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五、呪文と消えゆく闇(4)

「エルエス」

 彼女の指先が俺の手をキュッと握る。

 思いつめたような顔で、一体どうしたっていうんだ?

 そこで、ああ……そうか、俺の身を案じているのだと気付く。

「あのドラゴンは、絶対倒すからさ。心配しなくても大丈夫」

 そう彼女に声をかける。

 だけど、自分でも顔がひきつっているのがわかった。

 闇の太陽の化身が如きアウフ・ドラゴロスを倒す為には、誰かが危険を冒さなくてはならない。しかし、魔力の尽きた自分ではどうする事も出来ない。

かといって、バルバドやスキップでは突撃役にはなれない。ならば、俺が黒龍に立ち向かおうとする事を彼女に止める術はないのだ。

 俺を実の弟のように思っているエルエスだ。引き止めるかのように手を掴んだのは、きっとそんな感情がジレンマとなって、咄嗟に行動に表れてしまったからではないだろうか。

 その彼女を勇気付ける為にも、笑みを向ける。

 俺たちが企てている黒龍への突撃は、多分に無謀な賭けだ。だからこそ、無理矢理にでも笑顔を作って、決して悲観的になっちゃぁいけない。

 希望を持つということは、冒険者という生業にあって、生き抜く為に一番失ってはいけない最後の武器なんだ。

「きっと上手くいくさ。俺たちは最高のパーティーじゃないか。なぁ、スキップ!」

 するとスキップは振り返って、

「んな当たり前のこと、聞くんじゃねーよ。なっ、バルバドの旦那?」

「うむ」

 口元に得意のニヤニヤ笑いを貼り付けて話を振るスキップに、でんと構えたバルバドが応える。

「おまえたちが、あんな得体の知れんドラゴンにやられて死ぬようなタマでないのは、誰よりも知っているつもりだ。特にジギー、おまえはな。なぜなら、俺たちにはないものを内に秘めていると、誰より信じて疑っていないのが、そこにいるエルエスに他ならないからだ」

 はっとして、彼女が面を上げる。

「そのおまえがジギーを信じなくてどうする。俺もスキップも、こいつならきっとやつを倒してくれると信じたからこそ、全てを委ねることに決めたのだ。ジギーに最後の一太刀を浴びせる瞬間は必ず作る、己の身を犠牲にしてでもな」

 エルエスの肩に置かれる彼の大きな手。

 彼女をジッと見つめるバルバドの表情が和らぐ。

「信じてやったらどうだ?」

 俺の指先がさらに強く握り締められる。

 もしかすると、エルエスには本当に弟がいたのかもしれない。

 そして、失ってしまったその人と俺とを重ね合わせているだけなのかもしれない。折にかけて俺のことを気にする彼女の態度は、もしそうなら合点のいくことだ。

 だからこの土壇場にきて、快く送り出せない。その気持ちはわかる。

 だけど、今のこの状況だからこそ、俺のことを信じてほしい。

 確かに彼女からすれば頼りないかもしれないけど、俺がやつを倒しきれなければ、エルエスたちだって助かりっこないんだ!

 そう思うと、いてもたってもいられず、俺は彼女の小さな掌を強く握り返していた。

「……る」

 擦れるような声。

「え?」

 反射的に聞き返す。

「……信じる。でも、一つだけ約束して」

 しっかと開かれたエメラルドグリーンの瞳が明かりを受けて煌いた。

「あたしは全力であなたを守ってみせる。だからジギー、あなたは絶対に死なないで戻ってきて」

 硝子玉の砕けたワンドを胸に抱いて、エルエスは一言ひとこと、悲壮な決意の眼差しで声を絞り出すようにして言った。

 彼女はおそらく魔法はもう使えない。魔力が枯渇してしまったのだ。

 それでも、エルエスの言葉はどんなに優れた魔法の呪文よりも、深く俺の心に染み渡り、とっておきの勇気と希望をくれた。

「俺は死なない。約束するよ」

 約束──。

 人間が元々持っている、なによりも素晴らしい魔法ではないか。

 そうさ、約束したからには裏切るわけにはいかないんだ。黒龍がどんな凄まじい攻撃を繰り出してこようとも、絶対に勝って生き抜いてみせる!


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