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四、閃く攻防戦(2)

 バルバドが両手にウォーハンマーをしっかと構える。

 いやいや、これはさすがに彼の実力を持ってしても厳しい!

 氷槍の数、まさに雨あられ。

 こいつを防ぐには、バルバドの武具を扱う技術だけでは、補えないものがあった。

(だけど、迎え討つしかない、か)

 こんなところで諦めるには、まだ早いよな。

 というより、バルバドが諦めていないのに、俺が生き抜く気持ちを放棄してしまうわけにはいかない。

 剣を持つ手に全ての神経を集中する。と、

「ファイアウォール!」

 閃く呪文の言葉と共に、頭上に炎のカーテンが現れた!

 ジュジュゥ。

 氷が溶解する音。

 燃え盛る炎が、直前に迫っていた氷槍を受け止める。

「まだだ! ジギー、剣を降ろすなよ!」

 叫んで、バルバドが大槌を横に払った!

 カランッ、カラン、コロンッ。

 弾かれ数メートル先の周辺に転がる岩のような氷。

 いくらなんでも、彼女の生み出した火炎の魔法だけでは、氷の槍を溶かしきることはできなかったようだ。

 俺はすぐさまエルエスの前に立ちはだかった。

 バルバドがウォーハンマーを投げ捨て、腰に差してあった小振りの剣を引き抜く。

 彼の巨体のせいで小さく感じるが、あれでもロングソード。

 小回りの利かない大槌よりも、短く握った剣で残りをいなすつもりのようだ。

 俺も剣の柄を九十度回して、面の部分で氷礫を防ぐ!

 エルエスが魔法を唱えて具現化したばかりの炎では、第一陣の氷槍にはあまり効果が及ばず、大粒の氷塊はバルバドが薙ぎ払ってくれた。

 けれど、彼にばかり頼っているわけにはいかない。後に降ってくる氷礫程度なら、俺にだって防ぐことができる!

 こうした場面に、俺の持つ両手剣は大いに役に立った。

 ブロードソードという広刃の剣で、重量はそこそこあるけれど、刃幅が広く作られているおかげで、氷礫を受けるのにうってつけだ。

 ただ、数が多い。

 剣で受けきれない分は、自分を盾にしてエルエスを守った。

 肩や膝に鈍痛が走る。

 それでも俺たちは、一心不乱に剣を振り続けた。

 ボワッ。

 ふと気がつくと、炎でできた障壁は霧散し、いつまでも続くように思えた礫もパッタリと止んでいた。

「さて……ここからが反撃開始だな」

 海の底よりも深いところに押し留めていた激情をゆっくり吐き出すように、静かにバルバドが口を開いた。

 俺は剣の切っ先を下げて息をつく。

 と、エルエスの呟き声が耳に入り、上体だけで振り返った。

「天空に魅入られし者、嫉妬を地に根差す者よ。

 汝が願いに、我は契りを以って宣言する。

 いざ己が誘惑に心を解き放ち、数多の、底に引く手を!」

 彼女の呼吸に応じているのか、オオオオォォォォ──、どこからともなく風の鳴くような声が聞こえた。

「スピリオ・ヴァン・ヴリムド!」

 呪文が広間いっぱいに反響した。

 彼女のやわらかい髪が放つ金の色彩を、上昇気流が巻き上げる。

(壁がねじれてる?!)

 いや、壁じゃなく空間が歪んでいるんだ!

 いくつもの細い筋のような見えない何かが、周りの床から次々を生まれては、黒龍に真っ直ぐ向かっていくのが感覚的にわかった。

 それはきっと、天翔ける者への嫉妬に狂った精霊の、地に引きずり降ろさんとする無数の手。


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