六、彼女の言葉(6)
多分、俺たちはどこか気が緩んでいたんだと、思う。
それはアウフ・ドラゴロスというとんでもないドラゴンを苦戦の末に倒すことができたことだったり、誰にも踏破されたことのないであろう塔の頭頂部まで辿り着けたこと、俺たちが今いる部屋の洗練された美しさ。
それぞれの要因が重なってのことだったろうけど、一番の理由は、俺たちに思慮が足りなかったことだ。
塔から脱出するまで石橋を叩いて渡れば良かったのに、心が浮ついていた。
俺たちの未来は希望に溢れているんだと、信じて疑っていなかった。
十八歳の俺なら尚更、二十六になるバルバドだって、百年も生きているような老人にしたら、まだまだ子供だ。道半ばにして達成感に浸っている俺たちの行動を止めることのできる人間なんて、ここにはいなかったんだ。
「ディスペル!」
エルエスがワンドの先端を向けると、スキップが宝箱の蓋に手をかけた。
「念のためにディスペルマジックをかけたんだろう」
バルバドが二人の元へと歩き出す。
「いよいよお披露目だぜ! さぁて、どんなお宝が俺らを待ってんのかな?!」
ウキウキした表情で、スキップが白い歯を見せる。
「魔法のアイテムは絶対に売らないのよ、わかってる?」
「わーってる、わーってるって」
スキップの輝く瞳はまるで少年のよう。
俺は先を往くバルバドから三歩ほど遅れてついていく。
「ふふん。ちゃんと罠の有無は確認したんだろうな?」
一足早く宝箱の前に着いたバルバドが、眼下のそれを覗き込む。
「問題なし!」
「魔力も一切感じなかったわ。ディスペルは、一応ね」
片目をつむってエルエスが返す。
「ようし。なら開けてみろ、スキップ」
腰に手を当ててバルバド。
「合点承知!」
「どれどれ……?!」
歩みを早めて、俺。
ガチャリ。
宝箱の蓋が俺の方に開かれる。
一体何が入っているのだろう。
俺たちの想像を越える逸品が納められているのではなかろうか。
エルエスたちは魔法のアイテムかもしれないと言っていたけど、ひょっとして魔法のかかった剣でも入っているのかも。
確か、エンチャントとかいう魔法を武器や防具の類にかけてあると、常識では考えられないほどの斬れ味の増した剣になったり、火炎や吹雪を完全に遮断できる鎧や盾になるって、いつか聞いたことがあったなぁ。
(もしそうなら凄いぞ!)
そんなアイテムなら、おそらくリーダーであるバルバドが装備することになるんだろうけど、彼の戦力アップは俺たちパーティー全体のレベルを引き上げることになる。
これまで相手にできなかったモンスターとも互角以上に戦っていけるようになったりするかも?!
(リザードラゴンよりも強いドラゴンだって世界にはたくさんいるって話だしなぁ)
そんなことを考えながら、俺は宝箱の中を覗き込もうとした。
だけど──。
強烈な衝撃、呼吸が止まった。