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1章44話『木忌まわしき力への決断』

8月1日(水) 午前10時半頃 繋木ツナギ氏の館にて カスミ


 話し合いが終わり、面倒な4人組を別室に退かせると、カスミ早速繋木ツナギを問い詰めた。


カスミ「あそこに4人を行かせるつもりなの。」


ハジメ「もちろんだとも。」


 ハジメは極めて自信があるようにいってみせた。


カスミ「あたしたちで無理だったのに、できるわけがないでしょ。あんたもうちょい深く考えたらどうなの。」


ハジメ「ちょいちょい、一応恩人に向かって、あんたってなにさ。あんたって。泣いちゃうよ。」


 カスミは軽蔑の眼差しを向けた。繋木ツナギはため息をついてから弁解を言い始めた。


ハジメ「聞くところによると、あの髪の短い方の少女はあれだ。」


カスミ「あれって・・・。まさか。」


ハジメ「ああ。その通り。」


 カスミは一瞬、耳を疑った。そんなことがありうるのだろうか。


カスミ「あのこが・・・嘘でしょ!?でも、人間にしか見えないけど・・・。」


ハジメ「人型なだけだろう。」


カスミ「なら・・・。」


 カスミは暫らく下を向いて黙り込んだ。なら、繋木ツナギの行動が無謀ではない。が、おとなしく引き下がるのは性分じゃない。すぐに顔を上げた反撃に出た。


カスミ「あんまり滅茶苦茶言っていると、夕食、イナゴのから揚げにしますから。」


 すると、少し得意げな繋木ツナギの顔から、笑みが一瞬だけ消えた。


ハジメ「本当にそれはやめてね!!虫料理とかしゃれにならないから!!蒸した幼虫ようちゅうパンとかほんとやめてね!!!蒸した幼虫むしパンだって。僕天才!!!」


 あら、追撃が必要のようね。


カスミ「さすが、食虫植物ヘリアンフォラ使い。一人で食べてください。私は遠慮します。」


ハジメ「失礼な。僕のヘリアンフォラ・ダーク・マジョールはただの虫は食べないぞ!?君こそ、感想を聞かせてほしい。彼についての。」


 答えたくないことだ。撤退しよう。


カスミ「・・・いつかね。それと、今回は、私も同行するわ。」


ハジメ「わかった。」


 繋木ツナギが、次の口を開かないうちに、カスミは作業に取り掛かるため、台所に向かっていた。


8月3日(金) 午前6時半頃 館の裏庭にて 神那カンナ


 蔭蔓カゲルの怪我が治るまでの数日、準備も兼ねて繋木ツナギ氏の館に4人は泊まることになった。カスミという少女は、館の家事を担当しているようだったけれど、かなり自由にしているように見えた。色々聞きたいこともあったけれど、相変わらずの不愛想ぶりで、神那カンナはあまり質問することはしなかった。


 4人はと言えば、お互い食事のときや、集まるとき以外は積極的に会話することはあまりなく、静かにそれぞれ自分のしたいことをしていた。神那カンナの予定の無い休日の過ごし方は決まっていて、朝食後にはすぐ自主稽古に向かった。


 神那カンナは裏庭の少し開けた場所に一際美しい赤い幹のシダの樹が植わっていることに気が付いた。なんとなく引かれて、そこで稽古をすることにした。が、今日はあまり集中することができず、休憩するとその赤い樹の下に座り込んだ。


 蔭蔓カゲルに言われて気付いたことがある。それは、私は私なりに、白銀寮から抜け出すためにできることをしてきたつもりだったけれど、私が思っていた以上に、私は私のことしか考えていなかったこと。


 皆私を心のどこかでは軽蔑しているのだろう。あたりまえだ。私は罪をおかしながら、そうするしかなかったと言って、その立場から自由になりたいとさえ願っているのだから。自分だけは助かりたいといっているのだから。そんな都合のいい人を誰が、認められるというの?


 でも、私は生きるって決めたんだ。ウジ虫のように這いずってでも生きてゆくって。私がどんなものだって、明るい未来が待っていなくたって。あのときそう決めたんだ。兄さんにそう伝えたのだから。兄さんは私を信じて逝ったのだから。私は過去の私の気持ちも、兄さんが最期に作ったあの笑顔も決して裏切りはしないんだ。


 だけれど、私は罪深い。私は、私が助けると誓っていた蔭蔓カゲルさえ傷つけた。いくつもの取り返しがつかないことをした。それなのにあずさや将器ショウキには気をつかわせて。話し合うことから逃げて。けれども黙って一緒にいて。私はなんてずるいのだろう。なんて救い難いのだろう———。


 このままではいけない。もっと役に立たなければいけない。蔭蔓カゲルと巻き込んでしまった2人を助けるために。3人がまたラルタロス魔法学校に戻れるようにするために。今までに犯してしまった、償いきれない罪を、それでも償おうとするために。償い続けるために。それなしに、私は生きていてはいけない。私がのうのうと生きることなんて、決して許されることはない。


 でも、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば・・・・・・。


 気づけば神那カンナは泣いていた。赤い大きな松葉蘭シダの樹の下で。


  いけない。


 神那カンナは我に返った。そして、稽古を再開した。


 少なくとも、今できることはすべて、3人のためにできることはすべてしなければ。

 

 そう考えると何をすればいいかということは明らかにも思えた。いや、明らかというより、他に方法が思いつかないだけだ。あの最悪の方法以外には。今まで頑なに使わなかった方法以外には。


 でも、でも、3人は助ける。たとえ、私の力、この忌まわしき力を使ってでも・・・。


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