六、彼女の言葉(4)
登りきって扉をくぐったところで、鮮やかな七色が目に飛び込んできた。
「素敵。空から光が差し込んでいるからなのかしら、まるでオーロラのようね」
祈るように胸の前で指を交差させて手を組んだエルエスが言う。
「エルエスが瞳を輝かせるのも無理はない。あのような美しい窓は、俺も見たことがないぞ。とにかく装飾の細やかさには目を奪われるしかない。光の差し加減がまた絶妙だな、空中で交わる光と、床に投射された色彩がなんとも幻想的ではないか?」
バルバドが感服したように語った。
(確かにこれは凄い)
俺たちが行き着いたのは、先程の大広間と比較してみると、遥かに狭い直径十メートルほどの円形の間といったところか。
まるで、黒龍と死闘を繰り広げた広間を小さくしたようだけど、天蓋までの距離だけは据え置きの高さだ。つまり、俺たちの頭上は楕円を描いて延びているんだ。
壁も変わらず白一色。
天蓋の頂上部にはバルバドが言ったように、目にも美しい窓が円を作っている。きっと俺だけじゃなく、そのバルバドもエルエスもあんな窓は初めて見たんじゃないかな?
円形の窓から四方に分かれて、さらに四つの四角い窓がある。
それらは全て同じような造りで、色の付いた硝子が外の明かりを受けて、部屋内に多彩な光を落とし込んでいた。オーロラのようにも見えるけど、俺が例えるなら七色の柱だ。
床には頂上部からと四方からの光が計算されたように重なりあって、大きな円の前後左右にひし形、周りにも不規則な形の模様をいくつも作っている。
「ありゃぁ、ステンドグラスってんだ」
「へぇ、ステンドグラスか」
ジッとある一点を見つめて言ったスキップの横顔に顔を向ける。
「硝子に着色したもんを鉛で結合させて、絵だとか模様を作ってんのな。まぁ、俺らの住んでる地方じゃぁ、まだ一部の金持ち連中くらいしか知らねーもんだろうよ。職人の手作業だからな。完成させるのに時間も手間もかかる上に、たけぇーんだ、なにしろ。一般に普及すんのはまだまだ先の話になるだろうよ」
「詳しいのね、随分」
エルエスが感心してるけど、俺も本当にそう思う。一体どこからそんな知識が出てくるんだ?
「こいつの事だ、金儲けに関係することなら、なんでも頭に入れてしまうんだろうよ」
呆れて肩をすくめるバルバド。
なるほどね。
そのあくまで金銭勘定で情報の取捨選択をする姿勢に、脱帽して彼を眺める。
「そそ。盗賊ギルドにゃ、その手の話は腐るほどあってよ……ってか、今はあんな手の届きようもない場所にあるもんより、気になるもんがあるんだけどな」
あくまで芸術には無関心といった表情。
スキップの頭の中では、持ち帰ることの難しいステンドグラスとかいうものより、もっと現実的で、かつ高価な品物から目が離せない様子。
「あれって本物の金でできているのかしら?」
「いかにも何かがありそうな感じだけど」