四、閃く攻防戦(5)
「サンダーランス!」
エルエスの唱える呪文が、雷光を迸らせた。
稲妻がブロードソードを伝って、黒龍に電撃を浴びせる。
またもやアウフ・ドラゴロスの上げる悲鳴が、広間に響く。
(効いてる効いてる! ようし、俺も!)
黒龍へのダメージを確認して、バルバドのロングソードを右手に携える。
腹部に攻撃。そして次に目標とするは、
「こいつの眼を使えなくしてやる!」
バランスを崩さないように、そろりと黒龍の背を歩く。
首の辺りまでにじり寄ると、エルエスの放った雷で怒り心頭といった感じのアウフ・ドラゴロスが、左右に大きく頭を振る。
頭部の両端に生えている角が、俺の行く手を阻んだ。
その角は、大の人間ほども太さがある。
首の振りがどうにも邪魔で仕方がない。
(思うように近づけないな)
心の中で舌打ちしつつ、隙を窺っていると、スキップの発射したボウガンの矢が、弾かれてバラバラと地面に転がった。
と、標的の視線がスキップに集中した。頭の動きがピタリと止まる。
(今だっ!)
道が拓けた今こそチャンス!
俺はダッシュでアウフ・ドラゴロスの額まで駆け抜けようとした。
その瞬間、
「ブゴルァゴウオオオオオオオッッッ!」
さらに声を張り上げて、黒龍が嘶いた!
頭をもたげて叫んだせいで、鋭い角の先端が俺に迫る。
なにかを考える余裕すらなかった。
とっさに剣を振る俺。しかし、受け止められるようなものでないのは明白。
角に貫かれる自分を想像して、ギュッと目をつむった時、
スパァッ。
右手に軽い感触。俺は目を見開いた。
剣に斬り取られてゴロンと落ちる黒龍の角。
すぐに大理石でできているような床まで落下して、重い音を立てた。
(すご……すごい斬れ味じゃないか、バルバドの剣)
手元をまじまじと見つめて、心でうなる。
まぁ、バルバドの冒険者年数を考えれば、そこらの店では売っていない特別な武器を持っていても、不思議じゃぁない。
きっと、冒険の最中に手に入れた逸品なんだろう。にしても凄まじい斬れ味だ。
剣を貸してくれた彼に感謝しつつ、俺はその剣を逆手に持ち直した。
すでにアウフ・ドラゴロスの頭上。
眼下の目標に剣の切っ先を向ける。
パリパリパリ……。
「オオオオオオオオオオッッッ!」
両腕に全霊の力を込めて、突き立てようとした瞬間──。
脳天からつま先に至るまで、一気に駆け抜けるような激痛が全身を襲った。
『ジギーッ!』
三人の悲鳴がクリアに聞こえた。
(な、一体なにが……?! く、くそぉ! 諦めてたまるか!)
せっかくの千載一遇のチャンスだっていうのに。
何が起こったのかわからなくても、この好機を無駄にしてはいけない!
途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止めて、剣を振り下ろす!
ガキィッ!
し、しまった……。
体が痺れるせいで、剣は狙いをつけていた黒龍の眼には命中しなかった。
体勢が崩れた為、切っ先はアウフ・ドラゴロスの額に逸れて、金属に当たったような音を立てる。
そこで、頭がフラリ。やばい、目の前が霞む……。
ピシ。
どうにか保っていた意識も、闇の中に沈みそうだ。
ふらふらとその場で千鳥足を踏んだ俺は、次には身を投げるようにして、黒龍の上から落下していた。