この目蓋が下りるまで愛して。
初めてキミを見た時はあんまり暴君だったから、
名前をつける直前までずっと【上様(仮)】だった。
確か子供だから最終的に【若様】にしたんだったね。
でも今やキミは【じいや】で、今朝方【仏様】になった。
我が家は代々動物は外で飼う決まりだったから、年に数回しか家には上げられなかったのに、キミはずっと家に上げてもらったことを憶えていたね。
家族の声を聞くのが好きだったから、ちゃんと小屋があるのにいつもリビングの近くにある床下にいたよね。
家族旅行に行く時は、キミをちゃんと冷暖房設備のペットホテルに預けたのに、二日もすればお店の人から「ストレスでお腹を壊してます!」って悲痛な声の電話を受け取ったよ。
どんだけ家族が好きなんだ。
愛が重いよ。
でもキミは気性のせいでペットショップでも売れ残っていたから、考えてみたら怖かったのかもしれないね。
ああ、そういえばキミは脚が生まれつき悪かったから、散歩で一緒に走ったこともなかったなぁ。
そのくせ凄い執念で、家族がゴミを捨てに出てくる裏口の高い石の階段を上ってきたよね。ドアを開けるたびにその背中にドアが当たるから、こっちは結構気を使ったんだよ?
夕方になると毎日近くの学校のチャイムに合わせていつも遠吠えしたけど、キミは驚くくらい咆哮音痴だった。
真っ黒などんぐり眼のキミが、私を見るたびに笑ってくれるから。
自信が持てない自分でも生きてて良いんだと思えたよ。
長いようで短かった十五年。
十七歳の頃からの付き合いだった。
痩せてうっすら開いた目蓋が閉じるまで掌で温めてあげるから、安心してゆっくりおやすみ。
その舌がもう手の甲を舐めてくれることはないけど、我慢するよ。
仕事休みに逝ってくれてありがとう。
最後まで何て出来た奴なんだ。
おやすみ、
おやすみ、
愛してる。
だからどうか、良い旅を。
追伸・兄貴がキミに買い溜めた高級缶詰めどうするんだって泣いてるよ。
時々は、夢で良いから食べに来て。
咆哮音痴=鳴き声が短くて咽せてるみたいで音痴だったんですねσ(´ω`)
これは造語なので、誤字ではありません。
だけど気にかけて下さった読者様、ありがとうございます。