表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/65

五、呪文と消えゆく闇(7)

 そう言って右手をぶらぶらさせるスキップ。その仕草で、もう矢はこれでお終いだと、俺たちに知らせる。

 俺が剣を突き刺した右眼と、たった今、彼の手によって矢が立てられた左眼。

 視界を失った黒龍が、憤怒極まって怒号を放つ。衝撃波が俺たちを叩きつけるが、そんなのこれまでのやつの攻撃に比べたら屁でもない。

 さらに続けて、唸りを上げて地をかすめる黒龍の右手に光る爪が、再びバルバドを襲う!

 彼はそれを受け止めると言ったけど、はたしてそれができるか?!

(いや、彼を疑っちゃいけない)

 バルバドは、そうと言葉にしたのなら、必ずやり遂げる男だ。だからこそ俺は彼を尊敬しているのだし、信頼できる仲間なんだ。

 バルバドが俺に攻撃するためのチャンスを作ると言ったなら、俺は彼を信じて突っ込むだけ!

「スキップ、ダガーを!」

 エルエスの声が背中で聞こえたけど、かまわず俺は駆けた。

 次の瞬間、両腕を広げた巨体のバルバドと、彼をはるかに上回る巨躯のアウフ・ドラゴロスの腕が激突した!

 衝撃で彼の全身が悲鳴を上げるように軋む。

 だが、途方もない威力であろう黒龍の腕による一撃を、バルバドは弾き飛ばされるでもなく、受け止める!

 ズザザザザッ!

 一メートル、二メートル、彼は押し切られて止まる。バルバドが苦悶の表情を顕わにした。

 激突の瞬間、彼はアウフ・ドラゴロスの魔爪の餌食にならぬよう、サイドステップして黒龍の手首を受け止めた。爪先がバルバドの肩や背中をかすめる。

 それでも、彼は宣言したことをやってのけたんだ!

(バルバドがくれたチャンス、決して無駄にはしない!)

 助走の勢いを生かし、そのまま黒龍の腕を足場にして跳躍するんだ!

 右手に携えた剣を斜に構え、アウフ・ドラゴロスへ間合いを詰める。

 しかし──。

 相手はそれほど甘くはなかった。

 バルバドに攻撃を止められた黒龍は、もう一方の腕をすかさず奮ったのだ。

(やばい!)

 この状況ではバルバドは攻撃を避けることができない。俺がやつの腕に飛び乗った瞬間に、二本の腕に挟まれて殺されてしまう!

 アウフ・ドラゴロスへの攻撃を中断して、バルバドを助けるほうに専念するか、いや攻撃を止めたところで、俺には黒龍の腕を受け止めることは不可能に近い。

 一瞬の迷い、躊躇。

 せっかく彼がチャンスを作ってくれたのだけど、でも……バルバドを見捨てるわけにはいかない。

 俺は身をひるがえそうとした。しかしそこで、

「いいから、そのまんま突っ込め!」

 スキップの一声。

(だけど……いや! ここまできたら、最後まで信じる!)

 俺は必ずスキップたちの期待に応えてみせる。それなら、彼らだって俺の期待にきっと応えてくれる!

 一度立ち止まりそうになった勢いを、再び跳躍への軌道に戻す。

「ヴァム・ド・スナップ!」

 エルエスの発声、そして投擲されるダガー。それがバルバドを潰さんと迫り来る黒龍の手の甲に刺さる!

 途端に時間を切り取られてしまったかのように、ピタリと動きが止まった。

「数秒しかもたねぇ魔法だ、とっとと決めちまえ!」

 声を大にしたスキップの叫び。

(ありがとう、エルエス!)

 数々の魔法で、攻撃に守りに貢献してくれたエルエス。

 罠の解除や射撃の腕前を披露し、奔走してくれたスキップ。

 ファイターの先輩として、最後の最後で俺にトドメの一撃を放つ機会を作ってくれたバルバド。

 これらを無意味なものにすることなど、絶対に許されない。彼らの力なくしては、ここまで来れなかったんだ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ