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二、胸に鎮魂歌を(5)

 なるほど、スキップに言われれば言われるほどに妙な雰囲気の漂う塔だ。

 この塔を建てたのが、たとえ人外の者だとしても頷けてしまう。

「つっても、ここはどうやらハズレのようだぜ。諦めて大人しく」

 大きく落胆したスキップが、気を取り直して道を引き返そうとしたとき、

「待って、みんな」

 ひた、と彼は行きかけた足をその場に留める。

「この壁……ただの行き止まりのように思えるけれど、そうではないわ」

 一人、じっと正面の壁を見つめていたエルエス。

 彼女の発言に、俺たち三人は足を止めて、ウィザードであるエルエスの動向を見守った。

「これって多分、ううん、これも魔法で……」

 希少な宝石かなにかに触れるような手つきで、エルエスがそっと石壁に手を添えたとき、

 ズッ。

 ササササァ──。

 巨大な川をせき止めていた岩石にヒビが入ったような音。決壊した防波堤から、それまでの鬱憤を晴らすように濁流が溢れ出す。

 例えるならそんな調子で、石壁は突如として崩れ、砂に変わり、時を置かずして幻のように消え去った。

「おおっ」

 バルバドでなくても思わず感嘆が洩れてくるってもの。

 そう、ようやく俺たちは戻ってくることができたんだ!

 道を遮る壁がなくなった向こうには、

「最初の部屋に帰ってこれたんだな俺たちは」

 長く先の見えない通路という名のトンネルを抜けて、まだたいして時間も経っていないはずなのに、やたら懐かしい気のする、八階始まりの場所へと無事帰還することができたのだ。

「くそぉっ、こんな場所に描いてあったのかよ!」

 奇妙な感慨にふけっていると、俺やバルバド、エルエスとは一味違ったスキップの舌打ちする声が聞こえた。

「ここじゃ、見つけらんねーわけだぜ」

「スキップ、さっきから何を探していたんだい?」

 気になり尋ねる。

「この通路に乗り込む前に目印をつけてたんだよ。一応、念のためな。でも結局は役に立たなかったけどよ」

 彼は側壁のある一点を指す。

 そこには小さな筒のようなものと、雲のマークが描かれていた。

 なるほど、これを探していたんだな。

 出発点がわかるように印をつけていたんだろうけど、結局はテレポーテーションポイントの先にあったから、役には立たなかったみたいだなぁ。

「これ、スキップが……?」

 なんだか訳の分からないマークだけど。

「俺のトレードマーク、にする予定でよ。んま、嗜好品の一つだな。あとで宿に戻ったら見せてやるよ」

「ふぅん」

(これがトレードマーク? スキップの趣向はいまいちピンとこないなぁ)

 よくわからないので、ともかく俺はそんなスキップのつけた印よりも気になっていることを聞いてみることにする。

「どうやってディスペルマジックをかけるポイントを見つけたのか、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかい、スキップ?」

 見てのお楽しみ、と彼は言ったけれど、見たところでなにもわかりはしなかったじゃないか。

 結果的にはスキップの考え通りにはなったけれど、ハラハラドキドキものだったんだからさ、こっちは。

 そう言いかけたのに、彼は俺よりも素早く言葉を吐いた。

「歩数だよ」

「えっ、なんだって?」

「だ〜か〜ら〜、歩数だっつってんだろ。歩いた数、ほすう! 俺はな、歩数を記憶する癖があんの!」

 なぜだか不思議なことに、スキップは顔を見られないようにか、左手で隠しながら言った。

(顔が赤くなってないか?)

 するとエルエスが「ふふふ」と笑う。

「え? なに?」

 彼女が笑う理由がわからず首を傾けていると、

「ジギーが疑問に思うのも仕方があるまい。スキップはな、一度それで痛い目に合っているのでな」

 あまり多くを語ろうとしたがらないスキップに代わって、バルバドが俺に説明してくれた。

 なんでも彼らが一年ほど前に挑んだダンジョンに、一風変わった罠があったそうな。

 その罠とは、決められた歩数をパーティーメンバー全員が歩くだけで解除されるという、実に単純なものだった。

 決められた数はそれほど多いわけではなかったし、特にスキップは自分の記憶力に自信があったから、当然楽勝! と思いきや、

「ぶぇぇぇぇぇぇぇっくしょい!」

 とんでもないことに、大きなクシャミをした瞬間、歩いた数が頭の中から消し飛んでしまったのだ。

 実はその罠、少しでも歩みを止めたり、決められた数をオーバーしてしまったら即失格。

 彼は慌てて歩き出したものの、どこで止まればいいものかわからず。

 失敗してしまった者の場所にモンスターが現れるというオマケ付きで、哀れスキップは、気付いたらモンスターの群れに取り囲まれていたということがあったらしい。

「その話はもういいだろーが、旦那」

 珍しく顔を真っ赤にして恥ずかしがるスキップ。

 なかなか見られない光景だぞ。

 それからというもの、歩数を記憶する癖がついてしまったとの事。

「だが、そんな失敗のおかげで俺たちは助かったわけだからな。よく、失敗は成功の素、と言うが、まさにその通りというわけだ」

 人に歴史あり、とも言うなぁ。

 スキップだって、色んな失敗を積み重ねて今に至っているんだな。

「距離を測るのに歩幅っつーのは最適だかんな。ふんっ、こいつも覚えときな、ジギー」

 彼が言うには、入り組んだ迷路のようなものだったらお手上げだったけど、今回のような直線の通路だったからこそ、全てのテレポーテーションポイントを見極めれば、歩数から元の通路を割り出すことが可能だったのだそうだ。


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