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1章46話『決戦、灰大蛇』(挿絵有)

8月8日(水) 午前5時半頃? 草封クサフウじのトウゲにて 蔭蔓カゲル


 蔭蔓カゲルは今日も迷っていた。


 優柔不断だからではない、慎重で厳格だからだ。


 神那カンナ開縁カイエンは信じられない。なぜなら、2人とも信じるに値する行動を取っていないからだ。例えば、今も黒ローブをおびき出すために非常に巧妙に弄ばれている可能性を否定できない。


 まぁ、そうだとしても、俺に何かできるわけでもないけどさ。


 しかし、振り返れば、“闇魔法”という言葉を開縁カイエン和尚の前で口にするなど、迂闊な行動が目立っているのも事実だ。蔭蔓カゲルはそれを、自身が2人を信じていないとしていても、実際は、安全視しているからだと分析した。


 いや、まてよ。まだ騙されているとすればそれは、黒ローブに関する目的があってのことだろうし、だとすれば今更、蔭蔓カゲルが“闇魔法”なんて口にしたって問題ないはずだ。なぜなら、黒ローブが盗んだのは闇魔法に関する書籍のようで、開縁カイエンが聞き出したいのはそういう類のことということになるから。


 その場合、開縁カイエンの目論見通り蔭蔓カゲルが動いているということに過ぎない。


 我ながら悲観的だな。


 いずれにせよ、神那カンナは信頼できない。けれど、戦力の都合上彼女に背中を預けるしかない。なら、そうするまでだ。


 蔭蔓カゲルは刀を抜いた。今まさにこの瞬間、100mを超える大蛇が正面から迫って来ている。


挿絵(By みてみん)


蔭蔓カゲル「じゃあ、手はず通り。」


神那カンナ「ええ。」


 透明となった将器ショウキは遺跡の中心部に向かい、あずさ、カスミは所定の位置についた、いまから神那カンナと実行するのはあの灰大蛇の動きを完全に封じる作戦。


 そのために、少なくとも満たされるべき条件が3つあった。それは、神那カンナの光が蛇の身体を貫通できること、あずさの用意した1リットルの毒薬を蛇に注入すること、そして、蛇の身体が再生するよりも、蔭蔓カゲル鱗木レプトフリーアムが成長するほうが短時間であることだ。


 残念ながら、戦いながら検証するしかない。


神那カンナ終焉光エンド・レイ!」


 神那カンナが殺魔獣光線を放った。無駄口をたたいている暇はない。


蔭蔓カゲル鱗木レプトフリーアム!」


 蔭蔓カゲルは彼女の盾となるように鱗木レプトフリーアムを生やした。そして、これは鱗木レプトフリーアムによる胞子崩壊ほうしほうかいの準備でもある。


神那カンナ「通った!!」


 正面をみると、神那カンナの魔法が灰大蛇の口から貫通して、のどの後ろに大きな穴が開いている。蛇は目を充血させてこちらを睨んでいる。あっけなく第一条件は成立。


あずさ「計っている。続けて!」


 神那カンナはそのまま灰大蛇に飛び込み、持っていた注射器で毒薬を傷口から注入。


 蔭蔓カゲルは、灰大蛇の左側へ回り込むように走りこんだ。今の蔭蔓カゲルが植物を操れるのは自分を中心として半径11~12m程度。幸い、峠に強風は吹いていなかったが、それすなわち、自分で胞子を辺り一面にばらまく必要があるということだ。


 100mの相手を胞子崩壊ほうしほうかいさせるには、敵陣に踏み込んでいく必要がある。


 そして、身体に穴が開いているとはいえ、灰大蛇がみすみす見逃してくれるはずはない。


蔭蔓カゲル「あぶねぇっ!」


 巨大な尾の攻撃を間一髪鱗木レプトフリーアムで防いだ。しかし、鱗木レプトフリーアムは衝撃で勢いよく曲げられて、蔭蔓カゲルは危うく下敷きになるところだった。


カスミ「おい、モヤシ!面倒なことになんなよ!」


 カスミが遠くで罵倒した。彼女なりの応援の仕方だと考えよう。


 それにしても、モヤシって何ですかねぇ。けど、今ので胞子が結構飛散したな。後は背後へ回り込めば。


 と、そのとき灰大蛇は後ろにも視界があるのか、再び尾を動かした。尾は見事に蔭蔓カゲルに衝突し、蔭蔓カゲルは峠の端に吹っ飛ばされた。


蔭蔓カゲル「うわっ!!日陰蔓ヒカゲノカズラ!」


 日陰蔓ヒカゲノカズラでどうにか、近くの巨大な岩石にしがみついた。背後では、霧で底の見えない峠がのぞいている。


 これは、やばいな。


神那カンナ「させない!」


 神那カンナ数発終焉光エンドレイを放った。見事に命中し、蔭蔓カゲルは一命を取り留めた。


あずさ「20秒よ!!」


 再び走り出すと、あずさの声が聞こえてきた。10秒あれば、鱗木レプトフリーアムを40mの高さまで成長させられる。三つ目の条件もクリア。胞子崩壊ほうしほうかいの準備も整った。


 ここで、灰大蛇の動きが急激に鈍くなった。運動神経の機能を停止する毒薬が効いたのだ。これで二つ目の条件も満たした。


蔭蔓カゲル「行くぞ、まずは尾だ!」


 先ほどの神那カンナの一撃で、穴の開いた尾に蔭蔓カゲル鱗木レプトフリーアムを打ち込んだ。


 気持ちはどうあれ、今は神那カンナ吐息を合わせないといけない。


蔭蔓カゲル「どんどん尾から頭へ!」


 蛇の動きが非常に鈍くなったことを良いことに、同じ操作を繰り返し、物理的に動けなくしてしまおうという作戦だ。。


神那カンナ「行くわ、終焉光エンドレイ終焉光エンドレイ!・・・。」


 神那カンナ終焉光エンドレイを連射、一本一本が100mの蛇に穴を空あける破壊力だ。


 神那カンナは蛇に攻撃の隙を与えずに、次々と蛇の身体に穴をあけていった。こんな無茶苦茶な攻撃ができるのは、流石神那カンナといったところか。


 蔭蔓カゲルも一本、二本、三本、・・・、と鱗木レプトフリーアムをその穴に打ち込んでいった。神那カンナほどの連射はできないので、頭の方は打つ前に修復されてしまったが、神那カンナが再度穴をあけた。


蔭蔓カゲル「止めだ!」


 ついに、のどの下から頭の上に鱗木レプトフリーアムを貫通させた。鱗木レプトフリーアムは成長すると頂端部が広がる植物だ。それが服のボタンのように機能して、蛇がどうあがいても動きが取れなくなる。


 フンッ、予想通り、作戦の勝利だ。


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8月8日(水) 午前5時半頃? 草封クサフウじのトウゲにて あずさ


カスミ「うわ、ムカつく。」


あずさ「馬鹿にし過ぎたわね。100年早いわ。」


カスミ「はっ、100年生きてから言えっての。」


 100年か・・・。嫌なことを思い出してしまった。


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8月8日(水) 午前5時半頃? 草封クサフウじのトウゲにて 蔭蔓カゲル


 蔭蔓カゲルは疲労感に狼狽えながら、最初の地点、神那カンナのいる地点に戻った。


蔭蔓カゲル「・・・どうも、飛ばされたときは命拾いしました。」


 助けられたから礼を言う。これは不自然ではないだろう。


神那カンナ「・・・ええ。大したことじゃないわ。」


蔭蔓カゲル「あとは、将器ショウキが戻るのを待てばいい。」


カスミ「おい、モヤシ!!」


 振り返ると、カスミが指をさしている。カスミがさした先には、鱗木レプトフリーアムの杭を十数本打ち込まれた惨めな大蛇がいるはずだ。しかし、実際には、灰大蛇は自分の身体を少しずつ溶かしては再生し、徐々に徐々に鱗木レプトフリーアムの杭から抜け出し始めている。


 体を溶かすスピードはかなり遅いことが唯一の救いだが、5分もあれば、杭一本は抜けられてしまうだろう。


蔭蔓カゲル「うわ。」


あずさ「いけるの!?」


蔭蔓カゲル「わからん。」


神那カンナ「行くわよ。」


蔭蔓カゲル「・・・ああ。」


 蔭蔓カゲルはあと8本も鱗木レプトフリーアムを打てば魔力切れを起こしそうだったが、神那カンナは、魔力に十分な余裕があるようだ。


 昔、彼女の攻撃の限界回数を聞いたが、今日は既にその回数ぐらいの光を放っている。彼女のキレのある動きから察して、やはりそれも嘘だったということなのだろう。ならば、蔭蔓カゲル将器ショウキ、あずさなどとは桁違いに魔法を使えることになる。


 こいつ、いったい何者なんだ・・・。


蔭蔓カゲル「とりあえず、魔力を使い果たすまで同じことを繰り返すまでだ。後戻りはできない。」


神那カンナ「ええ。」


 蔭蔓カゲルと抜けられそうになっては打ち直し、打ち直し、打ち直した。


蔭蔓カゲル鱗木レプトフリーアム!!」


神那カンナ終焉光エンドレイ!!」


 ・・・もう20分ぐらいは稼いだだろうか。なら、後同じぐらい稼げれば十分だろう。


 わかってはいたものの、ついに魔力が底をついた。まいった。こればっかりはどうにもならない。自分の魔法には自信があるが、敵も味方も今回は桁が違いすぎるのだ。例えていうなら、象同士の喧嘩に、乱入した鼠が蔭蔓カゲルだ。神那カンナもあずさも気づいているだろう。少なくとも、隣で魔法を打っている神那カンナの表情は暗かった。


カスミ「ちょっと、止まってないで、早くしないと。」


蔭蔓カゲル「・・・そろそろ限界なんだ・・・。」


カスミ「あ、力尽きたか・・・。」


 カスミとあずさが駆け寄ってきた。


蔭蔓カゲル「はい、そうです。弱くてごめんなさいね・・・。」


あずさ「将器ショウキさえ帰ってくればもう撤退するだけなのに・・・。」


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8月8日(水) 午前6時半頃? 草封クサフウじのトウゲにて 将器ショウキ


 将器ショウキは遺跡の中心部にいた。中心部には、入口の門と同じ青みの強い黒色の金属でできた、大小さまざまな球体が岩石に紛れて横たわっている。見たこともない不気味な光景に思わず、目を疑ってしまう。


 しかし、一際大きいものが中心部に一つあった。それは、将器ショウキの身長ぐらいの半径を持つ球体で、円形の穴が開いている。


 これじゃないのか?


 将器ショウキは直感に従って、その中に入った。


 大きな蛇じゃ、唯一治療ができるあずさが戦線離脱できない。けど本当は、あずさが来た方が良かったんだろうな・・・。


 内部はやはり球をくりぬいたような空洞だったが、壁面に、将器ショウキの顔ぐらいの大きさの円形の渦巻状の指紋のようなものが一面に、周密に刻まれている。


 宗教的な模様?それか、暗号、言語の類か?どれも、俺向きじゃないんだが・・・。やっぱりこの計画、探しに行く人間、間違っているだろ。


 将器ショウキは後ずさると、左足に金属がぶつかる音がした。見れば、黒い金属の人差し指ぐらいの直方体が足の横にあるではないか。


将器ショウキ「あ。」


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8月8日(水) 午前5時半頃? 草封クサフウじのトウゲにて 蔭蔓カゲル


カスミ「全くだらしない。」


蔭蔓カゲル「自分で自分を解かしてくること想定していませんでした。」


あずさ「今、するべき後悔じゃないわ。」


 カスミが構えると、蔭蔓カゲルが埋めるはずだった蛇の喉の穴に、突如、白い何かがグサリと刺さった。


 そういえば、カスミの手から地面に何か生えているな・・・。


あずさ「今度は何?」


 凝視すると、白い何かは巨大な土筆のような形状をしているが、材質は水晶か何かのようだ。曇り空から微々たる光を集めて、巨大な土筆は不気味に輝いている。


 そして、巨大な土筆で、蔭蔓カゲルが思い当たる植物はただ一種類。


カスミ蘆木カラミテス!」

蔭蔓カゲル「シダ植物の蘆木カラミテス・・・。」


カスミ「御名答。」


神那カンナ「あれは、植物じゃなくてクリスタルに見えるけれど・・・。」


カスミ「クリスタル?そんなんじゃないよ。あれ、ダイアモンドだから。」


蔭蔓カゲル「どうなってんのかは知らないが・・・。後は頼んだ!」


カスミ「あっさり、引き下がるのかい・・・。まぁ任せな。」


 蘆木カラミテスと言えば、鱗木レプトフリーアムに並ぶ巨大なシダ植物だ。その形状は土筆のスギナそのもの。先端がボタンのように機能することはないだろうが、ダイアモンドならば、無数の返し針のように機能して蛇の動きを封じることができるかもしれない!


 カスミはおそらく、地下茎を使って、峠一帯に既に魔法の仕掛けをしたのではないだろうか。だとすればどこからでも、植物を操ることができる。今、この峠一帯は、彼女の場になっていることになる。


あずさ「これなら時間が稼げるわ。悔しいけど、確かにあなたの実力も認めてあげるわ。」


 後は、本当に将器ショウキを待って撤退するだけだ。


カスミ「まだ、あのワンコは帰ってこないのかよ。」


あずさ「少し遅いわね。」


 あずさは、冷静に時計を確認した。


神那カンナカスミ、できる!?」


カスミ「余裕だよっ!!」


 カスミ神那カンナは灰大蛇の動きを封じ続けた。


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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲ、遺跡中心部にて  将器ショウキ


 目的の品らしきものを見つけるところまではいきすぎなほどうまくいった。問題は、それを拾って、懐の中にしまってからだった。


 将器ショウキが黒い球体の建物を出ると、あれらがいた。


 今、将器ショウキは大小さまざまな色蛇カラースネークに囲まれている。


将器ショウキ「倒しきるしかないな。」


 将器ショウキは刀を抜き、大地から抜き取った水を構えた。水分を含んだ物体から無理やり、水分だけ抜き取ることができるようになったのだ。もちろん、魔獣からだって抜き取れる。


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8月8日(水) 午前6時12分 草封クサフウじのトウゲにて あずさ


 将器ショウキが帰ってきた。全身に魔獣の体液が付着している。将器ショウキはあずさの肩を軽くたたいた。


あずさ「無事でよかった。」


将器ショウキ「こっちは、抜かりないぜ。多分な。」


あずさ「多分?まぁ、全員無事に帰ってからにしましょう。」


 そのときだった。


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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲにて 神那カンナ


 まさかそんなことになるとは思わなかった。


 将器ショウキが戻って、カスミ蔭蔓カゲルのいる、元の位置に戻り、あずさが将器ショウキと無事合流したその時だった。


神那カンナ蔭蔓カゲル、危ないっ!!」


 灰大蛇が口の中から舌を出したかと思えば、舌の先端は蔭蔓カゲルを丸呑みできるほどの大きさの大蛇だった。気づいたときには、蛇の頭は蔭蔓カゲルのとなりにあった。神那カンナにできることはただ一つだった。


 神那カンナ蔭蔓カゲルを突き飛ばし、代わりに頭から噛まれた。


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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲにて 蔭蔓カゲル


蔭蔓カゲル「嘘、だろ・・・。」


 辺り一面に神那カンナの血が飛び散った。


 目の前で、一度は蔭蔓カゲルを追い詰めた魔女は、底知れぬ魔力を持つ正体不明の天才は、何度も蔭蔓カゲルの命を救った女性は、「早く・・・。」といって動かなくなった。死んだのだろうか。


 途端、灰大蛇は暴れ出した。


 この蛇、狙ってやがったな・・・。


 今なすべき、合理的な選択は出ている。撤退だ。


 しかし、できなかった。誰もがその場に凍り付いた。


 神那カンナが、やられた。

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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲにて 神那カンナ


 神那カンナはまだ生きている。


 たとえ、私の力、この忌まわしき力を使ってでもアミ魔の皆を守ること。私は、私の誓いを守る。


 私はあるまじ木忌だ。この世界で最も魔法に愛された存在だ。存在する天災だ。私は守る。仲間を生かす。


 神那カンナは魔力を解き放った。


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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲにて 蔭蔓カゲル


 次の瞬間起きたことは、完全に蔭蔓カゲルの理解を超えていた。


神那カンナ「我、力を解き放つ。わが身に宿りし、ヒトよ、忌まわしき大蛇を討て!!」


 ぐったりしていた神那カンナが、突然叫び出した。それはいい。まだ彼女は生きていた。


 しかし、それだけではなかった。彼女の全身にヒトが生え始め、手足には鱗が生え、関節は龍のように盛り上がり、舌の蛇の頭部は蒸発して無くなった。そしてそこには、彼女の手よりも長く立派な2本の角があった。神那カンナは人間ではなくなっていた。


 本当に、人間じゃなかったんだな


 明け方の雲のような淡い青紫色のしなやかな髪をたなびかせながら、神那カンナは曇り空へ飛びあがった。


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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲにて 神那カンナ


 時間はない、怪我をしていることには変わりない。恐らく後一回魔法を撃てば気絶するだろう。倒せる保証はない。


 できるだけ高く飛び、ありったけのヒトを放つ。ものすごい勢いで灰大蛇の全身はヒトで覆われ、蛇は呻いた。無理もない、全身の魔力を吸われてしまったのだから。そして、にじみ出る蛇の魔力を吸って、ヒトは勝手に成長した。もちろん、成長に制限はかけていない。


 壊しつくせ、私のカイブツ


 逃げようと、必死に動く蛇の努力はむなしく終わり、魔力を吸い取られては何もできない。


 私、皆を助けられたかな・・・。


 神那カンナは空中で気絶した。


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8月8日(水) 午前6時頃 草封クサフウじのトウゲにて 蔭蔓カゲル


 蔭蔓カゲルは、力を振り絞って鱗木レプトフリーアムを生やした。それに自ら乗り空中で神那カンナを受け止めた。


蔭蔓カゲル「悪かった。本当にごめん・・・。」


 神那カンナは気を失っており、噛まれた個所から青灰の血がひしひしと流れ続けている。


蔭蔓カゲル「あずさ。頼む。神那カンナを助けてくれぇ・・・。」


 頼りなくわめいた。


 人間じゃないとかどうでもいい。助けないといけないんだ。


カスミ「まず、降りろよ。」


 確かに・・・。


 カスミ蘆木カラミテスを複数、鱗木レプトフリーアムの隣に生やしたので、神那カンナを背負い、日陰蔓ヒカゲノカズラで彼女を背中に結わき付け、蘆木カラミテスを伝いながら、何とか降りた。


あずさ「治療したいところだけど、あれを見て。」


 最初から、あのやばい植物で蛇を一撃で仕留められたのではないかと、ふと思い浮かんだが、それは無理だったとすぐに判明した。


 骨と皮だけになったと思われた灰大蛇は、霧のように離散してヒトの外へはい出てからアメーバ状になり、集合して再び個体を形成し始めた。それはとても鈍かったが、ここにはもういられない。


将器ショウキ「切り替えるんだ皆。それが、神那カンナを助けることにもつながる。」


蔭蔓カゲル「わかってるさ。」


 蔭蔓カゲル神那カンナを負ぶったまま、全員が遺跡の外にあるヘリアンフォラに走った。


カスミ「あんたから入りな。殿はワンコね。」


将器ショウキ「なんだよ、ワンコって。」


あずさ「時間がない。急いで。」


将器ショウキ「おうよ。」


 ロープを登って、ヘリアンフォラ畑に戻った。日陰蔓ヒカゲノカズラを細胞死させて、神那カンナを草むらに寝かせた。ひとまず、服を切って傷口を抑え始めた。


 仮に神那カンナがまだ俺を騙していることがあるとしても、彼女は命の危険を冒して、何度も俺を守ってくれていた。むしろ、彼女を上手く利用していたのは俺だったのかもしれない。


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