表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/95

1章51話『研究開始』

8月19日 午後3時頃 繋木ツナギ氏の客間にて 蔭蔓カゲル


 繋木ツナギ氏は、涼し気な夏着物をまとい、街でカスミの買ってきた羊羹ようかんを食べている。そして、カスミはやはり羊羹を食べている。


 闇魔法について、尋ねたいことは山積していた。


 ただ、尋ねる際に闇魔法という言葉を口に出すべきだろうか・・・?


 安易に口にすべきではないのだろう。けれども、闇魔法という言葉を使わずに、闇魔法について深く知る方法なんてあるだろうか?


繋木ツナギ「おゥ、ハよう!?あっ!えっとー、聞きたいことがあるんだっけ?」


蔭蔓カゲル「実は、はい。」


繋木ツナギ「いいよ、いってごーらんど。」


蔭蔓カゲル繋木ツナギさんと、カスミって、生まれつきその特殊な植物魔法を使えるのですか?」


 カスミが竹串を動かす手を止めた。そして、一瞬繋木ツナギ氏の方に目をやった。


繋木ツナギ「あーなんだ、魔法のことか。そうか、君は日陰蔓ヒカゲノカズラ使いだから、気になるわけだぁ。僕は生まれつきだけど、カスミちゃんはどうなの?」



カスミ「・・・私もだよ。」


 そういってため息をつくと、少し間をおいてからカスミは羊羹を再び食べ始めた。


 後天的なものではないとすれば、普通に考えて、特殊な植物が存在していたことになる。


蔭蔓カゲル「植物魔法使いって、今も現存するか、かつて現存した植物を使うじゃないですか。でも、空間を繋ぐヘリアンフォラも、ダイヤモンドになる蘆木カラミテスも例外的じゃないかと思いませんか?」


繋木ツナギ「うぅーん、うちは、大戦で亡くなった親父オヤジも同じヘリアンフォラ使いなんだ。それは私も気になって、親父オヤジに尋ねたことあるけど、知らないってさ。ただまぁ、ちゃんと僕たちの体の中にはあるわけだけど・・・。」


 繋木ツナギ氏はカスミの方を向いたが、開きかけた口を閉じた。


カスミ「私は、親の顔も知らない。」


蔭蔓カゲル「そうか・・・。」


 やはり、“闇魔法”という言葉を使わずに引き出せる話なんてものはたかが知れているようだった。


 それでも質問を続け、2人の用いる特殊な植物の由来や性質についてはいくらか教えてもらえた。けれども、知りたいのは、闇魔法とは何なのか、その特徴は何なのか、そして、どういった魔法ものが分類されるのか、といったことだった。


 言いますか。まぁ、失うものもないわけだし。


蔭蔓カゲル「実は僕、闇魔法と呼ばれる魔法群について調べていまして、ひょっとすると、繋木ツナギさんと、カスミの魔法も該当するのではないかと思いまして・・・。」


繋木ツナギ「闇魔法?なんだか怪しげな名前だね。」


 繋木ツナギ氏はお菓子をもらった子供のような目になった。


蔭蔓カゲル「御存じないですか?」


繋木ツナギ「残念ながら。でも、どんな魔法なんだい?」


蔭蔓カゲル「自然現象では起こり得ないようなことを引き起こす魔法の一部が分類されているようなんですけれど・・・、僕もよくわからないことが多いです。」


繋木ツナギ「なるほどね・・・。起こりえないというのが気になるな、君が今着ている、破れても元に戻る魔法細菌の衣も生物学的には起こりえない現象ともいえる気もするけど?」


蔭蔓カゲル「僕も、そこら辺よくわからないんです。」


 いつの間にか、質問する側が質問されている側になっている。


繋木ツナギ「というかさ、何でそんなヤバそうなこと調べているの?」


蔭蔓カゲル「まぁ、知ったのは偶然ですけど、そしたら興味がわいてしまって。」


 繋木ツナギ氏は肩をすくめた。


繋木ツナギ「そうかぁ、ほらぁ僕、研究者とかじゃないからさー。」


 アミテロス魔法学校の大株主の一人であるほどの資産家であれば、闇魔法についても知っているだろうと思ったが、はずれだったようだ。あるいは、単に知らないふりされただけだろうか。


 しかし、繋木ツナギ氏は何か思いついたようだった。


繋木ツナギ「ただーし確かに、僕とカスミちゃんの魔法は特殊だ。隠遁生活は仕方ない。カスミちゃんを養子にしたのも、彼女を魔法使い狩りから保護するためだったりする。」


カスミ「はーいはい。」


 カスミはやや苛立たし気に、新しい羊羹を食べ始めた。しかし、否定はしなかったところを見るとある程度感謝しているのだろうか。


繋木ツナギ「まだ、何かあるという顔だね?」


 視線を戻すと、繋木ツナギ氏と目が合ったので下に戻した。


蔭蔓カゲル「あぁいえ、自分の植物にも特殊な性質があるかどうかを調べたくて、裏の耕していない畑を6畳間ぐらい使わせていただけないでしょうか・・・。」


繋木ツナギ「おっと、それなら喜んで!・・・そうだ、丁度いい場所がある。カスミちゃん、林の奥の倉庫に案内してあげなさい!」


 カスミは羊羹を食べる手を止めた。繋木ツナギ氏を見る彼女の眼は彼の正気を疑っているように見える。


カスミ「あそこは・・・。」


 神のおきてに触れるとでもいいそうな表情だった。


繋木ツナギ「あれ、片付いているんじゃなかったっけ?」


カスミ「片付いてはいるけどさ・・・。」



繋木ツナギ「じゃ、オネガイカスミちゃん!」


 カスミが何を気にしているのかは蔭蔓カゲルにはわからなかったが、ひとまず、カスミの一存で話が無しになるようではなかったので、一息ついた。


カスミ「・・・ある日突然、ちゃんちゃんにならないように気を付けてくださいね!?」


繋木ツナギ「最近の女の子は怖いなぁ。」


 うん、それは間違ってない。


繋木ツナギ「まぁだから、そういうことだ。蔭蔓カゲル君。」


 え、どういうこと?


8月19日 午後3時半頃 屋敷の裏庭にて 蔭蔓カゲル


 カスミに案内されて、蔭蔓カゲルは屋敷の裏側に回った。神那カンナ将器ショウキがよく練習試合している裏の広場を通り、屋敷を囲む雑木林を通った。その先には、小さな瓦葺屋根の倉庫一つと小さな畑があった。その向かって右側には特徴的な赤い樹が数本生えている。


蔭蔓カゲル「あれは・・・。」


 蔭蔓カゲルは思わず立ち止まった。カスミは振り返った。


蔭蔓カゲル「あの羊歯の樹、松葉蘭マツバランを大きくしたようなやつ。」


カスミ「あぁ、お化け松葉マツバね・・・。」


 そういうと、カスミは何事もなかったかのように、今まで通り無言で進み続けた。


 そのお化け松葉マツバという巨大な赤い松葉蘭マツバランは間違いなく蔭蔓カゲルが黒ローブと二回目に遭遇した後に見た夢に出てきたものだった。


カスミ「あのさ、大丈夫?」


 気づくと表面には倉庫本体が迫っていて、あと一歩で衝突するところだった。


カスミ「はい鍵ね。」


 カスミは強引に蔭蔓カゲルに鍵を手渡した。


カスミ「ま、たまに様子見ぐらいはいったげる。スーパーシダ使いとしてね。じゃ、せいぜい頑張れもやし。」


蔭蔓カゲル「なな、なんじゃそりゃ。」


 その後、何も言わずにカスミは立ち去ったが、少し楽しそうに見えた。白の浴衣にと藤色の帯は、彼女の銀髪と紫の瞳によく似あっていた。


 蔭蔓カゲルは今この瞬間、不思議ととても落ち着いている。

 

 なぜだろう・・・、とても落ち着くような気がするのは・・・。


 案内された倉庫は、倉庫というより、一部屋だけの畳の部屋だった。少々手入れが行き届いていなく、ほこりがたまっているが、調査にはもってこいの環境だ。


 早速、蔭蔓カゲルは購入した本等々の移動から始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ