2章4話『真犯人』
2章1節からでも読めるように、あらすじ、設定をまとめました。蔭の世界をご堪能あれ・・・・・・
1、2章1節からでも読める設定紹介: https://ncode.syosetu.com/n5947ez/80/
2、2章1節までのあらすじ : https://ncode.syosetu.com/n5947ez/81/
1月2日 午後五時半頃 封印木棺にて 蔭蔓
蔭蔓としては、正直言って、なんでもいいから早く双方武器をしまえと言いたい心情だった。理由は言うまでもない。今、揉めている場合じゃないからだ。
それに、仮に将器が剣術で上回ったとしても、蔭妖である茂蔓を討つことなどこの世界では不可能だ。将器もそれをわかっていると願いたい。
「それは、お門違いだ」
茂蔓は大鎌を前方に構えたまま言った。
「なんだって?」
「あの事件の首謀者は……そこの彼女の隊長だよ」
神那を視線で指しながら、茂蔓は蔭蔓そっくりの皮肉な笑みを浮かべた。
「つまり、自作自演。話を聞く限り、そこにいる彼女は何も知らないようだけどねえ……」
「まさか、武沢隊長が……でもあり得るかもしれない。あの人はあまり重視していないから……」
神那はしばらく考え込んだが質問を返した。
「けど、何のために?」
すると、茂蔓の隣にいた小柄の少女が前に踏み出した。附属図書館襲撃事件では黴の魔法で十メートル四方の書庫をまるまる灰にした彼女だ。
蔭蔓は思わず一歩後ずさった。
少女は、鈍色のフードの上に、千草色の地で砂色の何かの植物柄の着物に身を包んでおり、顔は狐の面で隠している。
しかし、面を外した瞬間、驚きのあまり胸元に日陰蔓が生えた。少女を知っていたからだ。
彼女は、アミテロス魔法学校前部の後輩にして、今年度の緑寮の寮長、薊だった。
「権力欲」
薊は言い切った。
「あの時、結界の外にいた島の魔獣を全て始末したのは先輩方でしたよね。白銀寮の神那先輩」
「そ、そうだけど……」
そうだったのか……。そういえば、気を失ってしまい気づいたときには事態が収拾していたので気には留めなかったが、結界の外にいた夥しい数の魔獣を誰かが始末していたはずなのだ。
「先輩方が卒業されてから、その功績であの学校は白銀寮を中心とした体制に変えられたんです。そこまで読んでの自作自演だったのですよ」
話題には関係ないが、彼女の登場に無反応ではいられなかった。
「薊っ……お前……」
「ああ、蔭蔓先輩じゃないですか」
薊は、にっこり笑って見せた。
「茂蔓側、いや、蔭妖寮の密偵だったわけだ……」
「ええ、潜入していましたよ、白銀寮にね。そこから、白銀寮の密偵として緑寮に潜入していたわけです。と言っても、今はどちらも裏切ってここにいるのですけどね」
薊はいつもの小悪魔的笑みを浮かべた。
できる後輩だとは思っていたが、三重スパイをこなしていたとは蔭蔓も考えなかった。彼女の要領の良さには天晴と言いたくなる。
「待って、私、白銀寮だったけどあなたを知らないわ」
「ええ。知らないはずです。私の存在自体が伏せられていましたから。手続き上は緑寮の一学生ですよ」
「驚いたわ、嘘じゃないようね……」
あずさは、薊を凝視しながら答えた。彼女はどうやら本当のことを言っているらしい。
「ちょっと待ってくれ。なら、知っていたというならどうして教えてくれなかったんだよ」
将器が抗議した。
「そんなの無理に決まっているじゃないですか」
そりゃそうだ。
「ちなみに、君の隊長は来年度からアミテロス魔法学校学長らしいじゃないか。まさに……権力欲の塊というやつだな」
茂蔓は勝ち誇ったように嘲笑した。
「そんなっ!」
「じゃあ何か、神那の元隊長があの事件を起こして、自分の出世のために、何十人も犠牲にしたって言うのか!」
将器は、急所を突かれたように狼狽えた。
「そうだよ」
茂蔓は言い切った。
「白銀寮にあらずんば、人にあらずとか言っていましたよ。最後に会ったとき」
すかさず、薊が補足する。
「あずさにはどう見える?」
「本当みたい。確かめるべきとは思うけど……」
そして、向こうには聞こえないほどの小声で「でも私のことまで知っているとは思えないし……」と続けた。
将器は戸惑いを隠せない様子だが、あずさは冷静さを保っている。
「……そうか」
茂蔓は、将器の戦意がそがれたのを確認すると「仮に、僕らの言っていることが真実だとして、どうする?」と尋ねた。
「仇を討つ」
将器は静かに言った。
「君のそういうところは嫌いじゃない。だが今は……僕たちは追われている。おそらくこの場所もいずれ見つかるだろう。その前に……」
「わかった。でも、俺は諦めない」
そう言うと、将器はあずさの方に向き直った。
「うん、私も」
あずさも、同じぐらい静かに同意した。そして、落ち着いた声で茂蔓に尋ねた。
「つまり、あなたたちは武沢の計画を利用して蔭蔓に接触を図ったに過ぎないのね? あの時」
「そうだ」
「……わかった。協力するよ」
将器、あずさ、茂蔓の三人は共に頷いた。周囲の者は安堵して脱力したに違いない。
「もう、びっくりさせないでくださいよ。私、先輩方と斬りあいとかまっぴらごめんですからね」
薊は余裕を見せたが、案外、内心焦っていたのかもしれない。
俺もだ。
「ところで、俺もそこのアレクシアに聞きたいことがあるんだが……」
アレクシアは、足首まであるダークブルーのコートを着こなし、粘菌のような模様の刺繍された小麦色のスカーフを巻いている。
「……ひょっとして、敏雄とラーサのこと?」
「そう。あれはなんだったんだよ?」
「二人なら、草蔭ごとこの中にいるよーっ」
そう言うと、アレクシアは布で覆われた荷車に触れた。端の部分が隠しきれておらず、察するに包まれているのは金属製で円筒形の巨大な機械かなにかだ。
「二人とも蔭妖なのかよ……」
「そういうことっ!」
「……もういいや。外行ってからにしよう」
再び両社沈黙した。沈黙を破ったのは、またもや繋木氏だった。
「それじゃ、霞ちゃん。茂蔓君。儀式を始めてくれるかな?」




