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六、彼女の言葉(2)

「やっぱりって。ああっ、これか!」

「ここ以外は変わりないのだけれど」

 何事もなかったように静まり返った広間。

 いいや、これは比喩なんかじゃない。本当に、さっきまでの死闘など最初から行われていなかったかのようだ。

 壁一面を覆っていた燃え盛る炎が消えた後にも、焦げ跡どころか傷一つすらない。あるのは、入ってきた時と同じ白を基調とした広間。

 ただ、一箇所だけを除いて。

「たくさんある石像も、物語を描いている壁画もそのままだけど、この扉だけはさっきの絵がなくなっているんだ」

「そうなの。遠目だと、よくわからなくて」

 彼女が言っているのは、おそらく上のフロアに続く階段へと導くであろう扉。

 俺たちがやってきたときに、ちょうど広間の中心を挟んで反対側にあった扉のことだ。

 この扉には、真ん中に太陽に似て非なる絵柄と、無数の星が散りばめられている絵が描かれていたんだ。

「魔力は……感じない。消えているわ」

 恐る恐る手を伸ばしたエルエスは、何も感じないということに安堵したようで、肩から力を抜いて息を吐いた。

「やっぱりさっきのドラゴンを倒したからじゃないかな」

 まぁ、当然といえば当然なんだけど、一応言ってみる。

「そうなんだけれど」

 なんとも腑に落ちない様子。

「何か引っ掛かることでもあるの?」

 確かに考えてみれば不思議なことだらけの塔だけど、俺たちは最後の難関をクリアしたんだから、そう深く考えなくてもいいんじゃないのかな。

 そんな考えが表情になって出ていたようで。

 エルエスは、「ええとね」と少し考えてから口を開いた。

「あの時、ジギーは言ったじゃない? この塔を研究している人だって、いてもおかしくないんじゃないかって」

 言った言った。バルバドたちから塔の説明を受けていたときの話だ。

「でもそれは、神出鬼没の塔だから、探し当てるだけでも大変だってことだろう? それに頂上まで辿り着いた冒険者もいないってさ」

 どこに現れるかもわからない塔なんか、いざ研究しようったって見つけられませんとなれば、研究する人もいないんじゃないのかな?

 俺はそう思ったけど、彼女は神妙な顔付きで、

「そこなの。実際にここ──この九階っていうのかしら? 要するに最上階の近くまでは来ていると思うの、あたしたち。その九階まで辿り着いて思ったのだけれど、本当に今までこの塔を制覇した冒険者はいなかったのかしら?」

「それって、どういうことだい?」

「あたしたちより腕の立つ冒険者なんて、まだまだいるじゃない」

 エルエスは納得のいかない表情になった。

(まだまだ、っていうのは謙遜が過ぎる気がしないでもないけど、確かにそうかも)

 そりゃぁ、バルバドもエルエスも有名人だけど(エルエスはどちらかというと見た目の方で)、彼女の言う通り、他にも屈強な冒険者の話は風の噂でよく聞く。

 だから、彼女の言うことももっともなんだけど、

「塔自体を発見しなきゃ、挑みようもないんだから、それでじゃないかな?」

 つまり、どんなに強いファイターだろうと、嵐や地震をたちまち起こせてしまえるウィザードだろうと、肝心のこの塔を見つけ出すことができなければ、挑戦すら叶わないということ。いくら塔にまつわる文献がたくさん遺されているといっても、その辺の薬草を探すのとは訳が違うんだからさ。

 俺たちのパーティーには、スキップという優秀なシーフがいて塔の所在を突き止めてくれたということ、それに運良く手の空いた時期と塔の出現する時期が重なったということなどが、塔に挑戦できた理由でもあるんだ。。

 なにしろ、冒険者ギルドから請け負った仕事を途中で放棄するなんてことはできないし、高レベルのパーティーにはギルドからの依頼はとても多いんだ。

 俺が平均レベルを下げているから、俺たちはそれほどでもないんだけど。

「うぅん、そうなのかしら」

「考えすぎじゃないかな」

 とかく心配性な彼女に歯を見せて笑う。

「俺はてごたえのあるモンスターと戦えれば、それでいいがな」

「バルバド」

 声がかかり、二人揃って振り向く。

 カツン、カツン。さらに靴の音。

「金目のもんがありゃぁ、文句はねーな」

「おまえはそればっかりだな」

 顔をさすりながら、ひょこひょこ歩いてくるスキップもいた。


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