表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/65

一、静かなる捕食者(2)

「魔力は微かだけど確かに感じるの。いくら歩いても全然進んだ気がしないでしょう? 何かの魔法で無限ループみたいに感じさせているか、それとも本当の無限ループなのか、そのどちらかだと思うけれど」

 すらすらと答えるエルエスに、俺たちは、なるほど、と頷く。

「へぇ。じゃ、その二つはどう違って、対応としちゃどうするのが一番いいんだ?」

 興味津々、スキップが尋ねる。

「まず最初の無限ループに『感じさせている』方は、あたしたちがこの部屋に入った瞬間に、神経を混乱させる魔法をかけられているって場合。もしそうだったらあたしの魔法で解くことができないから厄介ね。でも、魔法をかけられてる感じがしなかったから、たぶん大丈夫だと思う」

 ……恐ろしい話をさらりと言うなぁ。

 それって裏を返せば、魔法にかかっていたらどうしようもなかったってことなのでは?

「うん、でも心配しないで。よっぽど強力な魔法でないとあたしにはかからないし、最悪あたしだけでもしっかりしていれば、みんなを誘導することはできるでしょう? まぁ、通路を抜けても魔法が解けるまでは三人ともロープで繋いでおかないといけないけれどね。ほら、暴れられても困るじゃない? 混乱しちゃってるわけだから」

 俺の質問ににっこりと笑みを浮かべて答えるエルエス。

 ゾゾゾッ……!

 その微笑みが怖い。

 ひょっとしたら混乱している俺たちに、とんでもない魔法を使って言う事を聞かせるつもりだったのではないだろうか……。そんな含みの感じられる微笑だ。

 エルエスの新たな一面を見たような気がする。

 じりっ。

 ちらりと後ろを振り向き見ると、バルバドまでもが一歩後ずさりしていた。

 俺がこのパーティーに加わるよりもずっと長くエルエスを見てきたはずのバルバドだ。そのバルバドが怯えのようなものを見せるとは……。

 彼女の微笑みの奥に彼がなにを見たのかは考えないことにする。

「コ、コホンッ。……んで?」

 わざとらしいセキをする眼帯のシーフ。

 狼狽を隠しきれてないぞスキップ。俺も人のことは言えないけど。

 そんな俺たちの心情を知ってか知らずか、さして気にもしていないようにエルエスは続けた。

「視覚的に、カーブを描いているはずの通路を直線的に見せる魔法とか。その場合だと、歩いていればいつかは終着点に着くけれど、その点は感覚的にまっすぐ歩いていないってわかるはず。平衡感覚に優れたシーフのスキップがそう感じないってことは、それは無しだと思うの。さっき言った魔法と併用しないとあまり意味ないでしょうしね」

 平衡感覚の引き合いに出されたスキップが、まぁな、とでもいうように頭の後ろで腕を組んで壁に寄りかかった。

 と、彼女は話に区切りをつけるように、コツン、とワンドの先で床を叩く。

「だから『本当の無限ループ』にしているほうの魔法じゃないかしら。っていうのがウィザードの見解ね」

 そこまで言い終えて、エルエスは「わかった?」というような視線を向けてきたけど、うーん……わかったようなわからないような。

 というか、肝心の『本当の無限ループ』に関しての説明がおざなりすぎやしないか?

 それとも俺が理解力に乏しいんだろうか……。

 と、ここまでの流れでもう説明は不要だと思うけど、一応紹介しておく。

 彼女の名前はエルエス。魔法のエキスパートであるウィザードだ。

 ウィザードという職業は主に魔力という不思議な力を使って、魔法という超常現象を起こすことができる。

 戦闘にも大活躍の職業だけど、ウィザードの真骨頂はまさに今みたいな、魔法の罠に対する対処法を心得ていることだ。

 シーフのスキップが落とし穴や仕掛け弓矢などの罠とか鍵の解除といった物理的なものを専門としているのなら、ウィザードは目に見えないものを相手にできる職業といっていい。

 エルエスは白のローブと同じ色のマントを羽織っている。なんでも、俺たちファイターやシーフなどは聞き覚えのない魔法繊維とやらを編みこんで織られた代物らしい。

 そして彼女は、耳には涙のような形をした宝石のついたイヤリング、指には赤、青、緑と様々な色の水晶がついた指輪をつけて冒険に出る。これは全てマジックアイテムなのだとスキップが教えてくれた。

 レベルは十五で、二十五歳。

 慈愛に満ちた心の持ち主で、たまに見せる茶目っけがとても魅力的。

 初めて逢った時にはもう、彼女はあっという間に、俺の心を鷲づかみにしてしまったんだ。

 輝いているような金色の髪は肩を越えて伸ばし、肌は雪のように白く透き通っている。

 エメラルドグリーンの瞳がすごく印象的で、感情の変化で深みを増したり、スッと薄まったりするのが、綺麗に思う。

 そして、俺がほのかな恋心を抱いている女性、だ。

「よくわかんねぇよ。要するに無限ループってのはどゆこと?」

「要するにテレポーテーション魔法だ」

 唇をとがらせていたスキップ。

 意外なところから声がかかり、声の主──バルバドを見上げる。

「テレポーテーション魔法?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ