四、閃く攻防戦(11)
(なるほど、防御魔法が効いている今がチャンス)
つまり、彼の腕力を借りて跳躍し、黒龍の眼を潰せということだ。
今ならば、やつの火炎を浴びたとしても、ダメージは最小限。
電撃を落とされる可能性は薄れつつあるも、黒龍の背に登るにはさすがに時間がかかりすぎる状況で、バルバドの判断は的確且つ効果的。
目玉モンスターが次の落雷を放つまでの短い時間で、黒龍に致命傷を与える!
身に纏いかけた静寂を払いのけるように、俺は駆け出す。
「跳べぇッ!」
バルバドの組んだ手の平に片足をかけた俺。
彼の掛け声と、自分を押し上げる力に身を預けてジャンプ!
(来た!)
予想した通りの火炎。
アウフ・ドラゴロスの吐く炎の息吹が、俺の視界を遮る。
だけど、防御魔法がかけられている今の自分にとっては、煙の中に飛び込んだようなもの。多少の熱さを感じるだけで、衣服の細部にまで渡って魔法の衣が灼熱を防いでくれる。
すぐに火炎の上空に抜け出した俺は、黒龍の巨大な顔を眼下に捉えた。
跳躍の頂点で一旦静止して、初動はゆるやか、徐々に加速して黒龍へと一気に迫る!
(うおおおおおおおおおッッッ!)
気付くな! 今だけはこっちを向かないでくれ!
雄叫びを上げそうになる自分を抑えて、祈る。
激突の直前、黒龍の眼が、ギロリ、俺を睨んだ──。
ドズッッ!
「グゴルォオオオオオオオオオオッッッ!」
剣の先を支点にして、俺の体は大きく左右に揺さぶられた。
怒声を振りまいて黒龍。
その右眼には、俺が突き立てた剣が深々と刺さっている。
(泣こうが喚こうが、このまま一気に決めさせてもらう!)
絶対に剣は手放さない。指の先まで全力で柄を握りしめる。
この好機を逃せば、次はないかもしれない。
もう誰にも余力は残っていないのだ。そんな背景が俺の心をさらに奮い立たせる。
「ぐあぁッ!」
下でバルバドの声がした。
「も、もう?! いくらなんでも早すぎるわ!」
遠くからはエルエスの悲鳴。
(お、おい! 嘘だろう?!)
数メートル後ろの床に倒れるバルバド。彼を襲ったのは、硬直が解けた黒龍の前足。
潰れた右眼をものともせず、アウフ・ドラゴロスの爪が鋭く光る腕が振り上げられた!
(マズイぞ!)
すぐに黒龍の額に足をかけ、剣を引き抜こうと腕に力を込める。このまま眼をえぐってやりたかったが、それどころではない。
剣を手放して攻撃を避けることもできるけど、武器を失ってしまってはどうにもならない。
ピシ。
「くっそおおおぉぉぉ!」
抜けない抜けない抜けない!
思っていたよりも深く突き刺さっている!
このままだと、あの爪に串刺しにされてしまう、早く剣を引き抜いて受け止めなければ!
さらに下半身に踏ん張りを効かす。剣が少し動いた。
目前にうなる黒龍の爪がッ!
最後に全身の力を結集して、引く、引く、引くッ!
ガキャァッ!
次の瞬間には、俺は宙を舞った。