二、胸に鎮魂歌を(2)
スキップはすかさず壁に「B」と印をつけた。
「そういえばスキップ、なんでまだディスペルマジックをしたらダメだったんだい?」
誰も聞かなかったし、俺もスキップが言うのならと素直に従ったのだけど、一応理由は知っておきたいと思って聞いてみる。
「ああ、説明すんの忘れてたな」
再び粉を振りまきながら彼が言う。
「結論から言うとな、あそこでテレポーテーションの魔法を消したら……俺らは閉じ込められちまう可能性があんだ」
と、閉じ込められるだって?
彼は手を止めずに続けた。
「いいか? もしテレポーテーション魔法が、いくつかの行き先が閉ざされた通路の断片同士を繋ぐものだとしたらどうなると思う? 例えば五つなら、五つの出口も入り口もない通路が、その両端を魔法で行き来できるようにされているだけって場合。それだと、魔法を消しちまったら消した先はただの行き止まりだろ?」
そういうことか。
確かにスキップの言うとおりだとすると、せっかくディスペルマジックをかけてもまるで意味がないことになる。
いや、それどころか自ら墓穴を掘ったことになってしまう。
なにしろ、テレポーテーションを消したその先はどこにも繋がっていない。俺たちは打つ手もなく、立ち往生することになりかねない。
「じゃあ、どうやってここから脱出するんだい?」
熟練のシーフに問いかける。
全ての古代文字を探し出して、テレポーテーションする場所を割り出しても、一体どれを消せばいいのか、そこをクリアしなければ。
「まぁ見てな。おっと、もういっちょあったぜ」
スキップの振りかけた粉が一瞬だけ途切れて見えた。
「C」と壁に目印を付けて、また俺と二人で作業を開始する。
「どうやらそれで最後のようだな」
「さっきの場所まで戻ってきたみたいね」
背後から声がかかり、俺たちは粉を撒く手を止める。
通路の先にポツンと転がっている塊が二つ見えた。
念の為、そこまでは壁に粉を振りかけながら、俺たちはスタート地点へと辿りつく。
「ポイントAからポイントCまでで三つか」
氷に閉じ込められたままのエビルスライムの核を見下ろしながら、バルバドが言った。
便宜上、俺たちはテレポーテーション魔法の効果を持つ古代文字がある場所を『ポイントA』などと呼ぶことにしていた。
「じゃ、おさらいしようぜ。まず、テレポーテーションポイントはA、B、Cの全部で三つ。直線的な通路の両端を、それぞれのポイントで繋いで、無限に通路が続いているように見せかけてるってぇわけだ」
つまり、ポイントAとBの間に通路1があるとしよう。
さらにポイントBとCの間に通路2、CとAの間に通路3があり、それぞれ同じ番号のポイント同士がリンクしているということになる。
「んで、通路1から3までのどれかが、最初に俺たちが登ってきた階段のある場所に、繋がってる通路のはずだ。正しいポイントにでぃすぶぇるマジックをやれば、元の場所に戻ることはできるが、間違っちまうと最悪は、行き場のなくなった通路の中に閉じ込められちまいかねねぇ」
「ちょっと待て。俺たちは先に進むのが目的ではないのか?」
バルバドが口を挟む。
そりゃそうだ。
だから階段のある場所に戻っても意味がないんじゃないのだろうか。
そう思ったのだけど、
「旦那の言う通りだけどよ、こーゆーのはまず退路を確保しとくべきだっつーのが俺の考えなわけ。いざっつーときに逃げるのもままならねーってんじゃ、目もあてられねーだろ?」
そういうことなら納得。
バルバドも首を縦に振った。
「そんでまぁ、俺は『ある方法』で消すべきポイントを割り出したっつーわけ。その方法は全体を把握できてねーと出来ない方法だったから、まずはポイントを全部探し出すのが先決だったっつーことなのよ」