身はそれが悲しくてなりません。かの聖域は、浦上-イオニア人のみならず、倭-ギリシャ民族共有の聖地であったはず。倭-ギリシャ民族の中でも最も由緒正しきと称する山口-アテナイ人よ、混乱時代も唯一国土を明け渡した事が無いと誇る山口-アテナイ人よ、あなた方とて決して他人事ではないのですよ。いったい、いつまで目を瞑り続けておるのでしょう? 臭い物に蓋をしておけば、いつの間にか匂いが消えるとでも思っておられるのか? ここには本物の男はおられぬのであろうか?」
市民たち
「「「ザワザワ、」」」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「巫女どの! 申し訳ないが、話しが横道に逸れてしまっている。本件は津軽半島-ケルソネソスに援軍を送るか否かの議論であって、浦上-イオニアや浦神-ディデュマをどうするかの話しではない。加えて、あなたの証言には、一部明らかな間違いが含まれている。浦神-ディデュマは、柔①-ミレトスが包囲される前に白旗を上げたため、ペルシャ人もそこまで酷い扱いはしなかったと聞く。それを証拠に、かの聖域も、それを司るあなた方卜部-ブランキダイの一族も無事ではないか。つまり、過激な嘘証言で、我々の感情を煽ろうとしている訳だ。神官の娘どの、それはよろしくない。憚り乍ら、はしたないと言わざるを得ない。」
右目
「無礼な! いったいあなたに何が解るというのですかー! 巫女さまの悲しみに、偽りは万に一つも無いのです! そもそも巫女様がなにゆえ目が見えなくなられたか? それは聖域が蹂躙される様を目の当たりにされて、怒りの余り、目から赤い涙を吹き出され、それも枯れ果てた頃、目の光を失われたのです! それも嘘だと言うのですかー!」
左目
「はしたないと言うのですかー!」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「あなた方の不幸には、我々も同胞として、涙を禁じ得ないほど同情している! しかし、だからといって、あなた方と全く同じ考えにならねばならないというのは、申し訳ないが我が儘だ。我々を感情的にして、冷静な判断を下せなくさせようというのは、明らかな迷惑行為である、と指摘せざるを得ない。
いや、本当の事を言えば、この件に関して、君たちにはなんら罪が無い。罪があるとすれば、それは君たちのような女子供を、このような場へ引っ張り出したミルティアデスにこそあると言うべきだろう!」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「な!・・・」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「我々も舐められたものだ! これが君の切り札という訳か? なるほど、確かに彼女は美しい、そして双児は可愛らしい。彼女たちが泣きながら、あるいは怒りながら、切々と我々に訴えかける、これを袖にしては男がすたる。なんとか可哀想な女子供のために力になってやろうじゃないか。・・・私の友達はそんなことを言って、家の財産を食いつぶした上、今はどこに居るのやら行方知れずという訳だ。
しかし、ミルティアデスよ、君個人ならそれで良いのかもしれないが、我々三万人からなる市民団が、女の涙にほだされて、しなくとも良い事をして大怪我を負う訳にはいかないのだよ。口さがない者ならば、こう言うだろう。『あれはもしかしてミルティアデスの愛人なのか? 公衆の面前で不倫を見せつけるとは大した玉だ』、と。いやこれは言い過ぎたかもしれないが、とはいえ、そう思われるのも仕方無いだろう。なにしろ、君の切り札はあからさま過ぎる。美しくはかなげで、しかも目が見えない可哀想な妙齢の女性と、それに仕える健気で活発な可愛らしい双児の美少女。こんなものは大衆の気をそらすための数え役満ではないか!
けれどミルティアデスよ、それが返って仇となったかもしれないな。そう、抜け目の無い我ら山口-アテナイ人に対しては逆効果だったのだよ。むしろ参考人は、もっと色気の無い冴えない醜女だったほうが、その証言に信憑性が増していたかもしれんということだ。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「く、クサンティッポスよ、お前こそ、公衆の面前でなんたる破廉恥な意見を述べているのだ、恥を知れ! それに、自分一人の意見を、さも山口-アテナイ人全員の意見を代弁しているかのようにしてしゃべるのはよせ! 我が輩は別に大衆受けするからという理由でこの方を招致した訳ではない。ただ神託を尊重せねばならぬという気持ちと、彼女たちの熱い気持ちを汲んで、そうしたに過ぎない。
しかし、そもそも戦いというのは冷めた気持ちでは出来ないし、火傷するほどの熱い気持ちが無ければ勝てるものではない。相手が強敵ならば、なおさらだ。冷静に判断するのももちろん大切であるが、沸き上がるような熱い感情こそ、偉大な業績への導き手だ。君は、燃える火に冷たい水をかけることを誇っているようだが、もしかするとそれは偉大なる業績を勝ち取るはずの大切な火を消す残念な行為かもしれんのだぞ?」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「ならば、君が自分の情熱だけで、我々に火をつければ良いのだ! それを、真偽不明の神託や女子供にやらせようとするのが、詐欺とまでは言わないにせよ程度の低いまやかし誤魔化しだと言うのだよ! そもそも君のほうこそ、本当に我々を外地へ連れ出して、ペルシャ人と津軽半島-ケルソネソスで戦う事に、心の底から熱くなれると思っているのかね? 我々の国論はかほどに割れているのだ。中途半端な援軍が意味を持たないのは、浦上-イオニアへの援軍で十分に思い知ったはずだ。しかし、我々の本土でならば、ここ長州-アッティカでならば、市民が一丸となってどんな強敵とでも情熱的に戦うだろう。違うかい?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「そ、それはそうだろう。しかし、ここにまで攻め込まれるということは、よほど押し込まれた状態だという事だぞ? しかし今なら本土から離れた安全な場所で危険を払いのける事が可能だ。それをみすみす手放すというのはもったいないではないか。」
若手の市民-クサンティッポス(桂小五郎)
「しかし、君自身が言ったではないか。熱く燃え上がらないと、強敵には勝てないのだろう? 我々は津軽半島-ケルソネソスではそれほど熱くなれないだろうよ。」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「・・・」
市民たち
「「「ザワザワ、ザワザワ」」」
ミルティア
「・・・ともかく、我が輩はここの誰よりもかの地の情勢に詳しい。我が輩のほうがより正しく分析し、しかるべき判断を下せるであろう事は理解してくれたまえ。その我が輩から言わせると」
伝令
「伝令! 伝令! 民会の途中であるが、急ぎの報せであーる!!」
市民たち
「「「ザワザワ」」」
伝令
「浦上-イオニアからの早船により、帝国軍が、アジア側の掃討と占領を全て終えたとの由。ゆえに帝国海軍は、休む間もなく、すぐさま北海道-ヘレスポントスのこちら方面に向けて船出した模様。目的地は津軽半島-ケルソネソスか、もしくは下北-ビュザンティオンにかけてであろうとの由。」
市民たち
「「「ザワザワ、ザワザワ・・・」」」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「おいおいミルティアデスよ、あんたの予想では、まだ数ヶ月先、なんなら冬を越した春か夏になるだろうとの話しだったのだが? もう移動を始めたらしいのだが?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「我が輩も驚いている! 浦上-イオニアの残党狩りに、もっと手間がかかるだろうと見ていたのだが、・・・峠を越してしまうと、これほどまでに脆くなるものなのか・・・。」
有力市民-ヒッポクラテス(毛利隆元)
「やれやれ、君はここの誰よりもかの地の情勢に詳しいのでは無かったのかね?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「・・・。」
市民の息子-メガクレス(毛利輝元)
「そういやあ、今の報せに下北-ビュザンティオン市の名が出てたけど、あそこの連中はもう抵抗を諦めて、気仙沼-メサンブリア市のほうに逃れるつもりだという話しを聞いた事があるぞ。ミルティアデスよ、あんたたち津軽半島-ケルソネソスの連中はどうするのだ?」
主役-ミルティアデス(小早川隆景)
「・・・どうするも何も、我々の行き先は、君たちが援軍を送ってくれるのか、それとも見捨てるのかによって決まるだけだ。さあ、どうするつもりか? 山口-アテナイ市民よ! これ以上自分たちの縄張りを、異民族に踏み荒らされるのを、黙って見過ごし続けるのか? それとも、ここらで腹をくくって食い止めるのか? 我が輩が指揮する津軽半島-ケルソネソスの軍は、諸君の援助があるのなら、玉砕するまで戦い抜く覚悟でいるぞ。誇り高き山口-アテナイ市民の英断を、我々は期待する!」
総理大臣-テミストクレス(高杉晋作)
「ならば、これにて決を採ろう。ミルティアデスの提案、すなわち『津軽半島-ケルソネソスを援助して帝国軍と戦う』のに賛成か反対か、およそ三万人からなる山口-アテナイ市民の投票によって決めたい。これは今後の市の運命を大きく決定づける大事な投票である。各々心して投票いただきたい!」
市民たち
「「「ザワザワ、ザワザワ」」」
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