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六、彼女の言葉(7)

 鎧の上からでも胸を圧迫するほどの強打。

「──ッバ……!」

(バルバド?!)

 彼の右手が俺の鎧から遠ざかる。

 勢いよく突き飛ばされた俺は、四メートルほど後ろまで吹っ飛び、背中から床に激突。バウンドするようにして一回転し、後頭部をしたたかに打ちつけた壁際で静止した。

「ゴホッ、ゴホッ」

 無理矢理止められた呼吸の分を取り戻そうとするように、急いで空気を肺に送り込もうとして咳き込む。

「なんっ……なんで」

 思わず涙目になる。

 もちろん、仲間の身に危険が迫っていれば、合図すら送らずに突き飛ばすことだってある。

 だから今度もそうだったといえばそうなんだけど、それにしたって力が強すぎる。全力を振り絞ったってくらいの強烈な一撃だった。

「バル……バド……?」

 何が起きたのか、俺は見極めようとした。

 連戦の疲れと相成ってガクガクする膝に鞭打って、よろよろしながらも立ち上がった。

 彼は掌を俺の方に向けている。それは俺を突き飛ばしたんだから、当然の事。

 けれども、どうしてなんだ。

 どうして?

 なんで彼は──そのままなんだ?

「バルバド……何があったらそんなになるっていうんだい? あんた、顔色が悪すぎるよ。こんな時に限って、たちの悪い冗談はよしてくれよな……」

 声が震えた。

 目の前に佇む彼の姿に愕然とした。

 茶褐色だった肌は、血の気を感じさせない灰色に成り果て、鷹の眼のように眼光鋭かったはずの瞳には、精彩が欠如している。

 口は何か言いたげに開かれているのに、開いた口の中にまで灰色が侵入していた。

 胸を上下すらさせずに、微動だにしないバルバド。

 悪い夢なら覚めてほしい。だってそうじゃないか、あれじゃぁまるで、

 石像──。

 黒龍と戦った広間にあった石像の姿が脳裏に浮かんだ。

 皆一様に虚空を見つめ、生気の影すら無いたくさんの石像たち。

 きっと過去の偉人の偉業を称える為に作られたんだね、と笑い合っていたのが遠い昔の事のよう。

 それなのに、物言わぬ石の塊と化してしまったバルバドがそこにいる。

「──ハッ?!」

 弾かれるように向かい側にいるスキップに目を移した。

 黄金色の宝箱を開けたのは彼。

 その前でしゃがみこんだスキップがいる。

 けれど、

(そんな……! これが嘘なら、早く俺に教えてくれ!)

 美しく飾られた室内は、これから別の世界へと連れて行かれる者たちへの、せめてもの手向けだったのか。

 どのように華麗に彩られたように見えたのだとしても、ここはまだ俺たちの住む地上とは隔絶された闇の領分だったのだ。

 真っ黒な眼帯も白と交われば灰色に変わってしまう。最早そこには色の区別などなく、焚き火が燃え尽きた跡に残った灰のような色があるのみ。

 スキップが無言で目の前を見つめている姿があった。

「……エス。……エルエスは?!」

 茫然自失の足取りで、右足を前に出す。

 と──。

「来ないでッ!」


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