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1章50話『リプロスの魔獣市』

8月12日 早朝 ヘリアンフォラ畑に続くヘリアンフォラ前にて 蔭蔓カゲル


 翌朝、集合場所のヘリアンフォラ畑に続くヘリアンフォラの前に4人は待機していた。集合時間を30分以上過ぎたあるとき、目をこすりながらカスミは現れた。


カスミ「・・・あら、随分早いじゃないっ!」


 カスミは無言で歩き続けた。今日は皆、市場に行くということで全身灰色がかった紺のウィザードローブに、狐や猫や翁の面を付けている。ラルタロスのものとの違いは面の柄だろう。もちろん、全て繋木ツナギ氏に借り受けたものである。氏は、世界を転々としながら、こういった外出に必要な道具も集めているそうだ。


カスミ「まぁ、必需品は朝の市場でまとめ買いが安いわ。」


あずさ「詳しいのね。」


カスミ「通っているから。」


将器ショウキ「へぇー、それじゃあ案内よろしくな。」


 カスミ将器ショウキを無視してヘリアンフォラをくぐっていった。皆後に続いた。


 また洞窟出るのかと思えば大きな密室に到着した。天井からは眩しい人工照明が生えており、多湿で冷涼な部屋だ。床は石や苔でできていて、その一帯に、繋木ツナギ氏のヘリアンフォラを含めて数種類の食虫植物が植わっている。


 どれも人間を捕食袋に入れられる巨大植物で普通の種ではないことだけは確か。


 呆気に取られている4人をおいたままカスミは進んだ。カスミが正面の壁に向かって指を細かく動かすと、壁と同化していた長方形の扉が横に開き、さらに奥の部屋が現れた。


 奥の部屋も窓はなく、壁は本棚になっており、壁沿いにほとんど何もない作業机が並んでいる。


将器ショウキ「厳重だな。」


蔭蔓カゲル「外で昔話とかするなよ?」


将器ショウキ「大丈夫、大丈夫だって。」


 カスミ将器ショウキの返答を待たずに、今度は4人の方に向かって、もう一度指を振るった。すると、通ってきた扉が閉まり、その後、カスミの奥壁に隠れていた別のドアが開いた。


カスミ「ここ。」


 ようやく光の入る部屋にたどり着いた。そこから階段を上がりついに地上に出た。どうやらいままでは地下だったらしい。


 9年半ぶりのリプロスの空は晴れていた。今までいた建物は、2階建ての屋台が立ち並んだ通りにある建物の一つだった。


 街並みはラルタロスとよく似ていて、瓦の部分もあれば、植物の塊が住宅の一部になっている部分もあるといった感じだ。


 いつの間にか裏の軒から、大きな荷台を引っ張り出してきたカスミに案内されて、近く川沿いで開かれている魔獣市についた。

 

 魔獣市の市場は賑やかで、シュールだった。何百人もの魔法使いが、着物の上から全身ローブをまとい、翁、鬼、天狗や動物の仮面をつけて列をなし、小声で結界石やらスモークボールやら刀剣やらその他兵器を購入している。


カスミ「ここだよ。よく覚えときな。」


 あずさはどこからともなく入手してきた地図に印を付けている。


将器ショウキ「まずは、魔法細菌の衣服からか。」


 魔法細菌の衣服というのは、文字通り生きた細菌の繊維で編まれていて、破れにくく破れても勝手に修復される衣服のこと。店を探して訪れてみたのは良いが、やはり高額だった。


あずさ「とりあえず、約57万3wとラルタロスから持ってきた19万3千wで76万6千wぐらいあるけど、下に着る上下のセットぐらいに押さえておきましょうか。」


 というわけで、魔獣狩りらしく格好よく武装できる日はまだまだ先だ。4人分の金額、すなわち、20万wを払って撤退。あとは、手分けして生活必需品を購入した。


あずさ「あ、薬買い忘れた。あたし、将器ショウキともう一度薬屋さん見てくるわ。」


神那カンナ「場所はわかる?」


あずさ「ええ。さっきメモしておいたからね。」


 そういって、ごくごく自然にあずさと将器ショウキはミニデートに出かけた。


神那カンナ「私、そこの武器屋台を見てきていいかな?」


カスミ「はァ—どーぞ。」


 カスミは眠いから話しかけるなと言いたげにあしらった。


蔭蔓カゲル「俺は古本見たいんだけど。」


カスミ「はぁ?古本屋?ん——、一番大きいのは、三つ目の十字路右曲がってすぐ。」


カスミ「って!荷物番かよっ!!」


蔭蔓カゲル「すぐ戻る。」


 猫の仮面の下から彼女の殺気を感じたが、気づかないふりしてそのまま逃げた。


 古本屋は3階建てで、地上に2階、地下に1階だ。一応、このあたりで一番大きな古本屋ということなので、ある程度期待している。


 巡回するには数時間かかりそうだが、時間もないのでまずは軽く魔術書のコーナーからあさりはじめた。けれども、やはり面白いものは見当たらない。


 なにせ、ラルタロス魔法学校の附属図書館を数カ月かけてあさっているので、既に見たような本ばかり並んでいるように見えてしまう。


 そして、本命の地下1階の童話や物語のコーナーに行った。


 魔法というのははるか昔からあるので、魔法にまつわる童話というのももちろんある。植物魔法にまつわるものだって多い。


 『マンドレイク兄弟』、『桃クローンの鬼退治』、『お化けカボチャと魔女』か・・・。


 こうしてみると、童話に出てくる植物魔法って変なやつばっかりだな。これ全部闇魔法とか?


 例えばマンドレイク兄弟は、マンドレイクという植物の兄弟が言語的に意思疎通している時点で普通あり得ない。そもそもこれは植物と言えるのだろうか。


『蛇イチゴと野イチゴ』、『どんぐりと背比べ』、・・・・・・


 ・・・、『黒百合の少女』、・・・。


 あ、黒百合。


 黒百合には聞き覚えがあった。それは、開縁カイエンの闇魔法研究の契機となったハイドロス消失事件だ。


 昨日、あずさに魔獣狩り史の教科書を借りて読んだところ、ハイドロスはラルタロスの北東部にある街らしく、確かに戦前に一度街全体が黒百合に覆われるという怪事件があったことが記されていた。


 蔭蔓カゲルはその本を思わず手に取った。刷られてから何十年も経過している本のようで、ページが焼けていて虫食いや蛾の繭の跡がある。出版されたのも今から40年以上前と消失事件の前になる。


 内容は、とある小さな村の黒百合使いの少女が村を通りすがった怪しい旅人に触発されて、自分も魔法使いになるために村を後にするというありがちなものだった。


 が、黒百合なので即購入。


 他にも、面白そうな本が数冊ある。全て合計しても、1万wはいかないし、そのぐらいの余裕はある。というわけで全部購入。


 会計を済ませて本屋を出ると、暖簾の向こう側から仮面に全身ローブの不気味な4人組がのぞいている。仮面の下から明らかにみられている。


 大丈夫。冷静に対処しよう。


カスミ「遅いっ!!!」


蔭蔓カゲル「あぁぁ・・・、知っていたけど、ごめん・・・なさい。」


 2時間近く過ぎていた。

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