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アミテロスの魔獣狩り~草蔭魔術の深淵へ、シダ植物の魔法樹林をどこまでも旅する~  作者: 森條 在
1章終節 アンプラリアの草蔭《くさかげ》
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1章70話『アンプラリアの草蔭《くさかげ》』(挿絵有)

??? ??? 草蔭くさかげアンプラリア実験場 蔭蔓カゲル


 次にカスミに案内されたのは、研究室の何倍もの面積があり、高さは数階分ある、大きな円柱状の部屋だった。


 中心部には、一つ一つが直径数メートルある朱殷しゅあんの捕食袋を持つ草蔭くさかげネペンテス・アンプラリアが鎮座し、周囲を同じく巨大な水苔が覆っている。


 そして、植物を囲んで木製の床がバームクーヘン状に壁まで敷き詰められている。周囲の壁は樹木性で、モニターやコンピュータ、はもちろん、机や本棚も生えている。


カスミ「ここが、草蔭くさかげアンプラリア実験場。実はもう、茂蔓シゲルはあの捕食袋に入っているの。」


 カスミが指をさした先には、内側が発光して蛍のように光っている直径3mほどの捕食袋があった。


 中を進み、実験場の反対側の出口へでて、すぐ右にあった階段を上り、3階の高さに張り巡らされている、バームクーヘン状の生きた樹木の床へ出た。先ほどは暗くて見えなかったが、樹木性の天井から、穴の直径1m以上の円柱状のいびつなパイプが複数本生えており、その直下にはプールの飛び込み台のように樹木の床が続いていた。


カスミ「このランプが緑になったら、上のパイプから粘液が大量に放出されるの。その中に足から飛び降りれば、下の捕食袋に自動で入るから。」


蔭蔓カゲル「飛び降りるって、大丈夫かこれ?」


カスミ「つまらないへまはしないわよ。それじゃ、私は管制室に行くからね。」


 そういうと、カスミ蔭蔓カゲルを飛び込み台に残して下って行った。


ハク、今までの話聞いていただろ。)


ハク(ああ。お前・・・。)


(まぁ、そういうことだ。とりあえず、日陰蔓ヒカゲノカズラを食わせてやれるのは、いったんここまで。)


ハク(・・・。)


(万が一の場合も、この研究所の外は杉の森林だ。八岐大蛇やまたのおろちの一頭だったお前なら、杉も食べ物として食べられるんだろ?)


ハク(まぁ杉も食料だが、おいらはお前が・・・。)


(そうだなぁ。短い間だったが、随分楽しかった。もしダメだったら、ちゃんと食べて大きくなれ。それで、人も蔭人カゲビトも近寄れない自然の深い土地に住んで、力をためて生き延びろ。もしまたお前を捕らえようとする奴等が来ても、追い返してやれるようにな。)


 そういって、蔭蔓カゲルハクを降ろした。


ハク(ふざけるな。ちゃんと帰ってこい。)


 ハクは「シャーッ!」と音を立てて蔭蔓カゲルを泣きながら威嚇した。


 まもなく、床から生えているランプが緑にひかり、正面上方のパイプから粘着質で緑色の液体が真下に大口を開けている、巨大なネペンテス・アンプラリアの袋の一つめがけてどろどろと流れ始めた。


(それじゃ、いったんお別れだ。)


 蔭蔓カゲルは粘液の中に飛び込んだ。ハクの「シュルル」という声が脳裏に響いた。


元旦 0:03 草蔭くさかげN.アンプラリア実験場にて カスミ


 カスミ蔭蔓カゲルが飛び込んだのを確認した。今から丸二日、不眠不休で管制室から反応を制御し続けなければならない。ひとまず、眠気覚ましの錠剤は大量に用意してある。


 途中からはヴォルフとアレクシアが援護に来ると聞いているけれど、茂蔓シゲルはリプロスが荒れているといっていたから、どれだけあてになることか。


 別にいいか。多分来ないし。


 カスミが手を樹木に接続して念じると、平らな机になっている、操作中枢を中心に周辺からたくさんの植物が生えてきた。これら一つ一つが即座にモニターやキーボード、扇風機等に成長した。準備が整ったことを確認すると、カスミは心身融合炉アシストシステム・サラセニアを実行した。


挿絵(By みてみん)


??? ??? ??? 蔭蔓カゲル


 朱殷しゅあんの捕食袋の中に入ると、粘液は中の消火液と接触するや否や蒸発し、蔭蔓カゲルはつまさきから捕食袋の中の消化液に入り込んだ。順に、膝、腹、胸、首、そして、頭の先まですっぽりと浸かった。


 全身が融けていくのを感じる。音を立てて、泡を立てながら皮膚が蒸発していく。熱湯に入っているようだ。痛いというよりは眠くなるような感覚に全身が支配され、そのまま意識が遠のき、蔭蔓カゲルはやがて気を失った。


??? ??? ??? ハク


 カスミという娘がしばしば外へ歩いていくので、後ろをこっそりつけながら実験場の外に何度か出た。建物の構造もある程度把握し、研究所の外に出る方法も理解した。このまま、森へ逃げることも可能だ。


 蔭蔓カゲルは仮にそうしたとしても気にかけないだろう。あの光の無い目は、他人や外界に何も期待していない目だ。それは、ハクに対しても同じに思われた。


 こちらとしても、自由の身となった今、蔭蔓カゲルを待つ必要はない。そうするとすれば、8頭で1つの身体を共有して生きるのは不自由でもううんざりだから、蔭蔓カゲルの言ったように食べ物のある場所でひっそり暮らすのがよいかもしれない。この山は蔭人カゲビトが出入りするので、山脈を北上し大きな湖のある深い森でもさがすとしようか。


 しかし、自分は全てを知ってしまった。自分を救った蔭妖おんようの惨めな過去を。今度は自分がその惨めな蔭妖おんようを救ってやることはできないだろうか。


 正直に言おう。自分は日影ヒカゲ 蔭蔓カゲルという蔭妖おんようを気に入ってしまったのだ。おいしい日陰蔓ヒカゲノカズラ、居心地のいい魔力、粘り強いくも無理に楽観しない性格も含めてだ。


 別に助けずとも、せめて最後まで見届けてやろう。


 後ろを振り返ると、中心部が蛍のように光っている捕食袋が二つあり、一つは蔭蔓カゲルが飛び込んだもので、もう一つが茂蔓シゲルという魔法使いの飛び込んだものだ。


 その後、ハクは管制室の様子を、実験場に生い茂る水苔の中に隠れて見守った。

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