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第33話 彼が助けてくれるなんてあり得ない

 そんなまさか、と体を強ばらせているうちに、娘たちがさっとベリンダからどいた。


「申し訳ありませんでした、ヒューバート様」


 娘のひとりがドレスの裾を持って深々と腰を折ると、他の娘たちもそれに続いた。


「しかしながら、この娘、少々生意気なところがあったので意見していたところでして」


「道さえ空けてもらえれば、君たちが誰が意見しようが興味がない。用事が済んだなら早く王宮から離れたらいい。ただでさえ今日は騒がしくていけない」


 そっけなく言って、そのまま立ち去ってしまった。

 ベリンダはその背中を、羨望の眼差しで見つめる。


(さすがヒューバート様、こんな娘たちのいざこざには一切興味がないのね)


 自分を助けてくれようとしたわけじゃないんだ、とがっかりしたりはしない。

 だってヒューバート様なのだ、自分なんてその辺の石ころごとき存在で、この前は少し気にしてくれたがそれは彼のきまぐれであって、もう興味を失ったのだろう。

 娘たちは、ベリンダにぶつけられた言葉よりもヒューバートの言葉がショックだったようで、とてもしょんぼりした表情で行ってしまった。


 ベリンダとしてはショックどころか、急いで家に帰って今ヒューバート様が言った言葉を書き留めておきたい気持ちだった。

 そうだ、ヒューバート様語録を作ろう。


 今までヒューバート様が言った言葉を書き留めておくのだ。そうだ、それがいい。

 そうして浮き足だった気持ちでいると、せっかく王宮に来たのだから図書室へ寄って行こうと気持ちになった。カーティスのおかげであのうんざりとした列から解放されたので時間はある。

 そうしてベリンダは図書室へと足を向けた。


「紙とペンを貸していただけませんか?」


 図書室に着くなり、この前の司書さんがいたのでそう頼んでみた。

 すると彼はすぐに紙とペンとインクを持ってきて、なにか書き物をするならば向こうの席があるからと、親切にも案内してくれた。


「若いお嬢さんが勉強熱心なのは見てて嬉しいからね。宰相様の許可もあるんだ、いつでも来なさい」


 そう優しく言って、勉強の邪魔をしてはいけない、とあまりに立ち去った。


(ごめんなさい、これから書くのはヒューバート様語録であって、勉強するわけではないんだけれど)


 なんだか悪いから、今日はちょっと勉強になる本を借りて帰ろうと決めた。それに読み終わった本も返しに来なければならない。


(さて、それはさておき、早速始めようかしらね)


 ペンにインクをつけ、紙にヒューバートの言葉を綴っていく。

 一言一句、正確に綴ろうとするが、今さっき言われた言葉はいいとしても、この前彼が口にした言葉については、内容は忘れていないが、細かい言葉の言い回しには自信がない。

 これからは簡易製のインク壺とペンと紙を持ち歩こうかと思うが、もうヒューバートに会う機会があるかどうか分からない。


 ……いや、それを期待して持ち歩こうと決めた。

 そうして機嫌良くペンを走らせていると、自分の目前に誰かが座った気配があった。

 そこは長テーブルに、二十席ほどがある閲覧席であり、自分が来たときには誰も座っていなかったし、自分の向かいに座らなくとも席はたくさん空いているはずなのに、と思って気になって顔を上げると。

 目前にほおづえをつき、じっとこちらを見つめているヒューバートの顔があった。


「ぎゃっ」


 思わず叫んでインク壺を倒しそうになってしまったが、ヒューバートがそれを押さえた。

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