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『O-286. 萩-マラトンの戦い劇(主役は小早川ミルティ)』  作者: 誘凪追々(いざなぎおいおい)
幕の一:O-283. 一年目の脱出
1/115

1-① 最後の宴に集う人々:その1(地図あり)

<注意書き>

※本文中に古代ギリシャの地名や人名に、日本の地名や人名を併記していますが、これは古代ギリシャに馴染みの無い方向けに、連想しやすくしてもらえるようにとくっ付けてみただけのものですので、基本的に内容には関係ありません。ただし、なるべく似通った地名や人名を選んだつもりです。


<幕前>

     主役の独白

「我が輩の名はミルティアデス(小早川隆景)! 倭-ギリシャ民族の男で、まだまだ働き盛りの六十二才だ。出身地は、エーゲ海にあまねく鳴り響く、長州-アッティカは山口-アテナイ市! そう、かの文武両道の女神-アテネが守護し奉る、神話の昔よりいと名高い、倭-ギリシャ本土最古の国である!!

 ただし、今は津軽半島-ケルソネソスで、君主をやっている。長州-アッティカからは少々離れているが、早船ならば三日余りで着く場所だ。ここは悪く無い場所さ。海岸沿いには倭-ギリシャ人の町が幾つも並び立ち、内陸の野や山には放牧や狩りをして暮らす陸奥-トラキア人が大勢居る。それらを一つに束ねる我が輩は、いっぱしの権力者であり、ちったー名の知れた大名って奴なのだ。自分で言うのもなんだが、我が輩は彼らの良き主として、彼らの生命と財産を守って来たつもりだ。

 しかしっ!! もはやこれまでかっ! この広い広い! とてつもなく広い世界の! その地上の全てを! 全てを攻め従えん勢いの、かの強大なるペルシャ帝国の! その凶暴なる大軍が! その無敵なる精鋭部隊が! ついにここまでやって来るからだ!!

 ああ、解っている! 人の上に立つ者は、こんな時でも不安な顔を見せないものさ。全ては我が輩に任せておきたまえ。そう、このミルティアデスに!」 




挿絵(By みてみん)




<O-283年><晩夏><津軽半島-ケルソネソスのミルティアデス邸にて>


    長女-エルピニケ(容光院)

「キモン! キモーン!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「はいはーい、キモンはここに居ますよ、姉さん。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「もう! 自分の荷物を早くまとめなさい、って言ったじゃないの! いつまでそんなところに居るつもり?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「姉さん、この絵も持って行って構わないかな?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「気持ちは解るけど、その絵は大きすぎるわ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「でもこれ、ポリュグノトス(狩野永徳)の絵だよ。ここの風景をばっちり描いてくれてるんだよ。これがあれば、あっちに行っても思い出せるじゃん?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「駄~目! 大人が数人がかりで運ばなくちゃだから、お父さんにも叱られるわよ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「でも、姉さんが大大大大大好きなポリュグノトスの絵だよ? 姉さんだって、自分を描いてもらったエロい絵を持って行くんでしょ?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「エロい絵って何よ! 普通の似顔絵よ! それにあの絵は小さいから! 一人で簡単に運べるから!」 

    次男-キモン(小早川秀包)

「嫌だ! これは僕が引きずってでも持って行く!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「じゃー、こっちの絵にしときなさい。お城の前で家族みんなが並んでいるもの。これくらいならきっと許してくださるわ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「えー! この絵が良いの! この絵が良いの!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「キモン! あなた、もう何歳なの? 十七でしょ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「まだ、ギリギリ十六だよ!」


    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「キモンく~ん、引っ越しの準備、はかどってる?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あら、エウティッポス、こんにちわ。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「こんにちわ、お嬢さま。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「いいところに来たな、エウティッポス。ちょっと手伝ってくれよ。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「それが、そうしてあげたいのは山々なんだけど、そういう訳にもいかないんだよ。ああ、そうだ、これ、うちの畑で採れた果物たち、良かったら召し上がって下さい。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あら、こんなにたくさん、構わないの?」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「はい、うちもどうせ引っ越さなければならないですから、畑の作物を惜しんでいてもしょうがないので、配ってるんです。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「そっか、ありがとね、いただくわ。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「うん、これは美味しい! ちょっとおやつ休憩にしようか。エウティッポスも休んでいきなよ。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「それが、今夜もお屋敷で宴をするんでしょう? だから、うちの作物を運ばないといけないんだよ。野菜とか果物とか、あと家畜の肉とかもね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「ちょっとぐらいなら、いいだろう? サボろうぜ、こっちに坐りなよ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「もう、キモンったら! あなたもエウティッポスを見習いなさい。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「休憩したら、ちゃんとやるよ!」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「ごめんね、キモンくん。うちのおじさんうるさいから。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「あれ、今日は歩兵長が仕切ってるのかい? そうか、それならサボれないか。『エウティッポス、ボーッとしてねぇで、とっととやりやがれ!』だもんな。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「そうそう、家畜の肉は僕が削ぎ落せって言われてるんだよ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あら、エウティッポスって、そんなことも出来るの? あれって血まみれになるのよね?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「姉さん、知らないの? エウティッポスはこう見えて、けっこう血の気が多いんだ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「えー、意外! こんな可愛らしい顔しているのに。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「ちょっと、止めてよ、キモンくん! 僕だって家畜の解体ぐらいやれと言われればやるよ。ただ本当は、血はあんまり好きじゃないんだけどね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「『あらあら、ついこないだまでおねしょしてたような子が、ずいぶん逞しくなったのね。』」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「ちょっとー! なんだよ、その声音は?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ほんとほんと、ついこないだまでおむつしてたような坊やだったのにね。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「もう、お嬢さままで! 僕だってキモンくんと同い年なんだから、とっくにおねしょは卒業してるんですからね!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「フフフ、ごめんね。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「もうっ! プンスカ、プンスカ」

    長女-エルピニケ(容光院)

「フフフ、ところで、エウティッポスはもう片付けは済ませたの?」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「はい、僕は大したもの持ってませんから。手荷物程度でお仕舞いですから。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あら、偉いね。キモンとは大違い。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「でもエウティッポスだって、どうしても持って行きたい大事なものとかあるだろう? 何かかさばるものがあるなら、こっちの船に一緒に載せてあげるぞ?」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「う~ん、持って行きたいものなら、うちの畑とか家畜がそうなんだけどね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「おいおい、さすがにそれは無茶だよ。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「うんそうだよね、ごめんごめん。だから、僕の荷物は大丈夫だよ。自分が持てるだけで十分。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「エウティッポスは、相変わらずさっぱりしてるな。あんまり欲ってものが無いんだよ。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「う~ん、そうかなぁ~? あっ、そうだ、一つだけあったよ。どうしても持って行きたいもの、それはキモンくんとの友情だね。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あらあら。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「それさえあれば、他に何も無くても生きて行けるから。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「フフフ、突然の愛の告白ね? どうするのキモン?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「いやいや、そういうんじゃないよ、姉さん。僕とエウティッポスは、もう産まれた時からずっと一緒だったから、兄弟みたいなだけだよ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「フフフ、でもキモンは良いわね、こんな気安く言い合えるお友達が居て。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「姉さんだって、大勢居るでしょう?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「わたしは駄目よ。だって、お父さんの娘だからね。『お嬢さん』とか『お姫さま』とか呼ばれて、親しい子にも一線引かれちゃうもの。エウティッポスだって、わたしのこと、『お嬢さま』としか呼んでくれないしね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「そっか、そうだっ! エウティッポスも姉さんのこと、『姉さん』とか『お姉ちゃん』とかって呼んだらいいんだ。この僕が許可するぞ。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「え、突然、そんなそんな! 僕には、そんなことできませんから!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「あら、わたしは構わないよ。というか、わたしもそう呼ばれたいな。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「でも、おじさんとかに怒られちゃうから。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「『大丈夫よエウティッポス、あなたがおねしょしたことはお父さんやお母さんには黙っててあげるから、お姉ちゃんがきちんと干しといてあげるから、下着とかシーツとか早く出しなさい!』」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「ちょっと! なんの話しですか?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「『うえ~ん、ありがとうお姉ちゃ~ん。でもおしっこでびしょびしょだから、うまく脱げないよ~。』」

    長女-エルピニケ(容光院)

「『もう仕方無いわね。ほらお姉ちゃんが手伝ってあげるから、はい立っちして、エウティッポス、バンザーイして。下も脱がすわよ? あら、こっちのほうはちょっと大人になったみたいね。』」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「って、なに勝手なこと言ってるんですか~! もう、僕はお仕事が残ってますんで、もう行きますからね。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「うん、エウティッポス、忙しいとこわざわざ来てくれてありがとうな。」

    幼なじみ-エウティッポス(白井景俊)

「なにもなにも、それじゃあまたね。」


    長女-エルピニケ(容光院)

「さて、キモン。片付けの続きをやるわよ。あの大きい絵は、やっぱり駄目だから諦めなさい。」

    次男-キモン(小早川秀包)

「え~! 『お姉ちゃ~ん、あれも持っていきたいよ~! やだやだ、許してくれなきゃ、ここを動かないからね、うえ~ん!』」

    長女-エルピニケ(容光院)

「なにが、『うえ~ん』、よ! 駄目なものは駄目だからね!」

    次男-キモン(小早川秀包)

「え~!」


    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「おーい、キモン。その絵も持って行って良いから、早く荷物まとめような。恐ろしい異民族がもうやって来るぞ?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「あっ、お義兄さん! さすがですね、姉さんと違って話が分かる! 絵は大切だよね?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「お義兄さん、良いんですか? そんな甘い事言って?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、だって、絵は大切だろう? というか、私だって本当は銅像とか大理石の彫刻とか持って行きたいんだ。亡き母上の全身像を、本当は何に代えても持って行きたいんだ。それに比べれば、絵なんて軽いもんさ。仮に父上が駄目だって言ったなら、私がこっそりと私の船に積んであげるよ。だから、キモンも早く他の荷物をまとめてくれな?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「やりー!」

    長女-エルピニケ(容光院)

「もう!」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「それより、エルピニケ、君たちの母上はどこに居られる?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「え~、お母さんですか?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「うん。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「わたくしなら、ここに居りますよ、メティオコス殿。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「おお、お義母上、これは失礼いたしました。ちょっとお願いしたい事がありまして。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「その前に、ちょっといいかしら? エルピニケ、あなたまだあの絵描きに熱を上げてるの?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「ちょっ! 熱って! べ、別にそういうんじゃないから。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「何度も言うようだけど、あなたはミルティアデス殿の娘なのよ? あなたが付き合うべきなのは、お父さんの力になれるような逞しい男でなければならないわ。もちろん、あなたの好みも尊重はするけれど、さすがに絵描きというのは、ねえ?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「解っています、から。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「しかもあの人、絵を描くこと以外にはまるで興味が無いんでしょ? 倭-ギリシャ人のくせに、政治にも疎いなんて。あの白い手じゃ、槍はおろか、剣だって振れないわ。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「もう解ったから! 安心して! 彼は色恋沙汰にも興味ないみたいだし。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「それに、わたくしたちがこんなに慌ただしくしているというのに、あなたを手伝うどころか、今も一人で、のんびり海の絵でも描いているって言うじゃない? こちらの力になるどころか、むしろ足を引っ張りそうよね。」

    長女-エルピニケ(容光院)

「だからっ! もう解ったからっ! 話題を変えましょっ? お義兄さん、何か用があるんじゃなかったんですか?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、お義母上、よろしいですか?」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「はいはい、一体なにかしら?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「それが、浦上-イオニア地方から、そこの柔①-ミレトス市から、大切なお客人が来られたのですが、父上は長州-アッティカへ向かったっきり、未だ戻られません。ここ数日内には戻られると思うのですが、お客人はそれまでここでお待ちするとの由なのです。ですから、その話し相手をしていただきたいと思いまして。ヘカタイオス(北畠親房)という名の方です。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「それは構いませんが、その方は幽霊では無いでしょうね?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「幽霊?」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「その町といえば、その柔①-ミレトス市といえば、つい先頃、ペルシャ人に攻め落とされて、一人残らず殺されるか、さもなくば奴隷として売り払われたと、わたくしは聞き及びましたが?」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、ご安心を、決して幽霊ではありませんから。彼はペルシア帝国と戦う事に異を唱えていたというお立場から、皆殺しを命じられた柔①-ミレトス人の中でも、特別に処刑を免れたのだそうで。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「そうですか。それでしたら、お会いしましょう。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、ありがとうございます、お義母上。そうそう、エルピニケやキモンも同席させると良いでしょう。お客人は著名な『歴史家』でもありますから、きっと色々と面白い話しも聞かせてくれることでしょう。子供たちの良い勉強になる。さっそく客間にお連れしますので。」

    後妻-ヘゲシピュレ(問田大方)

「解りました。では、我々も身繕いした後、客間へ出向きましょう。」

    長男-メティオコス(小早川秀秋)

「フフフ、よろしくお願いします。」


    次男-キモン(小早川秀包)

「姉さん、なんでおめかししてんの?」

    長女-エルピニケ(容光院)

「お客さまがいらしてるからに決まってるでしょ! ミルティアデスの娘は醜女だったなんて他所で言いふらされたら、末代までの恥だからね。キモンもお行儀良くね?」

    次男-キモン(小早川秀包)

「は~い。」


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