六、彼女の言葉(1)
大の字になって床に寝そべる二人。言わずもがな、バルバドとスキップだ。
追いかけっこに、ただでさえ残り少ない体力を消耗してしまったせいで、息も粗く天蓋を見つめてぼうっとしている。
「それじゃあ行きましょう、ジギー。あたしたちはもう十分に休んだものね?」
すっくと立ち上がるエルエス。
彼女は本当にこの短時間で回復できたんだろうか。じゃれ合っていたスキップたちはともかく、俺だってさすがに今すぐ出発っていうのは辛いけど。
「なぬぅ?! おまえ、俺たち二人を置いていくつもりか?!」
「勘弁してくれよ! もうくったくただっつーの!」
当然ながら、上がる抗議の声。
「うふふ、冗談。三人共、もう少し休んでいて」
悪戯っぽい笑みを浮かべてエルエス。
「どこへ?」
俺は尋ねた。
彼女だって、いや彼女の方こそ疲労の極みにあるんじゃないのか。だって、この塔に立ち入ってから数も知れないほど魔法を唱え続けてきたんだから。
「ちょっと気になることがあるから」
「俺も行くよ!」
即座に言って立ち上がる。
「え……あたしなら大丈夫よ?」
「いいからいいから」
エルエスはそう言うけど、やっぱり一人で行かせるわけにはいかない。
同じ広間内にバルバドやスキップもいて、何かあればすぐに駆けつけることはできるけど、間に合わないほどの一瞬で事が起きる可能性だってあるんだ。
「ふふ、ありがと」
一旦は断ったものの、すぐにニッコリ笑顔になった彼女に付いて、俺たちは歩き出す。
「ひゅーひゅー、お似合いじゃねーか」
「こらッ、邪魔をするんじゃない」
行こうとする俺とエルエスの背後から、スキップのはやしたてる声。
「もう、なぁに? スキップったら」
少しだけ困惑した表情の彼女。
「どうだいエルエス。おめー、帰ったらジギーちゃんと付き合ったり──ンがッ!」
「スキップは随分お疲れのようだ。しばらく二人でゆっくりしているから、かまわず気になることでもなんでも調べてこい」
拳を開いて、ひらひらさせながらバルバドが言った。
右手の甲に貼り付いていたスキップの顔が、ズルリと滑り落ちる。その表情は口元がにやけたままで、白目を見開いていたりする。
(うわっ……痛そう)
自業自得とはいえ、バルバドの拳をまともにくらっちゃぁ、しばらくは起きないぞ。
半分は同情するような、半分はホッと安心したような、複雑な気分だ。
だってそうじゃないか。
彼女に気持ちを伝えるのは、今じゃない。タイミングってものがあるんだ。
少なくとも、バルバドとまではいかなくても、もう少しくらい強くなってから。せめて、一人前のファイターだって胸を張って言えるくらいになってからがいいんだ。
釣り合い、とか考えているわけじゃないけど、それくらいにならないと俺の気が済まない。
要するにただの意地?
けれども、俺にとってはとても重要なこと。
「いきなり何を言い出すのかしら、スキップったら。ジギーとだなんて……こんな年増と一緒にするなんて、失礼よね? ジギーに悪いじゃない」
俺に尋ねるでもなく自問自答して、エルエスはさっさと歩いていく。
(そんなこと、あるわけないじゃないか!)
心の中で首をぶんぶん振るけど、彼女はそんな俺には気付きやしない。
(なに言ってるってエルエス、キミの方だよ! キミみたいな素敵な女性、他にはいないじゃないか!)
本当にそう。
年増だなんて、とんでもない! 自分の魅力に気付いていないのは、キミだけだ!
冒険者たちの集う酒場に行ったって、男たちが我を忘れて魅入っていることなんて、全然知りやしないで。
俺がそんな連中にどれだけヤキモキしているかだってことも、知らないんだ。
パーティーの仲間だってだけで、俺も妬みの対象にされることもあるけど、バルバドが睨みを効かせているから、今のところは何もないってだけ。エルエスもバルバドも結構な有名人なんだ。
「やっぱり消えてるわ」