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三、魔獣の咆哮(1)

 それにしても、本当に真っ直ぐ歩いてきただけで、無限通路を抜けることができたなぁ。

 あれだけ仕掛けを解き明かすのに手こずった事を考えれば、にわかに信じられない気分だ。

 俺たちは、できうる限りの足音を消しながら、扉へと進んだ。

 スキップなどはブーツを脱げば、特注の足袋のおかげで足音を消せるだろうけど、俺たちもいるのであまり意味がないことを察したらしい。ブーツに伸ばしかけた手を引っ込めていた。

 ややして扉の前に到着し、素早くしゃがみこんだスキップは、罠が仕掛けられていないか、いつものように確認作業に入る。

 俺とバルバドは左右に分かれて、各々武器を構えた。

 辺りはスキップの、罠を手で探るような音だけ残して、再び静寂に包まれる。

「異常はないみてーだ。開けるぜ?」

 目配せした彼に、俺たちは神妙に頷き返す。

 ここはスキップが扉を開けるのと同時に、一気になだれこんだ方がいい。

 モンスターがいたなら、多少は怯ませることができるし、そうでなくともイニシアチブを取りやすい。

 バルバドと視線を交わすと、彼の鳶色の瞳がそう言っていた。

 ドンッ!

 スキップの蹴りで、扉が勢いよく開かれた!

 ダァッ、とウォーハンマーを構えたバルバドが扉の内に飛び込む。

 俺も負けじと広刃の剣を手にして走る。

 罠や仕掛けはトラップに、魔法に関することならエルエスに活躍の場を譲っているけれど、戦闘ならば主役の座は渡さない!

 意気込みも新たに俺は──って!

「階段じゃないか!」

 拍子抜けだ。思わずつっこんでしまった。

「そーいや、そろそろ上に続く階段があっても、おかしくねーとは思ってたんだよな」

 確かに、俺たちはもう随分歩いたし、だいたい決まってこの塔では階段の手前に扉が設置されているから、それもそうなんだけど。

(なーんか、スカされた気分だなぁ)

 いかにも「これからモンスターが現れますよ」っていうような警告文の後で、肩に力が入っていたもんだから、全身を脱力感に支配されそうになる。

「だからといって、油断しているとやられるぞ、ジギー」

 心を見透かしたようなバルバドの言葉で、俺は緩みかけた心に渇を入れた。

 気を取り直して、バルバドを引き続き先頭にした隊列で、階段を登る。

「そういえばスキップ、今度はガイコツが降ってくるようなこと、ないだろうなぁ?」

「あったりめーだろ? 同じ失敗は二度しないってのが、このスキップ様の誇りだかんな」

 彼は背中を上下に揺らしながらで、振り向きもせずに胸をドンと叩く。

(あ、失敗って認めた)

 七階から八階に上がる階段のところで、ガイコツ剣士が降ってくる罠があったけど、とうとう彼は罠の解除ミスしたことを誤魔化しきったんだったよなぁ。

 なんてことを考えてたけど、スキップが油断でもなんでも、つい本音を洩らしてしまうなんてことの方に、俺は驚いた。

 鍵開けや罠の解除など、シーフの技術には絶対の自信を持っている彼だ。あんな初歩的なミスをしでかすなんて、きっと内心ではかなり悔しがっていたはずだろう。

 だから、そんな風に本心がうっかり口をついて出てくるっていうことは、ここまでの探索で相当神経をすり減らしているに違いない。

 スキップだけじゃない。

 バルバドだって、表には出さないけど、随分とモンスターを相手にしてきたのだ。

 俺が捌ききれない分にまで、手を貸してくれていたのだし、魔力がいつ尽きるとも知れないエルエスも入れたら、この中で一番体力に余裕があるのは、紛れもなく俺だろう。

(疲労の溜まっているみんなに代わって、俺が頑張らなきゃ)

 一人、胸中で決心していると、

「今度こそ、何が待ち受けているかわからねぇ、九階の扉にご到着だぜ」

 声をひそめて言うスキップ。

 罠の有無を確かめようと、彼が手を伸ばした時……扉はゆっくりと音を立てた。

 石をひきずる重さを感じさせる音で、内へ開かれていく扉。

 ひとりでに開いていく様子は、あまりにも自然で、不自然だった。

 その隙間から飛び出してきた眩しさに、片手で囲いを作って瞼の上に当てる。

(す、すごい……)

 俺たちを待ち受けていたのは、恐ろしいモンスターなどではなく、かといって凶悪な罠や魔法の類でもない。

 白を基調とした広間だった。

 神殿を彷彿させるような、あるいは大勢の信者を収容しても余りある広さを持つ、大聖堂にもどことなく似た、荘厳な雰囲気をかもしだしてさえいる。


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