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四、閃く攻防戦(8)

 本当はまだ全身が筋肉痛のように痛むけれど、ここでみんなの足を引っ張るわけにはいかない。

 ただ、体の重さとは反対に、頭の中は妙に冴え渡っている。冷水で顔を洗ったときのようで、サッパリした気分だ。

「上の目ん玉に、気ぃつけろジギー!」

 スキップの警告で、俺は彼の言う目玉を探した。

(あれか!)

 一、二……。人の頭くらいの大きさの空飛ぶ目玉が、全部で五つあった。

 何の変哲もない白目の中心に黒目があって、視線の向く方に雷が落ちた。翼が生えているでもないのに宙に浮かぶ様は、なんだか滑稽だ。

 落雷には一定のリズムがあるのか、バルバドとスキップは電撃が落ちる場所を読むかの如く、素早くそれをかわしている。

 アウフ・ドラゴロス──黒龍の様子を窺うと、やつは依然としてエルエスの魔法によって身動きのできない状況のままだった。

 その黒龍の周辺を、電撃を発する目玉がチョロチョロ飛び回っては、視線の向いた場所に落雷を放つ。

 助かったのは、エルエスの方に電撃を落とされることは、それほどなかったことだ。目玉は黒龍の傍からは離れるつもりがないらしい。

 エルエスは魔法は達者だけど、身のこなしは俺たちファイターやシーフなどの前衛職には、遠く及ばない。

 長く冒険者をしているのだから、体力はそこらの街娘とは比べるべくもないけれど、それでも女の子だ。その辺は、俺たち男ができるだけカバーしてあげなければいけない。

 ふと見ると、アウフ・ドラゴロスの三対ある翼の一番奥、尻尾に近い方の二枚がぼんやり光を帯びていた。

 そういえば、おびただしい数の氷槍を投下してきたときも、翼が光っていたんだった。あのときは手前の翼が光っていた。

(最初は手前の、次は奥の翼が光を放つときに、強力な攻撃がきた)

 それなら、やつはもう一度……?

「ボサっとすんな! 左によけろ、ジギー!」

 ハッとして上空を仰ぐと、不気味な目玉と視線がぶつかる。

 右よりに位置する目玉が、カッと光った。

 俺はスキップの指示通りの方向に転がって、落雷を避ける。

「危なかった……。できれば一旦退いて、体勢を立て直したいところだけど」

 さすがに、意識を断ってしまうほどの稲妻をもう一度くらいたくはない。額の冷や汗を拭いながら呻く。

 だけど、仕切り直す余裕をくれるくらいなら、バルバドもスキップも黒龍の周りで、わざわざあんな目玉のバケモノに踊らされることもない。

 あの目玉たちが本当にアウフ・ドラゴロスの傍から離れないのであれば、どんなに楽だろう。でもそれは、俺たちが黒龍の近くにいるからであって、俺たち三人が後退した場合に、やつらまで着いて来ないとは限らない。

 空飛ぶ目玉たちをエルエスのいる場所までエスコートしようものなら、今のところさほど危険にさらされていない彼女までも巻き込みかねないのだ。

 それになにより、黒龍の動きを封じている魔法がいつ解けるともしれない。

 せっかくのエルエスがくれた時間。逃げ回って無駄に時間を消費しては、残り少ない魔力を振り絞ってくれた彼女に申し訳が立たないではないか。

 落雷を避けながらでも、地道にダメージを与えなければ!

「少しはっ、効いた素振りくらいっ、見せやがれっ、つーの!」

 稲妻をかわしつつ、スキップが幾度も矢を射る。

 俺を背中から降ろしたバルバドも、電撃の合間を縫って、大槌を奮って黒光りする鱗の表皮を揺らしていた。

(だけど、これじゃあ致命傷なんて負わせられっこない!)

 スキップが放つボウガンの矢は、元より黒龍には微塵もダメージを与えていないようだったし、攻撃を避けながらではバルバドの打撃も踏ん張りが効いてない。

 唯一の救いは、アウフ・ドラゴロスと雷を落とす目玉たちの連携がなされていないことだった。

 目玉モンスターの存在を確認して間もない俺でもわかる。やつらの攻撃は単調極まりない。

 五体のうちの三体までは、無意味にそこらを飛び回りランダムに放電しているだけだ。そして残りの二体はというと、俺たちに狙いを付けてはいるが、初動が遅く、また黒目の向く方向で、電撃が落ちる箇所は大よその見当が付く。

 もし黒龍が自由に動き回れたならば、目玉モンスターが落とす稲妻との連携だけでも十分な脅威になるはずだが、あれだけでは俺たちの動きを多少制限するといった程度だ。

(できることなら、目玉の方を先に片付けたいけど)

 バルバドから預かった剣を振りながら、思考を巡らせるも、なかなか良案は出てこない。

「スキップのボウガンで、あれを撃ち落とせないのかな?!」

 駄目もとで彼に叫ぶ。

 もちろん、この程度の考え、スキップならとっくに試しているだろう。

 案の定、「んなこと出来てたら、逃げ回っちゃいねー!」との返事。

「普通の矢で射るくらいじゃ無理か。魔法の弓矢でもあったら……」

 エルエスの魔法では、ああいった動き回る標的を器用に狙い撃つ魔法がない。

 人にそれぞれ個性があるように、ウィザードたちが習得できる魔法の種類にも得手不得手があるんだ。

 スキップの矢と、エルエスの魔法。

 この二つが合わさったなら、あんな目玉のバケモノなんて相手じゃないだろうに。

 ないものねだりをしても仕方がない、そう割り切ったのだが。

 俺のなにげない一言が、歴戦のファイターに、ある切り札の存在を思い出させたのだ。


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