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第49話 理想の令嬢

「なんですって? もう一度言ってみなさいよ!」


「? 別に構わないけれど。あなたたちがなにをそこまで怒っているか分からないわ」


 その言葉に、その場の空気が更に熱気を帯びたものに変わったのが分かった。

 それは言ってはいけない言葉だった、と、離れて見ているとよく分かる。それはこの娘たちを侮った言葉だ。


「さっきから言っているじゃない! 私たちに隠れて城下町に下りるなんて反則だって!」


「だから。なんでもかんでもあなたたちの許可が必要なわけ? あなただって、私にはなにも知らせずに婚約したじゃない? 婚約パーティに招待されて初めて知ったけれど」


「そ、それは……。私の婚約になんて、興味がないと思ったからよ」


「興味がないかどうかは私が決めるわ。なにも知らせないなんて、ずいぶんと薄情じゃないかと思ったけれど?」


 こうしてセシリーに迫っていたひとりは沈黙したが、すぐに別の誰かが声を上げる。


「そ、そうよ! 私たちもセシリーがずいぶんと薄情だと思って傷ついたのよ! 私たちは運命共同体のはずでしょう?」


「そんなこと、誰が決めたの?」


 セシリーの冷たい言い様に、さすがにそれはないんじゃないかとベリンダはやきもきしてしまう。


「た、確かにセシリーと誓い合ったということはないけれど……でも、ここにいるみんなはそう思っていたわ」


「あなたは私たちにとって憧れの存在だったのよ! それが、庶民に交じって票稼ぎ?」


「あたたは私たちにとっての象徴だったのよ。だからみんな集まったんだわ。気高く、誇り高く、美しく、なにものにも動じない」


 ああ、その気持ちはよく分かるなあ、とベリンダは納得してしまう。

 そう、セシリーは女性が憧れる怜悧で美しい女性なのだ。ずっと気高くそのままでいてほしい。


 ただ、本人にとってそれは望ましいかといったらそうでもない場合もある。特に、冷たく高慢ちきな印象で男性が近寄ってきてくれないという点である。


「それが、あんな見苦しいことをして!」


「王宮でも話題になっているわ。恥ずかしいと思わないの?」


 セシリーがぐっと押し黙る。

 見苦しい、と言われたことに彼女のプライドが傷ついたのだろう。

 それに気をよくしたのか、取り巻きの娘たちは更にセシリーを追い込む。


「あなたには誰もが羨むような高貴な人と結婚してもわらわないと困るのよ」


「でも、だからって花冠の女王になるためにみっともないことはしてほしくないの」


「私たちの理想を壊さないで!」


「……そんなの、あなたたちの勝手じゃない!」


 とうとう堪らなくなってベリンダはセシリーを取り囲む輪の中に入っていってしまった。

 みんな、なによこの小娘、という表情をしていたが突然の闖入者におののいたのか、取り巻きたちは場所を空けた。


「そうやって理想を追い求めて、掴めなくて、ひとりで年老いていって……そんなことになったら誰がセシリーの人生に責任をとってくれるの? 自分たちの考えを押しつけたりしないで!」


「なんなのよ、あんた?」


 気の強そうな娘がベリンダの肩を小突いてきたので、それよりも強い力で小突き返してやった。

 まさか反撃されるとは思っていなかったのか……ベリンダは顔からしておっとりとしているので、ちょっと強い態度に出たら怯むとでも思われたのだろう……目を瞠り、信じられないという表情でこちらを見る。

 ベリンダはそれをせせら笑うように腕を組み、周囲の娘達を睨めつけた。


「大勢で寄ってたかってなんなの? そちらの方がよっぽど見苦しいわよ」

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