表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アミテロスの魔獣狩り~草蔭魔術の深淵へ、シダ植物の魔法樹林をどこまでも旅する~  作者: 森條 在
1章終節 アンプラリアの草蔭《くさかげ》
65/95

1章60話『大百足《オオムカデ》の巣くう岩山』

12月17日 午前9時頃 百足山丘陵むかでやまきゅうりょうにて 蔭蔓カゲル


 ヘリアンフォラの先には草原が広がっていた。本の記載通り、岩壁の多い場所で、はるか彼方にはクルカロス北部一帯に広がるクルカロス山脈が広がり、杉を中心とした針葉樹林に大地が覆われている。


 ここは、リプロスの北東部にあたり、古くから百足の魔獣の巣窟として定評があるらしい。百足の魔獣は、迷い込んだ魔獣すら喰らうそうで、人は当然住んでおらず、魔獣狩りでも近づく者はいないという。


 近くには、蔭蔓カゲル将器ショウキが出会った、銀箔川ぎんぱくがわの更に上流に当たる川が流れている。


 草封じの峠や他のいくつかの鍵が封印されていた場所とは異なり、古代文明の遺跡の様なものは見つからない。


将器ショウキ「洞窟って、見当たらなくないか。」


あずさ「地図だと、このあたりにあるはずなのだけれど。」


 あずさはそう言って、『封印木棺フウインボッカン―第七封印―』の複製の、付属の地図を眺めた。


カスミ「下見にいったときは、このぐらいで引き返したの。」


蔭蔓カゲル「てことは、このぐらいでお出迎えだったわけだ。そろそろ、被るか。」


 隠れ烏帽子エボシ蔭蔓カゲルは被った。一方、神那カンナは無言で歩いていた。曰く、大地に呼ばれるように強大な魔力を感じるということだ。


 暫らく歩いたものの、やはり、大百足オオムカデは現れなかった。


 しかし、やがて岩山が乱立する地帯に入り、その奥に、洞窟の様なものを見つけた。


蔭蔓カゲル「あっ、あれかな。」


将器ショウキ「あれかっ!」


 将器ショウキも見つけて指をさした。


あずさ「わかったからいいけど、透明な人に「あれ」と言われてもね・・・。」


 確かに。


神那カンナ「嫌な気配がする。感知できるほど、大きな魔力が近づいてくる。」


 感知能力まであるのかよ。神那カンナってやっぱ最強だよな。


蔭蔓カゲル「様子見てくる。」


 透明だし。


 が、その必要はなかった。次の瞬間、その洞窟が振動し始めて、中が中から灰大蛇よりもはるかに大きな百足が現れたのだ。


蔭蔓カゲル「やれやれ、行ってくる。」


将器ショウキ「おう、こっちは任せとけ!」


 将器ショウキは周囲の水を手繰り寄せた。


カスミ「胞子はまいた。引き寄せるからとっとと行きな。」


 流石です。みなさん優秀で本当に助かります。


 洞窟の中は、広くて迷いそうだが、『封印木棺フウインボッカン―第七封印―』によれば、最奥部さいおうぶには祠があり、そこに、片手で持てるぐらいの円柱形の鍵があるのだとか。


 蔭蔓カゲルは奥へ奥へと胞子を散らしながら走った。


12月17日 午前9時半頃 百足山丘陵むかでやまきゅうりょうにて カスミ


 まだ時間があるけれど、うまくいってくれなければ、別の策を講じなければならない。下見の時に仕掛けておいた八岐大蛇やまたのおろちが、10時頃には目覚めてしまう。


 願わくは、30分程度で戻ってこい。蔭蔓カゲル


12月17日 午前9時半頃 百足山丘陵むかでやまきゅうりょうにて 蔭蔓カゲル


 奥へ、奥へと一人進んだ。一体、この洞窟どのようになっているのだろうか。


 残念ながら、目的地への到達は一筋縄ではいきそうになく、洞窟は何度も何度も二つ三つと別れている。それどころか、時に別の路と合流したりする有様だ。


 だが、攻略の方法論は極めて明快だ。日陰蔓ヒカゲノカズラと胞子を通った場所に目印として生やして目印としながら、方位磁針を頼りにできるだけ奥に正確に進む。


 なんだこれ。使えないな。


 

 が、残念ながら途中からは話が違った。というのも、数百メートル進んだ段階で方位磁針が狂ってしまったのだ。おそらく、洞窟内に磁鉄鉱などでもあるのだろう。蔭蔓カゲルの魔法ではどうすることもできない。


 さて、日陰蔓ヒカゲノカズラだけを頼りに進むとなると・・・。


 幸い、来た道にはすべて、広い範囲に胞子を散らしている。だから、周囲に適当に魔力を放ちながらすすむことで、落とした胞子をもとに、前葉体、胞子体と形成させられるので、同じ道を二度通ることを防ぐのみならず、帰り道を自然に得られるだろう。


 さらに数百メートル進むと、左方に赤紫や橙色に輝く穴が現れ始めた。覗けば、中にいたのは、一匹一匹が蔭蔓カゲルの腕の太さぐらいの蛍光の子ムカデたちだった。数千匹はゆうに超えているのではないだろうか。


 なるほど、こいつらに気づかれたらまずいと言うことか。刺されたら行動できなくなるという話は本にあったので、この子ムカデを刺激するのは避けたい。けど、子ムカデがいるということはこの大きな巣の急所に近づいているということだ。だから、最奥部さいおうぶにあるという祠もこの方向でいいのではないだろうか。


 しかし、その数十メートル先で、蔭蔓カゲルは行き止まりに到達した。


 あれれ・・・。


12月17日 午前9時半頃 百足山丘陵むかでやまきゅうりょうにて 将器ショウキ


 将器ショウキは水のカッターで、神那カンナ終焉光エンドレイで躊躇なく大百足オオムカデを解体した。


将器ショウキ「まさか、腹だけでも動き出すとはな。」


 しかも、腹からあふれた体液が子ムカデになる始末とは・・・。


神那カンナ「これじゃあ、近づけないわね。腹も再生するみたいだし・・・。」


カスミの援護で今のところもってはいるものの、子ムカデが増え続けたら、対処しきれない。


将器ショウキ「百足を腹で切断すればいいわけじゃないみたいだな。」


神那カンナ「そうね。本体が動けなくなる最低数を見極めて、継続的に生まれてくる子ムカデに対処し続けましょう。」


 せめてもの救いは、子ムカデには百足を生む能力はないことだ。再生することには変わりなさそうだが、こちらは粉々に破壊してしまえばいい。


12月17日 午前9時半頃 百足山丘陵むかでやまきゅうりょうにて あずさ


カスミ「あずさ、私の後ろに。ダイヤで覆うから。」


 カスミがそういうと、あずさの周囲に将器ショウキぐらいのダイヤモンドの蘆木カラミテスが生えてきた。


あずさ「大地も含めて一つの個体か・・・。確かに、正しい考察かもね。」


 ダイヤモンドの壁の奥で、大百足オオムカデについて思考をめぐらせた。


 何か打開案を・・・。あ、思いついた。


あずさ「神那カンナ、子ムカデが生まれてくるところに、ヒトを放ったらどうかしら。」


神那カンナ「やってみましょう!」


12月17日 午前9時半頃 百足山丘陵むかでやまきゅうりょうにて 蔭蔓カゲル


 子ムカデの巣窟まで後退して新たな進路を探った。ここからは右にもう一本だけ道が分岐しているが、その道は奥でさらに今までの進行方向と垂直に複数本に分岐している。


 それにしてもルートが多すぎるんだよなぁ。


 大百足オオムカデの足跡を追うことも考えたが、そこら中足跡だらけで方向もちぐはぐなのであきらめた。


 中心部に効率よく迫る方法はあるだろうか・・・。


 まてよ。親の百足って、土の中で子ムカデを抱えていること多いよな。そして、子ムカデの巣のすぐ奥に、行き止まりがあるってことは・・・。祠ってこの子ムカデの巣の中にあるのかもしれないな・・・。


 蔭蔓カゲルは、音を立てないよう抜き足で再び行き止まりまで進み、入念に調べたものの、やはり何も発見できなかった。


 はァ—、試してみるか。


 というわけで、洞窟の中で丸まっている子ムカデたちを刀で叩いてみた。すると、堰を切ったように子ムカデの群れがあふれだしてきた。


 ちょうどいい。たたき出してしまえ。


 幸い、子ムカデは透明な蔭蔓カゲルを認識できていないようだったので、鱗木レプトフリーアムを中に生やしてさらに刺激した。


 しかし、問題に直面した。


 子ムカデが多すぎて蔭蔓カゲルのいる洞窟一面に広がってしまったのだ。かろうじて、鱗木レプトフリーアムつかまり、さらに日陰蔓ヒカゲノカズラで自分を結び付けて難を脱がれてはいるものの、当然、子ムカデが蔭蔓カゲルがしがみついている鱗木レプトフリーアムにも昇り始めている。このままでは、いずれ接触する。


 どうしたものかな。


 蔭蔓カゲルの魔法は、直接何かを破壊するのが得意でない。だから大抵、別の方法を取らないといけない。


 というわけで、洞窟の行き止まり地点で大量に日陰蔓ヒカゲノカズラを発芽させた。すると、子ムカデどもは人がいると勘違いしたのか、日陰蔓ヒカゲノカズラめがけて、一心不乱に突き進み始めた。


 ムカデのいない足場ができるのを待って、蔭蔓カゲルはそこに降り立った。そして、巣穴と行き止まりの間を一気に鱗木レプトフリーアムで可能な限り隙間なく塞いだ。


 これで、時間が稼げそうだ。


 リンボクの間から時折子ムカデがわいてくるが、それはまばらで、今度は対処できない数ではない。蔭蔓カゲルは巣穴に入り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ