第46話 花冠祭りはじまる
もう何回も経験しているから慣れたものだったが、花冠の娘となった者はすごい数で、集合場所となっていた広場は人がごったがえして息苦しいほどだった。
しかも着飾った年頃の娘ばかりである。
ドレスが人を圧迫する。
ここは石畳が敷き詰められている噴水広場なのだが、自分の足下さえ確認することができないぎゅうぎゅう具合なので、果たして自分が石畳の上にいるのかどうかすら分からない。
そしてこれだけの人数が集まるとさすがに娘たちの声がうるさいくらいである。できれば耳栓をして過ごしたい。
「皆さん! 静粛に、静粛に……!」
祭りの取り仕切り役である兵団長が声を張り上げるが、なかなか静かにはならない。
「分かっていると思うが、これから皆さんにはこの花の籠を持って街の入り口であるこの広場から、街の中央にある広場までを歩いてもらいたい」
構わずに話し始めた彼の言葉に、だんだん娘たちの注意がいくようになり、徐々に静かになってきた。
「今回はいつもより人数が多いので、混乱を避けるためにも三つに分けようと思う。籠にこのようにリボンがついている」
そうして彼は赤いリボンがついた籠を掲げた。
「赤いリボンをついた籠を受け取った者が第一陣として間もなく街へ出る。青いリボンは第二陣、黄色いリボンは第三陣とする。それぞれ、指示があるまでここで待機するように!」
えぇぇ? という声があちこちから上がった。例年にはないことなので当然のことだ。ちなみに、第三陣になるとこの場で昼過ぎまで待たされることになる。
兵士たちの手で籠が配られ始めたので、ベリンダは赤いリボンの籠を狙った……が、結局青いリボンの籠になってしまった。
いつも通りだ、仕方がない。
「あら、あなたも青いリボンなの? おそろいね」
おそろいもなにも、ここに居る三分の一は青いリボンだよ、とついつい言いたくなったが堪えて微笑んでおいた。
「私はマリー。ねぇ、友達とはぐれてしまったの。あなたもひとりみたいだから、よかったら一緒に行かない?」
「別に構わないけれど」
青い瞳で金色の波打った髪が美しい娘だった。
見覚えのない娘だったが、着ているものからしてどこかの貴族か大金持ちの商人の娘ではないかと思えた。
「でも、私は知り合いを探しているの。もし彼女を見かけたらそちらに行ってしまうかもしれないから、別の人を探した方がいいんじゃなくて?」
「じゃあ、あなたがどこかに行ってしまったら別の人を探すわ」
せっかく声を掛けたのにそっけなく別のところに行くのが悪いと思っているのか、それともあまりなにも考えていないのか、マリーはベリンダから離れようとせずになんとなく、うわべだけの話をすることになった。
「それにしてもすごい人よね。さすが、アンディ王子の花嫁の座がかかっているだけあるわ」
マリーは周囲の娘たちを見つめながら言う。
「そうね。去年の倍はいるかしらね?」
「倍どころじゃないわ。聞いた話では、アンディ王子の花嫁になれるかもしれないということで、別の街から移り住んできた娘もいるという話よ」
「あなたも、アンディ王子の花嫁の座を狙っているの?」
ベリンダの問いに、マリーはいたずらっぽく笑ってから肩をすくめた。あんまり乗り気ではないように思える。
「出るのが当然、みたいな雰囲気だったから仕方なく、よ。この人数だもの、私が女王に選ばれるなんてまずあり得ないし」
「まあ、そうよね。私も、まさか女王に選ばれるなんて思っていないわ」
「本気で狙っている人もいるけれどね。ほら、向こうの侯爵令嬢とか」
そうしてマリーが顎をしゃくった先にはセシリーの姿があった。
彼女も青いリボンがついた籠を持っていることは確認できたが、今は取り巻き達に囲まれていてとても近づけそうにない。




