四、閃く攻防戦(4)
彼は続けて、
「つっても、硝子の表面は硬くて、ダガー程度じゃぁ傷一つ付きやしなかったがな」
残念そうな表情で口を閉じる。
「と言うことはだ。あのドラゴンは、ゴーレムなどのように魔法で造られた存在だということになるな」
「魔法の媒体になっているものを探し出さないと、致命傷は与えられないでしょうね」
「うむ」
一旦考えこむようにしたバルバドだったけど、すぐにウォーハンマーを握りしめる。
「だが、普通のドラゴンに対する攻撃もある程度、効かないことはないだろう。弱点が見つかるまでは、有効だと思える攻撃をしていこう。それはさっき教えたな、ジギー?」
「うん。下腹部か眼に攻撃するのがいいんだったよな?」
俺が答えると、バルバドは満足そうに頷く。
「一時はハラハラさせられたが、良い手土産だったぞスキップ」
彼が賛辞の言葉を送ると、スキップは「よっしゃ、んじゃとっととブチ倒そうぜ!」と、武器をボウガンに持ち直す。
「おそらく魔法の持続時間は、持って十分間くらいよ。急いで!」
エルエスが言った。きっと、アウフ・ドラゴロスを拘束する魔法と、防御魔法の両方共を兼ねての制限時間なのだろう。
「それだけあれば充分さ!」
俺とスキップ、バルバドは一斉に黒龍へと突撃した。
脇に抱えるようにして、俺は剣を構え走った。
狙うは腹部。
斬撃では思うようなダメージは与えられないだろう。
ならば、鱗の隙間を貫く!
ダダダダッ!
いち早く黒龍の傍らに着いた俺は、走った勢いと体重をかけて、剣を突き刺す!
グググ……!
(刺さらないッ!)
やはりというか、いくら他に比べて硬度が薄れている部分といっても、剣の切っ先が僅かにめり込む程度。
「いい加減に、逝っちまえぇ!」
黒龍の顔面目がけて、スキップがボウガンの矢を発射した。
しかし、やつにとっては煩い蝿がまとわりつくようにしか感じていないようだ。目障りそうに牙をむいて顔を振る。
矢が軽い音を立てて、辺りに散った。
「ジギー!」
呼ばれて、俺は振り返る。
そこには大槌を横に構えて走ってくるバルバドの姿が。
「剣を支えたままで、体をよけてろ!」
言われて、鱗の隙間に少しだけめりこんだままの剣に目をやる。
(そうか!)
反射的に彼の意図を理解した俺は、剣の柄を片手でしっかり支えて、バルバドの邪魔にならないよう、黒龍側に身を寄せた。
そこにうなりを上げて叩き込まれる、ウォーハンマー!
感服すべきは彼の技量。
僅かでも角度がズレてしまえば、俺の剣もその役割を果たせなかったろう。走りながら、芯をはずさないように打ち込むのは、とても難しいことなのだ。
その上、彼の豪腕から生み出されるスイング。広刃の剣は、まるで杭のように、バルバドの大槌によって打ち込まれた。
アウフ・ドラゴロスの下腹部に、ブロードソードが刀身半ばまで突き刺さる!
「グギュルゴロオオオオオッ!」
「やった!」
思わずガッツポーズをする俺。悲鳴を上げたのは、被害に遭った黒龍だ。
これは少なからずダメージを与えている様子。
「もう一度だッ!」
再びウォーハンマーを横に引いて、叩きつけるバルバド。
ズブゥッ!
一層深く、剣がめり込んだ──と、
「うわぁぁぁっちゃ、ちゃっちゃっ……って、ありゃ。熱くねぇ?!」
頬に感じた熱気と、スキップの叫び声に顔を向けると、地を這うような火炎がアウフ・ドラゴロスの大きく開かれた口から吐かれたところだった。
「プロテクションが効いているのだ! たたみかけるぞ!」
「エルエス、すっげ!」
バルバドの号令で、俺は黒龍に面を戻した……のだが。
(武器が無い!)
杭にして打ち込まれてしまったために、戦う術を失ってしまった俺に、
「こいつを使え、ジギー」
引き抜かれた腰の剣が、柄の方を向いた状態で飛んでくる。
パシッと右手でそれをキャッチ。
「サンキュー、バルバド」
放られたのはロングソード。
いつもの両手剣とは違って、間合いも慣れたものじゃないけど、軽くて扱い易そうだ。
それよりなにより、尊敬するファイターが使用していた剣ということで、手に取るだけでどことない安心感があった。
(さて、どうやって攻める?)
自問して、俺はすぐに素晴らしいアイデアを思いついた。
黒龍の腹に深々と突き刺さった、自分の剣の柄に足をかける。
僅かにしなりを残すブロードソード。体重をかけて、反動を利用する。
「はッ!」
一気に黒龍の背中まで跳躍。とまではいかないまでも、中腹辺りまで飛び上がった俺は、鱗と鱗の隙間に手をかけて、すぐに登りきる。