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五、呪文と消えゆく闇(10)

 今日だけで一体何度、落っこちればいいのか?!

 もうこんなんじゃ、運が悪いっていうより、悪霊にでもとり憑かれているんじゃないかと思ってしまう。

 せっかく黒龍を倒せたっていうのに、床に激突してあえなく死亡なんてことになったら、天国に着いても土産話にもならないって!

 でもまぁ、結論から言えば、俺は助かった。

 つまり、俺は地面に着く前に頼もしい仲間に受け止めてもらえたわけで。

 その頼もしい仲間は、もちろんこの人──。

「ジギィィィィィッ!」

 落下中に見えた顔、両腕を広げて飛び出すスキップ。

(スキップ!)

 素早さでは誰にも負けない彼が、俺の落下地点目指して走っていた。

 その彼の腕力では、さすがに俺を受け止め切れないかもしれないけど、床に激突する衝撃を多少は和らげることはできる。

(た、助かった! ありがとう、スキップ)

 とか感謝したんだけどさぁ……。

 ズベベッ!

 盛大にズッこけるスキップ。しかも俺の真下で!

(ええっ? ええええええっ?!)

 さっきとはまた違う動揺。

 いくら疲労しているからって、この場面でそりゃぁないだろぉ?!

 ってか、このまんまじゃ、あんただってタダでは済まないぞ!

 落下のスピードがついた俺に押し潰されてショック死、なんて本当に笑えない冗談のようだ。しかも、アウフ・ドラゴロスにトドメを差した俺が、彼にまで最後の一撃をくらわすなんて。

 いっそ、今までが全て夢であってほしいくらい。

 ただ、さっきも言ったように、俺は助かったんだ。もちろんスキップもさ。

 俺の着床地点で寝転んだ彼を見ていることが出来ず、俺は瞼を固くつむった。

 しかし、予想に反して何かに柔らかく体を受け止められて、恐る恐る俺はそっと瞼を開けた。

「まったく詰めの甘い男だ。言っただろう? 俺は跳躍ではおまえたちに劣るが、縦横の動きにはめっぽう強いんだと、な」

「バルバドッ!」

 やっぱり頼りになるのは、この人。

 スキップもいいところまできていたんだけど、ガイコツ剣士の罠の時といい、気が緩んだ時に失敗しちゃうんだよなぁ。ま、それも愛嬌だけど、この場合。

 なんにしても俺は助かったんだ!

「ありがとうバルバド、おかげで命拾いしたよ」

「なぁに、助かったのは俺たち三人の方だ。よく頑張ったな、ジギー」

 そうして交わす笑顔。

「本当に……良かった。みんな無事で、良かった……」

 今にも涙がこぼれ落ちそうなエルエスの瞳。目にいっぱいの涙を浮かべて、彼女が微笑んだ。

 ありがとう、エルエス。キミがいなくちゃ、あんなドラゴンなんて倒せっこなかったよ。

 いくら感謝しても感謝しつくせない。そんな気持ちで胸がいっぱいだ。

 本当に、こんな最高の仲間たちに巡り合わせてくれてありがとう。

 冒険者を続けていけば、もしかしたら今回以上に苦しいことだってあるだろう。

 だけど、彼らがいてくれるだけで、これからの長い旅路だってきっと素晴らしいものになる。

 そんな予感……いや、確信を持って言えるんだ!

「むぎゅぅ」

 俺が感慨にふけっていると、下から変なうめき声がした。

「ん? すまんすまん、そこにいたんだったな」

 ガーハッハッハ、と豪快に笑うバルバド。

 そうだった、落ちてくる俺を受け止めようとして走ったのに、スキップはそのままの勢いで盛大にスッ転んでしまったんだった。

「ッてめ! いつまで踏んでんだよ! いくら旦那だって、とっととよけねーと容赦しねーぜ?!」

 生死のかかった激戦の後だっていうのに、よくもまぁ文句の出ること出ること。俺を自分の腕から降ろしたバルバドに、これでもかっていうくらいに詰め寄るスキップ。

「なんだかなぁ」

 呆気に取られて、その様子を傍から眺める。

「ねぇ? どこにあんな体力が残っていたのかしら」

 エルエスと二人でスキップの怒りを傍観する。

「誰のおかげで今まで罠を回避してこれたと思ってんだ! こ、の! 俺のおかげだろーがぁ! その俺様を足蹴にしよーたぁ、バルバドの旦那といえども承知しねーぜ!」

「ほほう。なら、相手になってやってもかまわんが。俺は手加減のできん男だぞ?」

「ぐぐっ……。上等だい! かかってきな!」

 そして始まるドンチャン騒ぎ。といっても、逃げ回るスキップをバルバドが巧みに追い詰めていくだけだ。

「結果は目に見えているのに……。よくやるなぁスキップも」

「ようやくあの凄いドラゴンを倒したんですもの。今くらいは羽を伸ばさせてあげましょう?」

「それもそうだね」

 スキップは至って本気のように見えるけど、実のところはアウフ・ドラゴロスに打ち勝った解放感を味わいたいだけなんじゃないのかな?

 それはバルバドも同じ気持ちなんだろう。だってほら、二人とも笑顔が見え隠れしてる。

 体が動くなら俺も参加したい気分だけど、さすがに今すぐは無理だ。

「へっ、俺様にちゃんと感謝しろい!」

 二人のやり取りに、俺はエルエスと一緒に笑った。

 あっはは、ちゃんと感謝してるって。

 サンキュー、スキップ!




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