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二、胸に鎮魂歌を(1)

「バルバドと相談していたのだけれど、やっぱりあれはテレポーテーション魔法の効果を持っていると思うの」

 開口一番、エルエスが言った。

「あれって?」

「天井にあった古代文字のことだ」

「どーしてわかったんだ?」

 俺たち二人の素朴な疑問にエルエスが答えた。

 なんでも彼女はかつて魔術師ギルドにて、同じような古代文字を目にしたことがあったそうな。

 冒険者を大別すると、それぞれ戦士ギルド、盗賊ギルド、そして魔術師ギルドのいずれかに、例外なく全員が所属していることになる。

 各ギルドにはその名の特性に合った情報交換などが頻繁になされていて、エルエスはもちろん魔術師ギルドに籍をおいているんだ。

「その頃に目を通した文献の中に、似たような古代文字があったことを思い出したの」

「へー、なるほどね」

 そしてエルエスは、自分が知っていることを俺とスキップに説明した。

 彼女が言ったことをまとめると、テレポーテーション魔法の古代文字をディスペルマジックで消したとしても、別の魔法によって景色は向こう側の通路を映し続けているということだった。

 もちろん、テレポーテーションの効果が消えてしまえば、その通路を通りすぎたとしても瞬間移動することがなくなる。だから、景色だけがいきなり変わったように見えることもあるかもしれない、ということだ。

「それだけは覚えておいて頂戴ね?」

 エルエスが念を押す。

 と、俺は嫌な気分がした。もちろん彼女の言ったことに、ではない。

 嫌な気分……いや、気配というべきか。

 起きてしばらくしてから、観ていた悪い夢を急に思い出したときのような、なんとも言えぬ感覚。

「みんなっ! まだ終わっていない!」

 振り返り、俺はすぐに叫んだ。

「おいおい、まさか元通りになっちゃうわけ?」

「しつこさではリベンジャーヘッドにもひけを取らんな」

 うんざり、そんな面持ちでバルバドが肩をすくめた。

 まさか何度倒しても復活してしまうのか?!

 ウォーハンマーを再び手に取る彼と共に、俺も剣を構えなおす。

 床から少しだけ浮いた宙ぶらりんの鉱石。

 息を吹き返したように、エビルスライムの核である鉱石が明滅を繰り返して、

「フリーズロック」

 カキンッ! キィーン、キーン……。

 エルエスの声で、エビルスライム二匹分のそれは氷塊に閉ざされた。

 コロン、小声でささやいたくらいの音で落ちる。

「さ、いきましょう」

 氷塊を一瞥して、エルエス。

「あんな姿になってしまっては、やっこさんも形無しだな」

 バルバドが皮肉気味に言って苦笑した。

 だけど俺はバルバドの冗談で笑う気にはなれなかった。

 エルエス、さすがに魔法を連発しすぎだ。

 気丈を装ってはいるけど、疲労の色が見てとれる。

 きっとバルバドやスキップもそれくらいはわかっているとは思うけど。

「俺たちが全力でサポートしてやればいい。そのためのパーティーなんだからな」

 心を読んだかのようなタイミングでバルバドが言った。

「……そうだね」

 彼女に負担をかけたくないのなら俺たちが頑張ればいいんだ。さっきスキップに教えてもらったのに忘れるところだった。

 自分の力不足を責めるな、おまえにもできることがあるはずだぞジギー!

 そうやって自分に言い聞かせる。

「よし、じゃあバルバドの旦那とエルエスは他にも新手が出てこないか警戒していてくれ。俺とジギーちゃんで作業を再開すっからよ」

「了解。そっちは任せるわね」

「目を光らせているから安心しろ」

 そうして俺はスキップと、発光粉末を壁に振りかける作業を開始した。

 距離にすると結構歩いてきたと思ったけれど、二度目ともなると手際も良くなるってもの。

 しばらくすると、また古代文字の描かれた天井を見つけることができた。


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