三、魔獣の咆哮(6)
太陽に似ているけれど、違う。
夜空に散らばっている星々が、遠巻きにそれを眺めているみたいに、太陽に似たシンボルより離れれば離れるほどに数を増やしていた。
まるで太陽の光が眩しくて、それ以上は近づけないかのようだ。
でも、大空に威風堂々と輝きを放つそれとは違う。
表面にはやけに細かい線が縦横無尽にいくつも走っているし、太陽を象った図柄は大抵、球体が炎に包まれているように描かれている。
だけど、それは炎を纏うでもなく、ただただ闇の中に浮いている。
「鍵穴があるわけでもねぇ。というか、取っ手すらついてねーんだ」
見たこともないような絵が描かれている扉。
バルバドが、ドンッとその扉を叩いた。
「この通り、押そうが叩こうが、びくともせん」
太陽に似ている絵のある、扉の中央部分を上から下まで見てみる。
「本当はそれ、扉じゃない。ってことはないかぁ」
もしかしたら、そう見えてただの壁かと思ったりもしたけど、見えるか見えないかくらいでうっすらと扉の分け目があった。
ただ、随分と永い間、誰も扉を開く者がいなかったせいなのか、錆付いてでもいるようで、固く閉ざされて簡単には開きそうにない。
「どこかに隠し扉でもあるってんなら、頑張っても無駄かもしれねーけどよ、この扉はカモフラージュの為のもんじゃぁなさそうだぜ」
スキップが言うには、この扉を開くのにもなにか仕掛けでもあるのではないか、ということだった。
「これも古代文明かなんかに関係のありそうなもんだしな。エルエスの意見も聞きたいと思ってよ」
「むしろ、この塔は古代から現代まで、なぜか、誰にも解き明かされることなく残ってきた遺産ではないか、と俺は思うのだがな」
続けて口を開いたバルバドは、「なぜか」というところを強調して言った。
「どういう意味だい、それ? そりゃぁ、全ての階を制覇した人はあまりいないだろうし、頂上までたどり着いたところで何かがわかるってわけじゃないかもしれないけど。……研究くらいする人はいるだろ? いくらただでさえ遠いパリアの、それもこんな端の方にある土地にだって、時間さえかければ来れるんだからさ」
俺は釈然としない気分で、彼に尋ねた。
確かにこの塔までの旅路を省みれば、それは大変な苦労をしたものだった。
しばらく乗り合い馬車を乗り継ぐ道のりを強いられたし、山脈を越えるのも一苦労だった。
この時期にトール山脈の森の中を進もうものなら、虫に体中を刺されることは覚悟しなければならないんだ。
トール山は俺たちが本拠地にしている街の遥か西方のやや南寄り。何日も馬を駆っていかなければ、簡単には着けないくらいの所にある大きな山だ。
そのトール山と南北に連なる山々を乗り越えて、しばらく北へ向かった所に、この塔があった。
だけど、それだけ。
こういった古代遺跡の研究者たちが、不思議な魔法の罠が張り巡らされているこの塔を研究したいのなら、いくらでも、それこそ傭兵でも用心棒でも雇ってくればいいことだし、それが無理だなんてことはないはず。
「そういえば、ジギーには詳しい話をしてなかったのね」
「ええ? 俺だけ除け者にされてたってこと?」
「ちげーよ。おめー、剣の特訓だなんだって色々やってたじゃねーか。余計なこと考えさせんのもアレだと思ってのことよ」
ああ、そうだったのか。
そういえばスキップの言うように、俺はしばらくの間、彼ら三人に劣等感を抱いていたものだから、少しでも彼らに近づけるようにと、時間のあるときはずっと剣を振っていたっけ。
「概要は話したな、ジギー?」
バルバドの問いに、俺はコクンと頷く。
「魔法のアイテムがこの塔に眠っているっていうんだろう? それに、今まで帰ってこれた冒険者も少ないから、やばいと感じたらすぐに戻るって。これまでにない困難な冒険になるだろうって言ってたよな?」
「一応、捕捉すっと。魔法のアイテム……かもしれねぇのがある、かもしれねぇってこった。予想の域は出ねー話だよ」
おふざけの表情を大袈裟にしてスキップが唇の端を上げる。
「でも、あたしたちはこの塔に挑戦することにしたわ。今しかチャンスはないかもしれなかったの」
エルエスは、「ジギーを巻き込んで悪いとは思うのだけれど……」と声を小にして言った。
人をよく気遣う彼女だ。俺のレベルの低さを気にかけてのことだろう。
俺は「別に大丈夫だよ」とエルエスに微笑みかけてから、話の続きを促した。
「いろんなとこから情報をかき集めた結果だな、俺らが得た内容ってのは」
「この塔が、神出鬼没の塔だということだ」