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五、呪文と消えゆく闇(6)

 黒龍が羽ばたいた。

 アウフ・ドラゴロスの六枚あった翼は、一対の紅蓮そのものとなって融合し、火の粉を辺りに降らせた。

 より一層、熱気を増す広間。

 理由を説明している暇はない。三人の返事も待たずに走る。

 背後に聞こえる靴の音。

 広間の中心部まで一気に到達すると、天を仰いだ。

「お、おめー、どーゆーこった」

 訝しげにスキップが口を開いたや否や、

「キャアッ!」

「な、なんだ?!」

 俺たちを囲む壁から、一斉に噴き出す炎、炎、炎!

 白一色だった広間が今度は赤一色に染まった。

「あの壁画は、やつの能力を示すものだったんだ! 吹雪、落雷、そして溶岩。俺たちは、あいつの翼が一対ずつ順番に光っていくから、次の攻撃が最後だと思い込んでいたようだけど、そうじゃない。無意識に壁画に描かれていた絵と一緒にして考えていたんだ!」

 エルエスはさっき、塔の外に黒龍がもしいたなら恐ろしい事だと言った。それは確かにそうだけど、普通に考えればこの状況でそんな台詞が出てくるだろうか。

 外の世界の心配などする余裕は俺たちにはないはずだ。それなのにそんな感想が出てくるっていうのは、今の置かれている状態と、壁画にある溶岩の降ってくる様子を意識せずに重ねていたからに他ならないのではないか。

「だからって、なんで壁から炎が出てくることがわかったんだよ?」

「今は見えなくなったけど、ちゃんと壁画に答えがあったさ。逃げ惑う人たちがたくさんいたけど、降ってくる溶岩は逃げる人間だけを狙ったものだった。だから村の中にいた人々は無事だったんだ」

 広間は一面、火炎に覆われてしまって、壁画を眺めながら説明できないのがもどかしいけど、彼の質問にそう返した。

 つまり、壁にあった溶岩の降り注ぐ絵を俺たちがいる広間に置き換えてみると、村の外とは壁際。俺たちは黒龍の巻き起こした突風によって壁まで押されてしまったわけだけど、そもそもそれが引っかかった。確かに空に舞い上がれば俺たちには攻撃のしようがなかったけど、やつにしてみれば慌てふためいている冒険者たちを一網打尽にするチャンスだったのではないか。

 では、わざわざ俺たちから身を引いた理由はなんだったのか。それこそ、四人をたちどころに葬り去る手段があったからではないのか。

 村人たちが無事だったのは村の内。広間にして考えてみれば、まさしく中央部分に他ならない。憶測で動くのは賭けだったものの、俺たちはかろうじて危機を回避できたわけだ。それはみんなが俺の言葉を疑わずについてきてくれたおかげだろう。

 辺りはすでに一面の火の海。

 ただ、少し離れたところまでは噴き出してくるものの、中央までは届かない。まるで台風の目の中にいる気分だ。

「あとちょっとでも逃げ遅れていたら、あたしたちは一瞬にして灰にされていたでしょうね」

 灼熱の渦中で、顔を真っ青にしてエルエス。

「だが、助かったからといって浮かれている場合ではないぞ。俺たちはこれでますます逃げ場がなくなってしまったんだからな」

 警戒を促すバルバド。

 その彼に目を向けたスキップ、エルエスそして俺は言葉を失った。

「グゴログギガロオオオオオオオッッッ!」

 バルバドの全身が影の中に埋まる。

(いつの間にッ?!)

 これっぽっちも接近に気付かなかった。

 全くの無音で彼の真上に浮かんでいたアウフ・ドラゴロスが、咆哮と共に樹齢百年を越す巨木ほども太さのある腕を払う!

「旦那ッ! 伏せろ!」

 咄嗟のことながらも反応し、床に身を貼り付けたバルバド。

 彼の頭上にある空気が焼けつく。

 バルバドは、黒龍の鋭い爪が通り過ぎて、すぐに飛び起きる。

「ドラゴンの腕を受け止める! 動きが止まった瞬間が勝負だ、ジギー!」

 彼は持っていたウォーハンマーを、その場に手放して叫んだ。

「そんなッ、無茶だ!」

 だけどバルバドは俺の叫びにも耳を貸さず、黒龍の吐いた火炎を素早くかわす。

「防御魔法が効いている今しか、んな無茶はできねーんだからよ! よろしく頼むぜ、ジギーちゃんよぉッ!」

 飛び出すスキップ。

 射ち出したボウガンの矢がアウフ・ドラゴロスの残されていた左眼に突き刺さった!

「よっしゃ! 最後の一本が大当たりだぜ!」


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