1章62話『決戦、八岐大蛇《やまたのおろち》』
12月17日 午前10時半頃 百足山丘陵にて 神那
見た瞬間にわかった。
あのあるまじ木忌、八岐大蛇は明らかに神那よりも格上だった。魔力の量も、おそらく魔法の凶悪さも。それなのに、逃げるにしても戦わなければならない。
あるまじ木忌に対抗できるのは、同じあるまじ木忌の私だけ。私が皆を無事に返さないと。
神那は、魔力を解き放った。それでも、妖壊期の時の自分には遠く及ばない。そして、妖壊期の自分もこの大蛇に及ばない。
関係のないことだわ。
神那は鬼に変化した。
12月17日 午前10時半頃 百足山丘陵にて 蔭蔓
何を優先するべきか。第一に、円柱だ。円柱は封印木棺の7つの鍵のうちの一つであり、7番目にして最後の鍵だからだ。封印木棺の先にある別世界とやらに逃げ込むことができれば、今、この世界で複数の組織から指名手配中である現状を一気に打開できる可能性がある。
他に策はないから、これにかけるべきなのだ。
そして第二に、替えの利かない治癒術の使えるあずさだろう。
蔭蔓「霞は俺と共に神那の援護。将器、お前はあずさと共に、一番先にヘリアンフォラに行け。」
将器「本気かよ。カズ、お前まだ戦えるのか?」
蔭蔓「円柱が何よりも優先だ。扉の向こうへ行けば、俺たちは逃亡生活から解放されるかもしれない。だから、円柱を持っているあずさがヘリアンフォラを越えた先で待機、将器は戻って来てヘリアンフォラを守ってくれればいい。」
戦闘中の指揮は神那か将器が普段はとるが、思わず出しゃばってしまった。
蔭蔓「でいい?」
蔭蔓は2人に確認を取った。
神那「そうね。よさそうな案だわ。」
鬼に変化した神那が同意してくれたので、あずさも「・・・わかったわ。」と続けた。あずさは自分だけ下がるのは辛そうだったが、本人もそれが最適だと自覚しているはずだ。
霞「早く行きなよ。」
霞と協力しながら、将器とあずさを鱗木と蘆木で援護しながら進んだ。しかし、八岐大蛇がただで通してくれるはずもない。
もう魔力も残り少ないのに・・・。まだ戦えるのかと訊かれれば、どちらかと言えば否なのだ。
12月17日 午前10時半頃 百足山丘陵にて 神那
神那「あなたの相手はこっちよ。」
神那は終焉光を放ち、あずさを喰らおうとしていた頭をつぶした。しかし、新たな頭が首から即座に再生し、それを含めた5頭が神那めがけて、土砂、水、濁流、湿霧などを立て続けに放った。
そんな、滅茶苦茶な・・・。
あずさ「八岐大蛇は、洪水という災害そのものよ。」
あずさが言い放った。
なるほど、妖壊期に洪水そのものになるあるまじ木忌か。
神那は一ッ葉で盾を作り防いだ。多くは流されたが、まだ生きている一端が、蛇の口に届いた。
その頭は一瞬、目を充血させて一ッ葉を睨んだが、すぐに、濁流を吐いて一ッ葉を流しつくした。胞子崩壊も試してみたが上手く行かなかった。
12月17日 午前10時半頃 百足山丘陵にて 将器
神那が5頭を引き寄せてくれ、蔭蔓、霞がそれぞれ、1頭を引き寄せたが、残りの1頭はあずさと共に対処しなければならなかった。
将器は周囲の水分を集め、集中させて、何十本もの水の槍を蛇の頭めがけて、打ち出した。すると、それに呼応して蛇は雷撃を放ち、周囲一面に爆発が起きた。
将器「あっ!」
気絶しそうになったが、なんとかあずさの前に立ちふさがって守った。
将器「大丈夫か!」
あずさ「お、おかげさまで・・・。ありがとう・・・。」
将器「おうよ。こりゃ、霞と蔭蔓も手一杯だろうし、走るしかない!!」
あずさ「わかっているわよ。というか、追撃の濁流が来ているけれどっ!!」
将器「何のこれしき、迎え撃つっ!!」
今度は前面に水を集中させながら、直径数メートルに及ぶ水の弾を濁流にぶつけた。もちろん、その間もあずさは走り続け、それを将器も追った。
将器「抜けられそうだな!」
あずさは、近づいてきた蛇のからだに何かを放った。すると蛇は、一瞬混乱したように動きを止めた。
将器「蛇人の力か。」
あずさ「ええ。まぁ。」
将器「覚醒してきているのか。」
あずさ「そうね。近いわ。そろそろ打ち明けるべきかもね。」
二人は、ヘリアンフォラめがけて一目散に走り続けた。
12月17日 午前10時半頃 百足山丘陵にて 霞
あの、シュトーレンとか言うやつ、やってくれたな。
というのも、八岐大蛇が強すぎるから。これでは、蔭蔓のみならずこちらまで倒されてしまう。仮にそうなったとすれば、計画の進行が5日は遅れてしまう。万一蔭蔓を逃してしまえば、手の込んだ準備をした意味もなくなってしまう。
12月17日 午前10時半頃 百足山丘陵にて 蔭蔓
神那は5頭と空中戦、蔭蔓は気付けば、霞と背中合わせになっていた。
蔭蔓「木性シダの力を見るがいい!」
霞「随分強気じゃないの!」
蔭蔓「そりゃ、そうしてないと疲れで倒れそうだからね。」
霞「生憎あたしもだよ!」
蔭蔓「神那聞こえるか!」
しばらくすると、遠くから薄花色の鬼になった神那が握りこぶしを突き出した。
蔭蔓「俺たちも行くぞっ!!」
神那は頷くと、徐々に、ヘリアンフォラの方へ移動し始めた。問題ない。将器とあずさは既にヘリアンフォラのすぐ近くにいる。あとは2人を信じてこちらも自分が助かることも考えるだけだ。
蔭蔓も霞も蛇の頭が近づけば、シダを上手く利用し、打撃を食らわせながらヘリアンフォラに走った。
八岐大蛇に胞子崩壊が効かないので、内部から植物で制圧することもできない。一方、外側は硬い非魔法的な鱗でおおわれているようで、神那の一ッ葉で魔力を吸うといった芸当もできないようだ。
悲劇は突然起きた。
神那に落雷が直撃したのだ。
これも、八岐大蛇の力か。
そのまま神那は地面に突き落とされ、蔭蔓は思わず駆け寄った。
その時だった。
霞「キャッ!」
後ろから霞の短い悲鳴が聞こえた。
いよいよ冷や汗をかいた。
振り返ると、霞が転倒している。躓いたようだ。脚からは血が流れくじいている。
方向が真逆だったのと、神那の近くに鱗木がなかったことが災いして、自分に迫ってくる蛇の頭に対処しながら、同時に他の2人とも助けるのは無理だった。
しかし、蔭蔓は判断した。
霞に近づいているのは一頭で、鱗木も近くにあったので、その鱗木で霞を襲う一頭をぶっ飛ばした。そして同時に、自分を襲う一頭を全身全霊の日陰蔓の壁でかばいながら、神那に迫っている最初の一頭めがけて、身体全身に鱗木を生やしながら飛び込んだ。
文字通り、体当たりしたのだ。
無理もない。鱗木を生やそうにも胞子があるかどうかわからず、あったとしても、苗からなので遅すぎる。また、身体から生やしていたのでは威力が弱すぎる。だから、肉の壁になるしかなかった。
しかし、捨て身の一撃の甲斐あって、神那が噛みつかれるのだけは回避した。
蔭蔓は神那を飛び越し、地面に転がり落ちた。神那が生きているか気になって、振り返った。
神那「うっ・・・。」
神那はまだ意識がもうろうとしている。それでも、2人、目が合った。
次に何が起こるのかは知っている。それは、蔭蔓が飛び込んでいなければ、神那に起こっていたことだ。だから、自分の一撃が無駄ではなかった事だけでも良しとしよう。
できるだけ柔らかく微笑みながら、「君のおかげで僕は無駄ではなかった。」といった。
結局、彼女との約束も、自分との誓いも果たせなかったか・・・。
最後に、歪んだ神那の表情が一瞬みえ、それが消えると同時にすべての力が抜けて何もなくなった。蔭蔓は、5頭の蛇に体を引きちぎられた。
12月17日 午前11時頃 百足山丘陵にて 神那
目の前にいた蔭蔓は、手も足も首を5頭の大蛇にそれぞれ取られて、肉塊になり、悍ましい姿で口の中に消えていった。
神那「あああああああああああああああぁぁぁっ・・・・あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
2人で助かるっていったのに。私はまた、置いていかれてしまった。
いや、いっそ私も。
神那は動けなくなって、ただ、6頭の蛇の頭が近づいてくるのを眺めていた。
すべてをかけて、守ろうと決めた人も守れなかった。それどころか、その人に守られて生きながらえてしまった・・・。
私はやっぱり、壊すことしかできないのかな・・・。
感傷に浸っていると、霞の叫び声が聞こえた。
霞「あんたまで死んだら、蔭蔓が無駄死になるでしょうっ!!!」
神那は、我に返った。そうしたら、自分がするべきことも、その手順も見えた。神那はもう一度空高く浮遊し、青白く輝く終焉光をありったけ、近づいてくる頭に連打し続けた。
それから、隙を開けずに、ダイヤモンドでかろうじて身を守っていた霞を抱きかかえて、一目散にヘリアンフォラめがけて飛んだ。
霞「ちょっとなにするの、キャっ!」
その後、なにがあったのかは自分でもよくわからない。あたりが真っ白になって、意識が何か自分でない者に則られたようになった。
しかし、気づけば神那は霞、将器、あずさと共にヘリアンフォラの前にいた。
4人はヘリアンフォラをくぐりぬけ、跡を追わせないためにヘリアンフォラを破壊した。だれも、蔭蔓を待とうということは言わなかった。全員が、彼が虫けらのように無残にバラバラにされてそのまま食べられるところを目撃していたのだ。
目の前で、将器が声をあげて泣いている。あの将器がだ。あずさも真っ蒼になって、今にも吐きだしそうに地面に手をついている。
神那「ごめん。蔭蔓が死んじゃった。死んじゃったよ。」
霞「あんたのせいじゃないよ。・・・あたし、繋木に報告しておくから、あんたら今日はここで解散にしな。」
霞が暗い表情でそう言い残して立ち去った。そのあと、将器もあずさも神那も子供みたいに泣きじゃくった。わけがわからなくなってもみんななきじゃくった。




