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第8話 バッドエンドへの第1歩!

 周囲の娘たちはベリンダへと厳しい視線を送りつつ、アンディ王子には

『そんなことをおっしゃらないで』だとか『世間知らずの馬鹿娘の戯言です』だとか

『さあ、気を取り直して楽しみましょう』と、

なんとか取りなそうと必死だったが、アンディ王子は気持ちを変えるような気はなさそうだ。


「皆は私のことは気にせず楽しんでいってくれ。私は外の風にでも当たってくることにするよ」


 そうして従者を引き連れていってしまった。


(やったわ! これでバッドエンド不可避ね!)


 アンディ王子を敵に回したのだ。これ以降、ベリンダに近づいて来ようなんて者はいないだろう。

 アンディ王子が広間から出て行くときに、一緒に付いて歩いていた宰相のヒューバートがちらりとこちらを見たのは気になったが、まあいいのである。


「ちょ……っと、ベリンダ。とんでもないことをしたわね」


 ローズがこっそりと話しかけてきた。

 確かにとんでもないことをした。誰もが望んでいたアンディ王子のダンスの誘いを無下に断ったのだ。周囲の視線が痛いくらいだ。


「ちょっとあなた。一体どういうつもりですか?」


 人混みを切り分けるようにして、セシリーとその取り巻きたちがやって来た。当然のことながら、厳しい表情だ。


「まさかアンディ王子の申し出を断るなどと、考えられません? あなた、どなた?」


 触ったら皮膚を切ってしまいそうな鋭い言葉だった。

 なんて迫力だろう、裸足でこの場から逃げたいくらいだ。当然である、彼女は悪役令嬢であるのだから。


「ベリンダ・コーベットと申します」


 ベリンダはドレスの裾をつまみ上げて、セシリーに挨拶をした。


「コーベット……聞いたこともないわ。アンディ王子にあんな態度を取るなんて、さぞや高貴な家にお生まれかと思ってのですが」


「ええ、しがない子爵の娘です。ですが、それがなにか?」


「……なんですって?」


「誰と踊るのか、決めるのは私です。それを断っただけです。なにがいけないのですか?」


 ベリンダはばん、と胸を張って堂々と言い切った。

 セシリーはまさかこんなふうに言い返されるとは思ってもいなかったのか、さすがに苦い表情となった。


「あなた、王宮での振る舞いというものが分かっていらっしゃらないようね?」


 背筋が凍ってしまいそうな鋭い目つき。さすが悪役令嬢だ。

 しかし、こちらも元悪役令嬢なのだ。負けていられない。


「申し込みをされるならば、本当に私をその相手にと望んでくれる人でないと。王子の気まぐれでダンスをするなんてごめんだわ」


「あなたの意志など関係ないのです。アンディ王子主催の舞踏会で王子の意向に背くなどと……もう王宮には顔を出せないと思った方がいいわね」


「まあ、忠告ありがとうございます」


 余裕の態度でそう言うと、セシリーはぎりっと奥歯を噛みしめた後、ふぅっと息をついた。


「どうやら、相手をするだけ無駄のようですね」


 セシリーはくるりと背中を向けた。


「田舎者は放っておいて、私たちは私たちで楽しみましょう。アンディ王子も、きっと後ほど気を取り直して戻ってきてくださるでしょう」


 周囲にいた娘たちは、そうねそうね、と同意してセシリーと共に行ってしまった。ベリンダには心底軽蔑するような視線を残して。


(これで、無礼な娘にセシリーが意見したってことになれば、アンディ王子の好感度が上がるかもしれない。がんばって!)


 心の中で応援しつつ、これでコーベット家は王家の怒りをかって子爵の座を剥奪されるかもなと思っていた。

 しかし、いいじゃないか、先の6回でコーベット家はいい思いをしたのだからという気持ちだった。あの善良そうな家族が酷い目に遭うかもと思うと少々気が咎めたが、彼らは朝食がふかしたじゃがいもでも楽しそうに暮らしているのだ。これからなにがあっても案外それなりに楽しく暮らしていってくれるような気がする。


 だが、物語はベリンダの意向とは違った方向に動いていってしまうのだった。

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