1章9話『実力差』
まだ、食後なんですけど。
将器「じゃあ、審判は俺とあずさで。武器、魔法両方ありの総合戦だ。それじゃ、試合開始。」
神那「おいで。」
そういうと神那は軽く構えた。
蔭蔓「じゃあ、お言葉に甘えて。」
とりあえず、相手の能力が未知数なのと、試合場がそんなに大きくないことから、動きを封じてとっとと決着をつけてしまおうと考えた。神那の周囲の地面全体に日陰蔓をはやし神那を縛り付けてしまおうとしたが、神那は驚くべき運動神経を発揮し、舞うように攻撃をかわし、蔭蔓の鱗木の幹を右手から放ったレーザー光線のようなもので焼き切った。直径1mはあったであろう幹をだ。
神那「もっと楽しませてよ!」
神那は再び指からレーザー光線を放とうとした。直視したら試合終了になると判断して、彼女との間に日陰蔓の壁を作ったが無駄だった。
レーザー光線で、あっという間に壁が焼け落ちた。間合いも詰められた。
逃げようと思ったが遅かった。煙が風に吹かれて視界が開けるころには神那は既に目の前に迫っていた。
なんというか、なんてこった。
しかも彼女の飛び蹴りが頬に直撃してあっけなく地面に倒れた。と思いきや隣の地面にはすでに刀が刺さっている。当然ながら、この剣で蔭蔓の喉元を貫くこともできたわけで、勝負は決した。
い、痛い。
蹴られたところが腫れあがった。
実力差は歴然だった。神那の身のこなしは恐ろしく素早く、それはあずさや将器、そして、おそらくあの黒いローブの比でもない。つまり、壮絶に強い。
将器「しょっ、勝負あり。」
あずさ「うそでしょ。蔭蔓秒殺じゃん!」
秒殺とか言うなよ。傷つくだろ。
蔭蔓「強いな。」しゃべると頬がかなり傷んだ。
神那「どうも。でも、もうちょっと君の魔法見たかったな。正直、最後の蹴りは避けてくれると思っていたわ。」
当たって、悪かったですね。
神那「次はだれ。とはいっても、男子から来なよ。」
神那はぎくっとしている将器をみた。
蔭蔓「神那お前、連続でやるの。」
道着についた土ぼこりをおとしながら、尋ねた。
神那「だって、物足りないから。」
蔭蔓「それ、ずいぶん傷つくんだけど。」
神那「あ、ごめん。わざとじゃなかったの・・・。」
蔭蔓「いや、本音なら余計傷つくんだけど。」
神那「まぁ、強くなりなさい。」
いうじゃんか。
将器はあとずさろうとしたができなかった。カノジョを前にして敵前逃亡はできまい。
蔭蔓「はい将器、敗北決定。」
将器「おい、そりゃないだろ。」
しぶしぶ、将器は剣を構えた。
さて、神那の試合の審判は爽快だった。神那は、日頃散々いじってくれた将器もあずさも、ことごとくねじ伏せてくれたのだ。
将器が足場全体に水を張って、やはり神那の俊敏な動きを止めようとしたが、例のレーザーで神那の周りの水は蒸発した。
しばらくにらみ合いが続いたが、意を決した将器が切り込んでいったら、あっけなく剣を取り上げられて、殴り飛ばされた。そのまま胸元に刀を突き付けられて、将器は敗退。
こんなにあっさり、将器が剣術で敗れるの初めて見たな。
最後にあずさと神那が試合をした。実は初め、機敏に動いたあずさが、神那の視界を奪うことに成功した。
しかし、神那は魔法耐性が強いらしく、得意の接近戦に持ち込んだあずさが近づく前には神那は視界が見えていたらしく、動きを読まれて転ばされ、そのまま寝技で締め上げられてしまった。
あずさ「ううっ。ギブです。神那さん~~。神那様・・・。」
神那「審判!」
蔭蔓「あっ・・・勝負あり。勝者神那で。」
ひとまず、実力差ははっきりした。
将器はあずさに駆け寄ってあずさを起こして差し上げた。
将器「白銀寮って、ひょっとしてエリート集団?」
神那の実力に相当驚いているらしい。
神那「そういうことではないかな。けれど、戦闘に特化した訓練を受けていたのは事実。というか、白銀寮の魔法使いのほとんどは、戦闘特化型の魔法使いだった。」
神那は道着についた草や土を払いながら言った。
あずさ「なるほど。強いわけだぁ。」
あずさは、冗談をかます余裕もない様子だった。試合の結果に関して言えば、将器は騎士志望だから、かなり決まりが悪そうだった。
毒見を一人で俺にさせるから、一対一で無様な格好を俺に見せることになったのさ。ただ、三対一でやっても全く勝ち目はなかっただろうけどね。
その夜、伝達帳に正式に神那が来ることが報告され、完全に神那泥棒疑惑は晴れた。
料理当番は将器で、蔭蔓しばらく、外で、ぶらぶら散歩してから帰ってくると、家の正面から左側の一階の軒下で座ってあずさと神那が話していた。
蔭蔓は、話している様子を観察すると、あずさはいわゆる女子トークが神那とできるようになったのは本当に嬉しかったらしくいつも以上に会話のテンポが高かった。
あずさ「神那の魔法。あれは何なの。」
神那「電磁波の魔法。特定の波長の電子を高濃度にあつめて照射しているの。単純だけど、それだけなの。」
あずさ「原理は簡単に見えるけど、あれだけの破壊力って、相当洗練されているのね。」
神那「まぁ、一応、それが売りだからね。売りっていうと誤解を招くかな。」
神那は少し恥ずかしげに言った。
あずさ「白銀寮ってみんな神那みたいに強いの。」
神那「実は私は組手とか、魔法試合は一番だったなぁ。去年は。」
あずさ「ちょっと安心した。すごいのね。」
神那「といっても、小さな白銀寮のなかの一番だけどね。」
神那の話から推測して、白銀寮には、簡単に殺人等々できてしまう能力あるいは実力を持つ学生が集められているのだろう。
蔭蔓「あずさ、そういえば将器があっちで干したイワシみたいになってたぞ。」
あずさ「ああいうときは、ほっとくほうがいいの。」
神那「それはそうと、将器とあずさって。」
あずさ「ああ、それは・・・。」
蔭蔓は会話を聞いているのが気まずくなり、将器のところへ向かった。
将器「おお、蔭蔓。」干したイワシの料理の手さばきは、わざとらしく活発だった。
蔭蔓「元気出せよ。手伝いに来たぜ。」
将器「ありがとよ。」
蔭蔓「まだ引きずってんのかよ。」
将器「いや、もっと頑張らなくちゃって。」
蔭蔓「あいつの強さは普通じゃないだろ。多分張り合っても仕方ないと思うけどね。」
将器「白銀寮って、実は何回か聞いたことがあったんだが・・・。確かに、戦闘に特化しているとは聞いてたんだが・・・。あそこまでとは。」
蔭蔓「俺は白銀寮って知らなかった。でも、その噂は正しかったってことだ。そこまで危ないやつには見えないけど。」
将器「俺もそう思う。寮が同じな分には大丈夫だろ。」
蔭蔓「頼むよ、寮長さん。」
将器「ああ。」
昼食で片づけを手伝わせた分、晩飯作りの手伝いを蔭蔓はさせられた。ともあれ、夜ご飯はシーフードのスパゲティだった。学校開始の一週間前でまだ余裕があるということで、ずいぶん気合が入った料理が続いている。
しばらくして、4人で厨房のとなりの和室の食卓を4人で囲んだ。席の配置は昼食と同じ。将器の料理は神那に好評だった。
神那「おいしい。」
蔭蔓「神那ってわりと率直に意見するよね。」
あずさ「どうしたの、蔭蔓。もう惚れちゃったの。」
蔭蔓「あずさ君きみねぇ、これでそう認識されるなら、俺なんも言えないでしょ。」
神那「3人とも仲良くていいね。」
将器「蔭蔓とあずさはしょっちゅう喧嘩するけどな。」
蔭蔓「フンッ。火種はあずさだ。」
あずさ「燃える方が悪いのよ。」
将器「おい、消火役のみにもなってくれよォ~。」
あずさ「将器が消してくれるなら、遠慮なく燃やしていくわ。」
将器「あのなー。」
神那「でも、蔭蔓って、突っ込みたくなるところ多いよね。」
蔭蔓「はい3対1ね。」
悪気がある女子1名と悪気がない女子1名からの攻撃を毎秒受け流す必要はありそうだったが、なんとか4人でやっていけそうな雰囲気にすこし蔭蔓は安心した。
神那は、誰も寄せ付けない実力とは裏腹に、気さくでやさしく、親しみやすかった。