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五、呪文と消えゆく闇(3)

 アウフ・ドラゴロスの額に姿を現した水晶球。

 あれを破壊するには、直接近づいて攻撃するしかない。魔力が加えられていてもスキップの矢では有効打は与えられないのだから。

 そうなると、次にやつが地上へ降りてきたときが勝負。どうにかして傍まで近寄り、黒龍の額に輝く水晶を、全身全霊の力を込めた剣で突き刺し、砕く。

 もちろん、この役には俺が買って出るつもりだ。

 ウィザードであるエルエスには当然のこと接近戦なんて無理だし、シーフのスキップならば黒龍の攻撃をかいくぐることは可能かもしれないけど、なにぶん剣の扱いに関しては素人も同然。

 それならバルバドの方が剣技に長けていることになるけど、すでに左腕を負傷している彼に、これ以上負担はかけられない。

 俺だって落雷に直撃されて、肩を上げるのも辛いけれど、この局面で男を魅せないで、誰がエルエスの隣に立てるっていうんだ!

 幸いなことに、気を失って一時でも目を閉じていたせいか、気力だけは充実している。今一番動けるのは俺のはず。

「……それしか手段はねぇか。全く、嫌な役割やらせちまうな。すまねぇ、バルバドの旦那」

「うむ。仕方がなかろう」

 ウォーハンマーを床に置いた右手で、左腕をさすりながらバルバド。

(ああ──そうか)

 二人のやりとりに、俺は自分が蚊帳の外に置かれた気がした。

 最後の一撃を託すのは、最強のファイターであり、俺たちのリーダーでもあるバルバド。

 それがスキップの出した結論だったんだ。

 確かに経験も足りていない俺なんかより、何度も修羅場をくぐっている彼の方が、トドメ役にはふさわしい。

 腕力や瞬発力はおろか、得意の剣技でさえ、俺ではバルバドにまだまだ遠く及ばない。それは俺自身も自覚している事。

(怪我をしているバルバドが安心して背中を任せられる男に、少しはなれたと思ったんだけどなぁ……)

 俺は悟った。悔しいけれど、この実力差は今すぐ埋められるもんじゃない。

 だから、ここは彼のサポートに徹する!

 おそらく、ウォーハンマーを担いだ状態では、バルバドでも黒龍の懐まで無傷のまま辿り着くことは難しいはず。となれば、この斬れ味鋭い剣を彼に返す。

 バルバドから借りた剣を返してしまうからには、俺は丸腰になってしまうけど、せめて盾役くらいになれれば。

「なにをしているジギー。作戦を聞いていたか?」

「なにって? えっ、作戦?」

 バルバドに渡そうと、腕を伸ばして彼に差し出したロングソードをあっさりと突っ返され、俺は目をパチクリした。

「おいおい、頼むぜぇー?! おめーがあんの怖ぇドラゴンに突っ込むんだからよぉ。ちゃんと話聞いててくんなきゃさ」

「お、俺が?!」

 えええぇぇぇぇぇぇ?!

 なんで俺なんだ?!

 いや、元々そのつもりだったんだから、別に文句があるとかそういうわけじゃないけど、彼らの口ぶりからして、バルバドが突っ込む役なんじゃなかったのか?

「あたりめーだろ。おめぇ、俺やエルエスに突撃させる気だったのかよ?」

 スキップに真っ直ぐ見つめられて、首をブンブン振る。

「だけど、さっきバルバドに嫌な役割をしてもらうって……」

 そうそう。

 この場面で嫌な役割って言ったら、もちろん黒龍に決死の一撃を喰らわせにいく事だと、俺でなくとも思うだろう?

 すると、彼らは俺が狼狽する理由に合点がいったというような表情になった。

「旦那は……ジギー、おめーの盾だ」

 スッと目を細めてスキップ。

「見ての通り、俺の左腕はもう動かんからな。俺には、体を張ってやつの攻撃を凌ぐ程度しかできんだろう。それになにより、縦横の移動には自信はあるんだがな……跳躍力ではジギー、おまえの方が身軽だろう? やつの額にある水晶に強烈な一太刀浴びせるには、俺と同程度に剣を扱うスキルを持ち、なおかつスキップに勝るとも劣らない身のこなしのジギー。おまえが適任だ」

 俺の肩に分厚い手の平を置き、バルバド。

「それとも、自信がねーのか?」

 挑発するような笑みを貼り付けて、スキップが言う。

「無理強いはせん。どちらにせよ、一番損な役回りだからな」

 二人の視線が俺に集中する。そんな風に見つめられて、キョトンと呆けたままの顔でいられる訳がない。

「……やるさ。やってやる! 最初からそのつもりだったんだ!」

 ファイターとして目標としているバルバドに、そうまで言われて怖気づくわけにいくか!  俄然、やる気の炎がメラメラ燃えてくるっていうもの。

「頼もしいじゃねーか? へへっ、やつの注意を逸らすのは、この俺に任せときな」

 上空に目線を戻してスキップが腕まくりする。

「さて、やつはどんな攻撃を仕掛けてくるか」

 未だ天蓋近くで、下界を悠然と見下ろす黒龍を睨みつけ、バルバドが大槌を持ち上げる。

 と、左手に暖かいものが触れた。


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