一、静かなる捕食者(10)
「こういった単細胞の手合いに、小細工はいらん。全力で思いの丈をぶつけるのみ!」
不敵な笑みを口元に貼り付け、バルバドが一歩踏み出す。
思いの丈って、要するに「おまえムカつくからボッコボコにしたる!」ってことなんじゃ……?
巨漢の妙な言い回しに、二の句を告げずにいると、彼が動いた。
(──早い!)
静から動へと急加速したバルバドが、一気にエビルスライムへ詰め寄る!
その動きにまるで反応できなかったと見えるエビルスライムに、うなりを上げた大槌が振り下ろされる。
クラゲのような軟体がウォーハンマーの形に大きく窪んだ。
はち切れそうなほどに押しつぶされたエビルスライム。
その体の深部で怪しい光を照り返していた鉱石が、大槌と石床との狭間で軋む。
キリキリ、と音が聞こえてきそうな鉱石から、何度か火花が散った。
時間にしてほんの二秒か三秒。
その僅かな時間の中で、バルバドの豪腕から放たれた一撃に、悲鳴を上げることすら許されなかったモンスターは、いよいよ耐え切れず──。
パァン。
膨らませた紙袋を迷いなく叩き潰したときのような音を立てて弾けた。
薄い膜のような表皮がしぼみ、どろりとした液体が流れ出る。
鉱石はしんとして輝きを失い、そこに転がった。
「ふんっ」
バルバドがウォーハンマーを担ぎ直す。
一息ついた彼がこちらを振り返った刹那──。
誰かに突き飛ばされて、俺は床に転がった。
(──スキップ?!)
自分に覆いかぶさってきたシーフを確認した俺は、彼の肩越しにそれを見た。
(もう一匹いたのか?!)
天井から無事に着地した新たなエビルスライムを見て、俺は心の中で舌打ちする。
スキップが助けてくれなければ大変なことになっていた。
何も言わずに突き飛ばしたところを見ると、そんな余裕さえなかったのだろう。
すぐにバルバドが新手のモンスターへと向かい直すが、先ほどの戦いを見ていたのかと思ってしまうほど、登場してすぐさま、二匹目のエビルスライムはその体形を変えた。
クラゲのような表皮、というのなら、それはまさにクラゲの触手のようだ。
だが、ただの触手などでないのは、一目瞭然。
その尖端は、まるで一角獣の角のように鋭く、槍の如く形へと様相を変化させた。
大勢の騎士が槍を何十本も揃えて俺たちに向けているようなものだ。さすがのバルバドでも、これでは近づくことさえままならない。
「チャージング──」
ともかくこのまま寝そべっていたら、蜂の巣にされてしまうのは目に見えて明らかだ。
俺とスキップが大慌てで立ち上がろうとした、その時、
「サンダーブラスト!」
凛とした声がその場を支配した。
力ある呼びかけに応えるかのように、エルエスのワンドの先に光の輪ができる。
その真ん中から伸びた一本の細い光線が、エルエスとエビルスライムとを結ぶ。
次の瞬間、光線を追いかけるように、電撃の奔流が猛け狂った。