二、胸に鎮魂歌を(6)
「だけど、これからどうするよ?」
「そうねぇ……」
「やっぱり他にもどこかにヒントがあるんじゃ?」
「地道に探すしかなさそうだな」
頼みの知恵袋も首を捻っている模様。
また引き返して通路を進んだとしても、どのポイントにディスペルマジックをかければいいのかまでは、スキップも手がかりを掴めてはいない。
やみくもにディスペルをやってしまって、下手にリスクを冒すなんてこともできれば避けたい。
四人揃って、うんうん唸っていると、ふいにバルバドが声を上げた。
「むっ?! わかったぞ!」
スキップとエルエス、俺は同時に面を上げた。
(まさか、またドワーフのときみたいなことじゃないだろうなぁ)
というのは、スキップが無限通路を解くために懐から取り出した小袋のこと。そこに描かれていたドワーフのロゴを見た彼は、なんともトンチンカンな解説をしたんだったよなぁ。
こんな場面でそれをやったら、さすがに三人揃って文句を言われるぞ。
そんな心配をしたけど、それは杞憂に終わった。
「これがそのヒントだろう!」
俺たちは一斉に彼の視線の先を追った。
まさにヒント、というか答えそのものが目の前にあったのだ!
「古代文字……ね」
「こんなの最初通ったときにゃぁなかったぜ」
少し離れた場所の壁にあったのは、数行に分かれている文字。
「こいつ、読んでくれエルエス」
「ええと、ちょっと待ってね」
エルエスは小さな冊子を取り出すと、壁と冊子とを見比べながらブツブツとつぶやく。
ようやく解読に成功したようで、彼女は冊子をパタンと閉じた。
「魔法の効果がある古代文字は難しいけれど、これは常用文字だったから良かったわ」
そう言ってエルエスは、ふんわりと笑う。
その笑顔を見て、やっぱりいいなぁ、なんて思ってしまう。
という、どうでもいい感想は置いといて。
問題の古代文字の内容は以下の通り!
『此処ハ 知ヲ持ツ者ト ソウデナキ者トヲ選別セシ試練ノ間
閃キヲ身ニ宿シ者 汝ハ コノ時ヲ以ッテ光明ヲ得タリ
愚カナリシ者ハ即刻去レ 既ニ資格ハ無シ 進ムコト叶ワズ
汝ラ 道ノ果テニシテ チカラヲ試サレルコトト成ル』
「とにかく進めばいいってことだろ」
事も無げにスキップが言う。
なんて自信に溢れた言葉!
文面通りにとれば、知恵を持つ者はすでに何ら障害はないようなことが書かれているけど。
まぁ、実際に彼は一度のミスもなく、この場所まで辿りつく方法を思いついたわけで。(スキップはかなり冷や汗ものだったと思うけど!)
「むやみにディスペルマジックをかけていたら、『愚カナリシ者』と判断されていたのかもしれんな」
バルバドの言う通りだ。
だとすると、やはりスキップのおかげでクリアできたわけだ。
「ほら、さっさと行くぜ」
言うなりスキップは歩き出していた。
「いつもならブイサインとかしてるのに」
「ねえ?」
彼らしくなく、自慢の一つもなしに歩き出す背中を見て、俺はエルエスと顔を見合わせて笑った。
きっと、さっきの恥ずかしさがまだ残っていて、すぐにでもこの場から去りたかったのだと俺たちは思った。
「落ち着ける場所に着いたら、そろそろ休憩にでもしたいものだな」
すると、食事を要求するようにバルバドのお腹が、グゥ〜、と鳴った。
俺とエルエスは、また笑った。